C-4.同。~麺の二:うどん。揚げ物、握りとの黄金の三角食べ~
~~~~油の使い方も、本当に店、食それぞれだ。味わい深い。
「またのお越しを、お待ちしております」
丁寧な礼をもって送り出された。
「――――素晴らしかった」
「ぜひまた来たい」
「案内した甲斐があったわね」
「私も、また来たいなぁ。
お酒がおいしいんですよね、ここ」
なんと。ああ、こういうところならワインかなぁ。
いいなぁ。しっとりと飲みながら、ひたすらオードブルをつまみたい。
早く10年経たねぇかな。
「ダリア。出資できないかな?」
「そんなことしなくても、50年くらい持つわよ、ここ。
スポンサーいっぱいいるから」
「そうかぁ。さっきのラーメン屋もすばらしかった。
お支えしたい」
「まず食べてあげて。あとはこっちでやるわ」
「いっそ中型神器船に出店を……」
「「それ」」「だ」「よ」
良い案だストック。
時間をかけて、確実に進めよう。
「そのためにも、船作らないとね」
「ん。帰ったら小型から進めておくよ」
「もう帰る気のところ引き留めますけど。
うどんやさんがまだですよー?私のお気に入りです」
ほほぅ。
マリーが素直に褒めるとは。
「この通りの奥なのよ。三番街まで抜けて、すぐ」
誘惑の多そうな通りを、ダリアとマリーの後に続いていく。
うーん。
「ストック、今どんくらい?」
「五分だな」
「ボクも。いろいろ食べられるのはいいんだけど、遠慮しちゃった」
「それでも二周したがな。けど心行くまで食べたいとは思った」
「次はそうしたいなぁ」
「なら、おうどんやさんで、おなかいっぱいになるといいですよ?
ひたすら麺がおいしいですから」
「あと汁もね。揚げもあるけど、まぁそっちはあんたたちが食べ始めると危ないわねぇ。
一応、大食いが二名行くって言ってあるけど」
「ボクらの食事量、大食いで言い表せる常識越えてるぞ?大丈夫か?」
「ちゃんと正確に伝えてあるわよ。私の知る限りだけど」
「ああ……君とは、飢えて食べ放題の店結構回ったから、大丈夫か」
中型神器船クレッセントは、かなり食糧事情がひっ迫している神器船だった。
売り物をつくらないのに、研究費がかかる。あほか。
しょうがないから、有形無形の様々な発明を売り込んだり。
スポンサーを捕まえて来たり。
各国行政に伝手を使って接触し、国の事業に少し食い込んだり。
やるれること死ぬほどやって、それで生きてられる状態だったんだよなぁ。
同じようなことやって、余るほど資金がある今の状況とは、天地ほどの差がある。
会計の精査をやって、無駄の削減とかもやったんだけど。
とにかく生産能力が低かった。あの船は。
無駄飯ぐらいが多すぎた。しかも稼ぐ人から船を降りて行った。詰んでた。
というわけで、自分でため込んだ金もって、仕事で外出たときにやたら食べた。
ボクの数少ない自己資金というかお小遣いというかは、すべてそれに消えて行った。
友達とも割と行ったよ。というか、遊ぶ=外で飯食べるだった。
当時の世界情勢もあって、みんな飢えてたからね。
食べ物ある所に行って、食べる。それだけで十分娯楽だった。
ボクらが12の頃から、徐々に半島中の食糧生産が細っていった。
理由の一つは、イスターン連邦が穀倉地帯ごと滅ぶから。
その上、王国の生産力まで減った。その頃合いに向けて、対策しなくては。
まずはボクの方で調べ。確証を得る。
聖国が呪いを使うとはっきりしてきた以上、それ絡みだ。
メカニズムを解明し、あとは大人と相談だ。
ちょっと実地で継続した調査がいるから、お金と時間が要りそうだけどね。
少しずつ、やっていこう。
最初のラーメン屋そっくりの店の引き戸を開けて、ダリアが中に入っていく。
名前が似てる……縁のある店同士なのかな?
