C-2.同。~麺の一:野菜炒め乗せ熱々ラーメン~
~~~~連邦も王国と方向性は別だが、食にうるさい。いろいろ気ままにめぐってみたい国だな。
「そういや二人とも麺類自体は普通に食べたことあるの?」
「私はないな。箸は大丈夫だが」
「ボクはちょっと。箸は同じく」
「え”。私未だに慣れないんですけど。
なんで二人は使えるんです?」
「「教育の賜物」」
「これだから貴族は……」
「マリー。ボクは淑女教育だ。
君は何で使えなんのよ」
マリーは出身の聖国で、淑女の薫陶を授かっているはずである。
この場合の淑女とは、聖教聖女派の特別なものを指す。
「んぐ。小豆を箸でつまめとか、無理ですって……」
姿勢を崩さずに、ひたすら豆を箸でつまんで別皿にうつす練習をさせられる。
こう、やってると心が無になってく感じだ。
「そんな教育されんの?聖女派って」
「されますよ」「めっちゃされる」
「それは一体何の意味があるのよ??」
「他の食事作法がものすごい安定する。
結構、効率よかったよ」
「効率の問題なの……?」
「ボクにとっては。ほかにもやることいっぱいあったし」
前の時間の時、今より低い年齢から、ビオラ様に習い始めたからねぇ。
勉強も鍛錬も雑用もやってたから、そりゃ効率重視になるさ。
まぁビオラ様がそういう指針だったんだけどね。
「効率と言えば。進捗どうなの?」
ボクとストックはそろって頭を抱えた。
「ダメなのね……」
「エネルギー効率が上がらない……」
「神器車サイズからぴたりと大型化できない……」
「それは……ダメなんじゃないですか?」
二人でちょっとむせた。
抉り込まないでくださいまし、マリーさんや。
「神器車の総神器構造はできたから、研究としては完成。
でも研究所にする中型神器船どころか、小型神器船もできない。
最悪、ちょっとすごい中型神器船に落ち着く、んだけど」
どうしてか、大きくし出すと神器間のエネルギー伝導が途端に落ちる。
工材として使う神器の数や、サイズの問題じゃなさそうなんだよねぇ……。
「出資者には、ある程度説明してるからな……。
できたものを見られたら、資金を引き揚げられるだろう」
「だよなぁ。お金は困ってないけど、信用はダメだ。
今後の活動に支障を来す」
「何が問題かの見立てはついてるの?」
「使用する神器の数ではない。そこに有意差はなかった」
「一つあたりの神器サイズも関係なし。
短剣サイズで頑張って組み立ててみたけど、やっぱクルマより大きいとダメ」
「あとは……何かしらね」
「剣とか材料に使ってるんですか?槍とかは?」
「あー……まだ剣だけだね。何か違いでるかな?」
「やってみないとわからんが……」
「ガワの形自体はどうしてるの?長方体?」
「うん。そうだよ」
「あれ、魔力流の形そのものに合ってないって論文、あったわよ?
前のときちらっと見ただけだから、今はないけど」
ボクとストックが席を立った。
「座んなさい」
「ラーメン食べないと、ダメですよ」
「「はい……」」
二人、おとなしく腰掛ける。
「帰られちまうと思ったぜ。
お待ち。匂葱マシマシだけど、大丈夫かい?」
「ええ、ボクもストックも好物です。
あ、丸々焼いたのが入ってる……おっと」
ストックから箸を受け取って、すかさず食べそうになったけど。
気を取り直し、手を合わせる。
礼儀、大事。
「「「「いただきます」」」」
外はまだまだ暑っついけど、やっぱ油麺は熱々がいいよね。
麺を箸で持ち上げ、二・三度揺すって冷まし。
唇で少し触れて温度をみて……おっとこれ、油結構ついてる。
野菜炒めを後から乗せてたから、それのせいだな?
いいね。冬の夜に、がっつり食べたくなる。
やけどしないように、慎重に麺を含む。
とろっとした油。内包された爆発するような温度。
複雑な……鳥と魚介出汁の香りと、味。
ベースは塩。濃いのにさっぱりしていて、後を引かない。
すぐに次が、食べたくなる品だ。
いいね。
「すみません、替え玉を二回分。順に固くしてってください」
「私も」
「え”。もう次食べるんですか?」
「これは温度のあるうちに堪能したい。三度は食べなくては」
「ああ。冷めてからも楽しみだ」
「「…………」」
ダリアとマリーが無言で麺を啜ってる。
一応、連邦は啜るのはOK。しなくてもいいけど、したほうが礼に適うととられる。
貴族の会食は別だけどね。そっちはNGだ。
ボクとストックは、無音で麺と野菜を掻っ込んでいく。
替え玉の一つが来たところで、ちょうど麺が尽きた。いいタイミングだ。
すぐ入れ、二玉目。
投入仕立て。まだ混ざらない麺と油、汁。
温度の落ち着かない油が、新しい麺とちょうどよく絡まり、新たな感触を口の中にもたらす。
普通のラーメンくらいの温度感になってきたが、まだ熱々だ。
油と麺と汁、どんぶりの中の未熟な連携が、食べるごとに練度を増していく。
あっという間に馴染みそうになるが、止まらぬ箸が掬い上げ、口に運ぶ。
まだ未熟で新鮮で、新しい驚きがありそうなところを探して、箸が動く。
静かに、素早く次を――――もう、なくなった。
素晴らしい。
すかさずおかれた三玉目を注ぎつつ、ストックを見る。
彼女もこちらを見ていた。頷く。
「「あと二玉、野菜も追加で」」
「あいよ、替え玉2、野菜追加!二人前だ!急げ!」
三玉目は混ざりが早く、温度も落ち着いてきた。
だがこれが、このラーメン本来の味だ。
油と汁が温度を犠牲に、よく絡んでいく。
複雑な出汁の味が、口いっぱいに広がっていく。
匂葱の香りも、ここにきて芳醇になってきた。
汁を一気に飲み干したい欲求を抑え――麺にかかる。
次の野菜追加では、もっと薄味になっていくだろう。
だがよりさっぱりし、次を食すのが楽しみな味わいになるはずだ。
待ちきれないが、今は三玉目の麺に全力を尽くす。
「ご馳走様。混むから、前の店で涼んでるわよ。
おやっさん、お代はその子たちが払うから」
「あいよ姫さん。マリーちゃんも、またな」
「はい、おいしかったです。ごちそうさまでした」
二人、席を立って出て行ったが。
ボクとストックは、まだ序の口と行ったところだ。
次の投稿に続きます。




