D-4.同。~前のストックと戦った魔女姫のコメント~
~~~~ストックは悍ましく正気を削る何か、らしい。ボクへの妙なついでコメントがあるのは、きっとそのせい。
頭なでなでしながら、カチッとな。
『はぁ。食べていいの?』
腕の中で震えてるんじゃがストック。
なにしたしダリア。
『冗談よ。でも二人っきりにはしないでね?
あの子、魔性よ。その気がなくても押し倒しかねない。
必ずあんたがついてなさい。いいわね?ん。よし』
割と年季の入った同性愛者の、ありがたいご意見である。
とはいえ、バラバラに行動しなきゃならないこともある。
そのためのこの機会だ。ストックに自覚をもってもらうため。
ボクが言っても、冗談だと思っているのか流されるんだよー。
だから友達に頼んで、どう見えているか?を聞かせてもらった。
『マリー?それも聞くのねぇ。
私、あの子には我慢できないもの。
あれもすごいわよね……その気がないとかそういう次元じゃなくて。
こう、誘われてる?わよね?そうよね?あんたも感じる?そうよねぇ。
あの子、あんたのことも大好きだし。
ああ……私も大好きよ。愛してるわ。ハイディ。
別にあの時遊びで誘ったわけじゃないの、わかってるわよね?』
録音はこれで終わり。
そのままストックに続ける。
「ダリアには録音外で。
『振られたのだって、わかってるわよ。私じゃあんたをこっちに引きずり込めない。
なのに、ストックはただまっすぐにあんたを吸い寄せた。すごい子よ。
男女問わず落とす、業の深い子だけど……あんたにだけはただの女でいられるのね。
絶対離しちゃだめよ?あんたたちが二人でいることが――私があんたを諦める条件よ』
とのコメントをいただきました」
腕の中から、ストックがそっとボクを見上げる。
「メリアは振った。向こうもそうだろうと思ってたみたい。知ってて聞くんだからあの子は。
ギンナはその気はないね。彼女、もっと大事なことがあるみたいだから。
マリーはやっぱり、ダリアが一番。ボクとの未来はないってさ」
「……ほんとに?」
「ほんとに。信じていいよ。
彼女たちとの付き合いは、これでもそれなりに長いんだから」
言っちゃなんだが。
言葉は過激だが、皆「愛してる」に愛が、情念が籠ってない。
ストックの時は逆。情念籠りまくりだった。やばい。
彼女たちの気持ちまで否定はしないがね?
でもあれじゃなびけねぇな。
ストックが腕輪にこめてくれた言葉は。
その吐息だけでも、ボクを身もだえさせるというのに。
もちろん今、小さく耳元で囁く――彼女の本心も。
「ボクもだよストック。だから離れちゃだめ。
離れるときは、狙われてるって警戒してね?
疲れるだろうけど、必要だよ。
ボクだって、もう必要以上に世話焼くのはやめたんだから。
ね?」
「うん」
素直ストックになっちゃった。
そろそろ日も暮れてくるし、これはお持ち帰りしようかな。
「ごめんね、ストック」
「なんで?私が……」
「君があんまり友達を作らなかった理由、やっと納得いったんだよ。
こんなに魅力的な人が、前の時は学園で完全ぼっちだったもの。
こういうことだったんだね」
「お父さまから、気をつけろって……」
「そっか。そこをおして、ボクのために友達と仲良くなってくれたんだね?」
ストックが素直に頷く。
「じゃあ改めて、二人でやろうね」
「っ。いいの?」
「君、結構ボクの友達好きなんだろ?」
「ぅ……うん」
「なら、普通に友達付き合いできるようにしよう。
ほら、ボクだって何人か振ってるんだから、条件は同じだ。
ボクがいれば、大丈夫だよ」
「ん」
正直、友達としての付き合いが深くなれば、この辺は大丈夫になると思う。
勘だけどね。彼女たちの自重に期待しているわけではなく、各々の抱える業は、もっと深い。
ストックの「魔性」とやら程度で、それを折れるとは思えんな。
というか、それでだめならボクと彼女たちはどうして友達できてるのさ。
殺し合っても笑い合えるのは、何でだよ。
たまたま、何もかも巻き戻ったからじゃない。
みんな、もっともっと大事なものがあって。
それに向かうことを、今も諦めていないからだ。
もちろんボクも――ストックも。
「ところでストック」
「なぁにハイディ」
「ボクも結構、怪しい目をしてる自覚、あるんだけど」
当てられたので。
「そんなことない。綺麗な目。私の閃光」
「君だって。ほんと、この目にボクしか映ってないのが――たまらない」
深く、見つめ合う。
「その。もう煮詰まっちゃったし。今日は長めに」
「いいよ、ハイディ」
「というか、ボクに迫られるのは怖くないの?」
「ハイディだって、私に迫られて怖くないの?」
「身が震える。歓喜で」
「私も」
よっしゃお持ち帰りじゃー!
ストックを横抱きにし。
「ハイディ」
「ん?」
「やさしく、してね」
…………。
これが魔性ってやつか!?そうだろう!!
優しく手取り足取りしてあげますともむっはー!!
というわけで!今日はこれまで!!
終了!!!!
(注釈というか言い訳。あるいは感想)
ストックって無防備だよね?というハイディの心配から始まった小話です。
お茶会で「ストックはやばい」という共通認識を七人(ストックは留守)で持った後、個別のお話を聞いたという形です。
ストック大人気。そしてそれ以上に重い感情を向けられるハイディ。
6人各々が強い理由をもって生きているのではなければ、容易に流されていたでしょう。
どろどろとした百合ハー待ったなしでした。
やばい告白しちゃってる子ばかりですが。
彼女たちにとって、その感情は自体は正しいものの。
「それはそれとしてどうでもいい」と思っているから、白状しちゃっています。
ハイディやストック相手なら、言っても変にこじれないだろうという信頼感もあるでしょう。
パートナーとハイディ、ストックを除いた残り四人に対する評は、それぞれ皆無難なものになるでしょうね。
この後の二人は、まだ幼児なので健全な語らいです。
幕間AやCの最後くらいです。健全な範疇です。
肌も出ません。濡れ場ではありません。
なお「魔性の女」と称されるストックですが。ハイディはこれに反応しません。
ストックを見て「綺麗」とか呑気なことが言えるのは、ハイディくらいです。
ハイディはストックにとって数少ない、安心してそばにいられる相手です。
明日より、第二章開幕です。




