D.ハイディの仕返し:ハイディ一味に聞く、ストック評。
――――えっとその……そんなに?
また別のある日。
「はい」
「はい。……はい?」
ボクらはまた煮詰まっていた。
形状変更によるエネルギー効率の改善はなった。最高だぜダリア。
だが作成可能と見込めるのは、小型神器船までだった。
しょうがないので、小型神器船製造に着手した。
予算とって、前に見つけたいい感じの造船会社と作り始めている。
小型ができれば、まぁプレゼンテーションはできる。
最悪、こいつだけでも戦略兵器級だ。コンセプトに沿った運用はできる。
だが研究所ができない。ボクらがピンチだ。
どこで研究しろっていうんだ。
航行するだけなら小型でも10数人いけるが、さすがに小さすぎる。
ストックと二人で考えているものの、出てくるアイディアは別のブレイクスルーばかり。
神器船大型化の構想につながらない。
もう建造場も決まってて、人の募集も始まってるのに。
これは非常にやばい。
工材の用意に当初予定通り手間取っているので、まだ時間はある。
だが、実は工材作成にブレイクスルーがあって、予定が前倒しになりそうなのだ。
完全に煮詰まった。
あとは大魔導師ダリア様頼みだ。早く来い。あと三日が待ち遠しい。
しょうがないので休憩しようとなった、夕暮れ時。
聖域ユリシーズのロイド邸の、ダイニングキッチンでぐったりしている。
窓から差す低めの陽光がちょっと暑い。冷たい飲み物と菓子が、おかげでとてもおいしい。
そうして、煮詰まったボクの唐突なコーナーが始まった。
「『ストックは無理。絶対に無理』との回答だった」
ストックが呆けた顔をしている。
「別に意趣返しではないんだよストック。
ちょっと気になってさ。
『ストックはハイディの何がそんなにいいんだ?』って言われたんだろ?」
「ああ、言われた」
「ダリアもマリーも、君にはまったく色目を使わないじゃないか。
全然興味がなさそうだ。
あの二人、普通に女性には目がいくし、対象年齢もそれなりに幅広い。
ダリアは割と子供好きってのもあるけどな?」
「そうだったのか」
たまに幼子相手に危険な目をしているのは、友の名誉のために黙っておいてやろう。
マリーには思いっきりばれているようなので、たぶんからかわれている。
罰は受けているということで、大目に見てあげてほしい。
名前を挙げた二人は、同性愛者だ。女性を好む。
正直、ストックは女性から見て素敵な女性、という容姿、中身だと思うんだボクは。
ロイド家の侍従には、ストックファンクラブができてると確信している。すごい好かれてる。
ロイド家はいろんなとこに屋敷持ってるけど、どの屋敷に行っても丁寧にお世話されるんだよストック。
ご令嬢だから当然といえばそうなんだけど、ねぇ。その熱意が違うというか。
ベルねぇがギンナの世話してるのは見たことあって、まぁあれほどではないんだけど。
明らかに業務に対する熱量を越えている。
ボクが世話を譲るほど、と言えば伝わるか?
意地をはると争いになる。それは望ましくない。
そんなストックが、ボクの友達からは興味を向けられてないのか?
というささやかな疑問でインタビューしてみた。
面白かったので、披露してみようとなったのだ。
ボクの頭は茹だっていた。
なお結論としては「ヤバイ。興味とか向けたらまずい」という認識ゆえのもののようだ。
では詳細をお聞きいただこう。
腕輪を六つ、取り出した。
「まぁ120分とは言わない。聞いていけストック」
「白旗を上げておこう。もう好きにしてくれ」
その目は、自分もやられると確信していた目だな?
いい子だストック。
では現実を聞かせてやろう。
「ではまずこちら。ファイア大公家令嬢専属侍従から」
そういや言ってなかったけど、異例のスピード出世おめでとうベルねぇ。
見習いがすぐとれて、あっという間にギンナの専属になったそうだ。
腕輪を回して、カチッとな。
『え、はい?これまたやるの?はぁ、今度は……えええええええ!?
すすっすうっすすっすす、ストック様の!?
だ、ダメだよハイディそれは聞いちゃ!!
え、ダメだったらダメ。だめぇ……。
はぇ!?ギンナ様とぉ!?ひぃぃぃ!!
んぐぅぅぅぅぅぅ、ギンナ様!!
っはぁ、はぁ。もうむりぃ。ギンナ様たすけてぇ』
なおこの後、ベルねぇはギンナに泣きついて頭をよしよしされていた。
ギンナはちょっと複雑そうなお顔をしていた。
「流れは前回の君がやったのと同じだ。
『ストックを恋人にできるか?』『特定の相手と比べてどうか?』
という二段階で印象を聞いている」
「…………」
「…………」
「違うんだハイディ」
「聞こうか」
「お前が敬愛しているようだからと、私も仲良くなろうと思ってな?
メリアがすごい勢いで各種のことを学んでいるのを、ベルが気に病んでいたと知って。
ちょっとこう、手ほどきを」
「手取り足取り行ったと」
「……………………はい」
その結果、思い出すだけで引きずり込まれそうな、名状しがたいアレな体験をしてしまったと。
ストックのあれは、ほんとに厳しいけど優しくて丁寧で。
見目のよい姿がしょっちゅう目に入るし、いい匂いもするしで、前の時間のボクも集中するのが大変だった。
先のファンクラブの侍従たちが受けたら、卒倒間違いなしだな。
「やってもいいけど、責任とれるのか?」
「とれません」
「じゃあ今度、ほどほどに教えるやり方、勉強しようか」
「…………はい。お願いします」
ストックが素直かわいい。
次の投稿に続きます。




