2-3.同。~閃光を見出されて~
~~~~悩みは尽きない。それもこれも、ゲームってやつのせいだ。
「そんなに急ぐの?」
何の気配もなかったと思うのだけど……後ろから声がした。
さすがにびっくりして振り向いた。
「エリアル様……いつの間に」
エリアル様が、クルマの天井に両腕を組んで乗せていて……ボクを見ている。
お仕着せ姿で黒髪黒目、少し肌が浅黒くて、神秘的な印象。いたずらっぽく微笑んでいる。
フィリねぇはむしろ肌は白い。彼女はお父さま似なのかな。
しかしこの人、当たり前のように人の考えてること当ててくるなぁ。
「ウィスタリアは、未来から戻ってきたのね?」
「う、はい」
「呪いの子、と呼ばれているわ。そういうの。
魔物の使う呪いに近い原理で、過去へ遡ってくると言われている」
あるんかそういうの。なんて不思議半島だ。
初めて聞いた……わけじゃないな。
そういや、友達に自称「呪いの子」がおったわ。
彼女は確かに、先のちょっとしたことを知っていた。
けど、肝心な時になると微妙に頼りにならないんだよね。
未来ってたくさんあるらしくて、必ず自分の知るものにはならないらしい。
あと、未来に引っ張られるって話もしてたっけ。
決まってしまった流れが来ると、動けなくなるって。
しかし、呪いの子、ね。
これから王国行くんだけどなあ。
「王国民に狩られそうですね、それ」
エングレイブ王国は長く魔物と戦っているので、魔物が使う呪いも目の敵にしている。
「王国の人は、そんなことしないわ。
魔物の殺し過ぎで、呪縛にとらわれることもあるのよ?」
「あー……そういえばそんな話、聞いたことがあります」
呪縛ってのは、自分が呪われちゃうやつだな。
人を呪う場合は、呪詛っていうんだっけ。
「呪い、と言えば。今日はクストの根が見えるわね」
「くすとのね?」
エリアル様が、西の彼方を指さす。
その方向に……結構大きな木?がある。
魔境に、木。何の作物も育たないはずの、あそこで?
……あれ、ストックが来る前に、見たような、気が。
「あの位置に稀に見るという、木の根のような何か。
魔物なのか、別の何かなのかはよくわかっていない。
呪いの産物だ、という話もあるわね」
…………この方にしては、あいまいなことを話すな。
「木、ではないのですね」
「ええ。近くで見るとわかるわよ。
年々短くなっていくそうだけど」
いろいろ謎現象や謎物質を目にすることがあるこの半島だが。
その中でも有数に珍妙な代物だな……しかも見えないこともある、か。
それで以前あのあたりを通ったとき、ボクは何も見なかったのか?
「それで?」
ん、最初の質問か。
「急ぎます。詳細がわからないので、時間は足りないと見積もってます。
場合によっては……帝国の公爵領に攻め入らないといけません」
「攻め込む、ね。そうできる算段をも、あるということ?」
「あります。ただボク自身が力不足です。
そこが早く解消できないと、結局どれもこれもとん挫します」
「……………………」
何か、考えてらっしゃる。
……何だろう、瞳の色が揺れてる?
「ウィスタリア。あなたの言ってた伝説って、続きがあるの知ってる?」
「ん?結晶が高適合すると、石にならないってやつですよね?」
「そうよ。石になる者は、神器と強く引き合う。
ならぬ者は……魔物と強く引き合う」
ちょっと覚えは、あるといえばあるなそれ。
結晶化が進むにつれて、神器の扱いは上手くなっていった。
……あらゆる意味で、取り返しのつかないところまで。
しかし。もう一個の方は聞いたこともないんやが。
「え。魔物になるんですか?ボク」
「何言ってるの。石にはなっても、神器にはならないでしょう?」
「あ、そうか。引き合う、というのは……」
「一つ、思い当たるものがあるわ。
武術には呪縛を流用した、『呪法』という技法がある」
呪い、とは。魔物が用いてくる不可思議な技だ。
一定の規則性はあるが、既存の法則に当てはまらない。
そして先の通り、他者を呪う呪詛と、主に自らを呪う呪縛がある。
魔物と引き合う、ということはつまり。
ボクはこれに向いているということ?
しかし呪法、か……なんかさっき思い起こしてたゲームに、あった、ような。
ああ、わかった。これも「課金要素」だ。
弱いキャラクターの補填?だったと思う。
ステータスを振り割る代わりに、特殊な力を獲得できる。
効果は永続だが……一度つけると外せない。
しかも微妙。魔導の方がずっと強い。
でもボク、その「ステータス」つまり魔素。ある意味余ってるんだよな。
体が使い切れない力が、たっぷりあるのを感じる。
前に培ってたのが、引き継がれてるんだろうな。
でも子どもだからね。
筋力とか体力とか、魔素を注いでも限度がある。
あと、頭にも使い切れないんだよね。
神経の伝達速度には限界があり、それを上回らない。
となると……使い道としては、悪くないな。
とはいえそれは、ゲームの話。
現実で、人が呪いを使うとは、あまり聞いた覚えがないぞ。
「人が、呪いを使えるんですか?」
「呪いは因果……法則があるだけで、何か力を用いるわけではない。
人でも魔物でも使える。ただ、知ってるかもしれないけど、呪詛を王国で使ったら精霊に処されるわ」
「はつみみでした」
そういや王国には、殺すな、犯すな、呪うなって警句があって、これらは精霊が直接すっとんできて罰するんだっけ。
呪うなって婉曲的な何かかと思ってたけど、呪詛を使ったらって明確な基準があるのか。
人が呪うなんて、前のときは見なかったし、その基準は知らんかったわ。
「ん?呪縛は大丈夫ってことなんですね?」
さっき、魔物を殺しすぎて呪縛にかかることもあるって、エリアル様言ったしな。
それで精霊に罰せられるなら、王国から貴族がいなくなるわ。
「そうなる。どうする?」
「やります」
即答した。
ボクの石の状態は、その呪縛を用いた武術、呪法に向きがあるのだろう。
普通に武術だけやってたら、いつになるかわからないけど。それなら。
「ではあなたに、雷光の武を授けます。それを呪いのケダモノに昇華なさい。
電撃に慣れないうちは死ぬほど痛いけど、精進するように」
「はい!……はい?」
次投稿をもって、本話は完了です。




