C-3.同。~麺の二:パスタ各種盛り合わせ。ピザ、肉魚料理を添えて~
~~~~仕事の話はもう終わり。ここでは、味わうことこそ礼儀だ。
「ありがとうございました~!!」
元気の良い声で送り出された。
「お、ちょうどよかったですね」
「やっと出て来たわね……」
「三分目といったところだが、味わいつくしたからな」
「堪能したよ。ご馳走様。いい店だった」
「次行くわよ。私とマリーはデザートだけね」
「了解。塩油だっけ?」
「ええ、塩油麺よ。
ラーメン屋ほど食べやすくはないけど、各種食べやすい方の店を選んだわ」
てくてく歩く。
中央の五番街だったら、確か表に人気の店があったような。そこかなぁ?
「ああ、こっちよ。裏を行くわ」
五番街に差し掛かったところで、大通りから少しそれた。
日陰だけど道幅も狭すぎず、特に危なさを感じない裏通りだ。
健全な店がいくつも看板を出して……なるほど。そういう飲食通りなのか。
「ここよここ」
何かレンガ造りの、古い佇まいの店だ。
ん?でもいいにおいするな?
「平焼き……ピザが売りなんだけどね。
パスタも絶品よ」
ほほぅ。
ストックと視線を交わす。
おなかはもうだいぶ空いてきたぜ。
ダリアが扉を開けて先に入り、マリーが続く。
ボクらも中へ入った。
先の店と同様に、砂落としをし、手を洗わせてもらう。
店内は落ち着いた調度、そして明り。
昼だというのに、ディナーのように雰囲気がいい。
給仕の人が出て来て、ダリアを先導していく。
まばらな客の合間を縫うように、奥のテーブル席に案内された。
「サレス様、本日はいかがなさいますか?」
「この二人に片っ端から。
私らは冷菓子をいくらかお願いね」
「畏まりました」
さっと給仕の方が下がっていく。
確かに、先の店のおすすめもかなりのものだった。
その後幾種類か試させてもらったが、あそこはあの麺が一番だったな。
ダリアの舌は確かだ。ここも楽しめそうだな。
「せっかくだから聞くけど。ほかに問題は起きてないの?」
「ん。まぁ大型化だけだよ。ああマリー、今度オーダー聞くからね」
「やった。私の神器車ですねっ」
「マリーの場合、かなり盛り込めるはずだ。
思いつく限りつけてやるから、遠慮なく言ってほしい」
「ほんとですかストック!?
私結構、クルマにはこだわり強めですよ?」
「ハイディからも聞いたよ。
ギミックも好きだが、正統なところにこだわりがあるとな。
ならハイディ向けのアッパーバージョンと考えればいい。
私に任せてほしい」
「んっんー。期待できそうですねぇ。
そういえばストック、ヘタレは卒業できそうですか?」
ストックがめっちゃ吹いた。
何も口に含んでないときでよかった。
「今すごい振り方したねぇマリー……どゆこと?」
「えぇ~。前にそうだもご」
すごい勢いでストックがマリーの口を塞いだ。
「マリー。それは言わないでくれ」
「んぷ。しょうがないですねぇ」
マリーがめっちゃによによしている。
そしてダリアがご機嫌斜めだ。
別にとめねーから二人でイチャイチャしてろ。
いや止めるわ。ここ人前だ。
話し変えておくか。
「ダリア。正直大型化はかなり詰まってるんだ。
さっきの形についてはさっそく試してみるけど」
「こっちも本格的に加わったほうがいいわね。
来月、一度行くわ。見せてもらえる?」
「資料もまとめておくよ。
こっちはもういいの?」
「イアベトゥスを紹介できたから、連邦の準備は終わり。
そういう意味でも、私が王国に行くのは意味が大きい」
「これから共同開発だ、って明示か。
失敗できないねぇ」
「あんたは失敗しないでしょう。
別のものをついでに作ってくるだけで」
「違いない。ハイディだしな」
「ハイディならやりますねぇ」
なんでや。
お。なんかボクとストックのとこに皿来た。
けどパスタじゃないな?
「前菜?」
「それで舌を慣らすのよ。
そこから時計回りに食べるといいわ」
ほほぅ。
確かに、香のものが多く、しかもこれは。
油がまた、独特だ。確か。
「橄欖だっけ?」
「そうとも言うわね。こっちではそのまんま油実って言うけど」
そうなんか。
「いいな。意外にこってりしているが、くどくない」
「塩気がよく合うね……おいしい」
忠告通り、いくつもの小さな前菜盛りを時計回りに一つずつ食べていく。
フォークで一口に食べやすくなっていて、いい。
香りも複雑だが、この小さいのにずいぶん手間がかかった調理がされている。
味以上に、食感が特徴的だ。
柔らかく滑らかだったり。
固くパリッとしていたり。
様々な形で、舌を楽しませてくれる。
いや、舌だけでなく。
五感すべてで味わえと言わんばかりだ。
そして食べ終わるころに――来た。
「少しずつ味わえ、ということか」
「いやストック、これ一つ一つ結構あるよ」
色とりどりのパスタが、一つの皿に盛られてきた。
少し捻り込むように盛り付けてあり、高さもある。
この一つがほぼほぼ一人前あるだろう。
それが都合、8つほど。
まずは小手調べ、かな。
「ふむ。赤実がたまらんな」
「たまに辛みが不意打ちしてくるのがいいね」
赤実。小麦ベースの白汁たれ。ホワイトソースっていうんだっけ?
香味、きのこ、魚介。冷製の野菜もりもり、甘めなのまで出てきた。
素直にうまい。飽きない。こってりしてるから、すぐ飽きそうなものだが。
たぶん、微妙にどれもこれも油が違う。
実の品種……じゃないな。それぞれ何か漬け込んだ油だな?
匂葱、赤鉈という辛み、油実そのものを長く漬けたと思しきものもあるな?
魚介、鳥。水藻かな?少しずつの驚きで、フォークが止まらなくなる。
気づいたら……四皿目にかかっていた。
平焼きも出て来て、カットしてストックと分けながら食べる。
合間にさしはさむのにいい。絶妙な満足感。満たされず、しかし不満はなく。
おっと、このパスタから出て来た加工肉。魔物のやつだな?
複雑で……苦み、酸味、甘味がうまい具合に絡まっている。
贅沢だ。ほんの少ししか入ってないからこそ、アクセントになる。
別の家畜の加工肉に混ざってた。やるな。
キノコも種類が豊富に出てくる。
王国では流通が少ないんだよな……栽培に魔力や精霊力のブーストがかからないらしくて。
乳製品もふんだんに使われていて……チーズは今食べたの何種類目だ?7……いや、8だな。
気づいたらダリアとマリーはいなくなっていた。
適当に冷菓子を食べ、そのまま外に出たらしい。
だがこちらは止まらない。
おっと、ここで肉料理と魚料理出て来たぞ!?
挑発的なサーブじゃないか。
ここまで食わせておいて、さらに食べさせる自信があると?
素晴らしい。受けて立とう。
ボクは鳥の丸焼きを、ストックは魚の丸焼きを切り取りにかかった。
次の投稿に続きます。