兄弟でラーメンとうどん、別々の道に進んだ、とか。
「さっきのラーメン屋さんの、ご兄弟がやってるんですよ」
まじか。ビンゴとは。
中に入って、砂を落とし。また手を洗って。
「ああ、ここは各自注文式か」
「そうです。慣れてない?」
「いや、王国にもあるよ。ねぇストック」
「ああ。というか普通に我々、屋台で食べたりもしてるしな。
大丈夫だマリー」
「じゃあ並んでくださいね。お代わりのたびに並ぶの、面倒かもですけど」
「それもまた楽しみさ。
ほぅ……ただの熱汁だけでないのだな」
「ほんとだ。冷もあるけど、そもそも濃い汁をかけるだけ、ってのがあるんだね」
このうどん形式は初めて見る。
「じゃあそれからかな。
すみません、肉のかけ。えっと、特盛からお願いします。
揚げも一つずつつけてください。あ、握りとかも」
「よく食べるねぇ。ああ、姫さんのお客さんか。
そっちの子も?」
「量は同じ。私は卵から行こうか」
「あいよ。そっちで受け取ってね」
お盆を持って、カウンター沿いに進む。
幼児の背丈でも、ギリ何とかなる。
ただ揚げや握りは手が届かないので、これは頼むしかなかった。
「かけたまってやつか、ストック」
「お前が真っ先に行くと思ったぞ?」
「ボクは好きなものは、最初と最後に回すんだよ」
「そうだったな。葱だれとかもよさそうだな」
「いいね。辛みのやつもあるのか。楽しみだ」
溢れんばかりの麺と、皿一杯の揚げや握りを受け取って。
お、座敷がある。先にダリアが行って待ってる。
……握りがいっぱいある。こいつおにぎり好きだったな。
「相変わらず、ここのおにぎり好きですね、ダリアさん」
「ここの六個握りは絶品なのよ」
ほほぅ。それは後で頼まなくては。
「持ち帰りもできるから、気に入ったら後で買うといいわ。
お宿で少し時間が経ったのをつまむのが、またいいのよ」
王女の味わい方ではないが。
「ぜひそうさせてもらおう」
「結構頼んじゃっても大丈夫かな?」
「ん。今のうちにある程度頼んでおいてあげるわ。
気にせず、うどん堪能しなさい」
「ありがとう。では早速」
箸をとり、手を合わせ、ストックと二人食べ始める。
――――これ、は!
箸が、止まらなくなる。
なんてクリーミーなうどん!
しかも鮮度。そうはっきりわかる鮮度!
製麺はこの場ではしていなかった。
まさか……うどん工場直結か、この店!?
「大量生産か、少量での店舗製麺か。
議論は尽きないところだけど、ここは大量生産の強みを生かした麺を作るわ。
握りや揚げもだけどね」
……!?
なんだこの揚げは、時間が経っているのに、うまい!
油っ気が全然ない!なのに柔らかさと歯ごたえが同居している……。
負け、た。この工夫は、個人のできる範疇では、ない。
「元は、お弁当屋さんから始めたって聞いてます。
だからどれも、時間が経ってもおいしく、ってコンセプトなんだとか」
素晴らしい。そのテーマに則り、芯まで魂が入っている。
ちょっとこの握り、どうなってるの……なにこの出汁。
魚介系にしては癖がなさすぎる。塩気がほどよく滑らか。そして米がうまい……。
固さがほどよい。空気に触れた米と海苔が、時間を味方につけて、旨味を増している。
そして今一度うどんに戻る。
おお……この汁の感じ。一番濃いところに戻ってきたはずなのに、口の中が洗われるようだ。
ここが基盤。このうどんの味が土台になって、揚げ、握りへと味わいの道が確かに繋がっている。
二周、三周と繰り返す。
間違いない、この順こそ黄金の回路だ。
ストックも同じようにうどん、揚げ、握りを食べている。
ありがたいことに、量の頼み方も本当にちょうどよかった。
食べる量を調整しなくても、確実にこの循環を維持できる。
幸福な螺旋に陥ったようで、手が止まらな――――
二人、汁まで飲み干してから席を立つ。
「次だ」
「ああ」
次の投稿に続きます。




