2-2.同。~力が要る。それも早急に~
~~~~なんだよゲームって。意味わからん。いや分かっちゃったけどさ。
あとはそう……ボクが知らないことも、ゲームにはいっぱい出てる。
例えばストック。リィンジア・ロイドのこと。
クレードル帝国タトル公爵令嬢リィンジア・ロイド。
彼女が大まかにどういう人生を辿ったのかは、元々ある程度は知ってる。
ボクが船を降りた後、ラリーアラウンドのことを調べたときに、突き止めたから。
それじゃわからなかった彼女のパーソナルに近い情報が、ゲームには結構出ているみたいだ。
でもそもそも、その身分は正しくない。
現在の彼女は、エングレイブ王国モンストン侯爵令嬢のリィンジア・ロイドだ。
10歳の頃、帝国のタトル公爵に浚われ、無理やり養女にされている。
ただ、ボクが学園で会ったときは「公爵」を名乗っていた。
あとから知ったが、そのタトル公爵をぶっ殺して、爵位を奪い取って学園に来ていた。
ゲームではそうじゃないということだ。
同時にあの子は、行く当てのない者たちと『ラリーアラウンド』という組織を結成、ストックを名乗って活動している。
ボクがそれを知ったのは、ラリーアラウンドが王国に侵入してきた頃。学園の三年、夏頃だったか。
この辺りの情報は、ゲームにはさっぱりないな。いきなり王国に革命が起きている。
なお、こっちで養子にされたのに家名が変わってないのは、彼女が自分で家名を変えたかららしい。
ゲームでは元々、帝国令嬢だったってことなんかな。
微妙に齟齬があるけど……これは参考になる。ボクが調べたり聞いたりした話は、だいぶ断片的だったから。
都度内容を思い出しつつ、自分の道を決めていく指標にしよう。
今はとにかく王国へ……できれば、彼女の元へ行きたい。
しかし「悪役」ね。似合うじゃないか、ストック。
君は中身は善良そのものだったけど、結構滅茶苦茶やってたもんな。
次に会う『リィンジア』も……果たしてそうなんだろうか。
朝日がちょっと眩しい。
右手で日差しを遮る。
変なこと教えやがった結晶があるはずの、ボクの右手。
体の向きを変えてから、しげしげと見る。赤みすら、引いてしまった。
確かに結晶がある、と思うのだけど。不思議な感覚だ。
魔結晶ができるのは、別に病気ではない。
魔素を魔力に変換する過程では、わずかな結晶化が起きる。
これが進行して体表に石ができてしまう症状で、膝の軟骨がすり減るとか、そんなイメージが近い。
尿路結石だっけ?あれだと痛すぎるし、そんな深刻な話じゃないな。
ただ、神器を使うと話は別だ。
神器とは、攻撃性魔道具の別称。特殊な工材で作られるが、使用者も特殊。
一定以上の大きさの魔結晶が、体表に出ている者じゃないと使えない。
具体的には、結晶が触れてないと神器は起動しないのだ。
神器が他の魔導……精霊魔法や魔術、法術と異なるのは、自在に「魔力の流れ」を発生させられること。
これが、魔物およびその眷属に対する、必殺の機能になっている。乗り物にもこの機能が流用されている。
ただし、この流れの発生は使用者の魔素の魔力化を激しく促進するため……本来よりも結晶化が進行してしまう。
ボクのような、魔素が魔力にならない「魔力なし」だと、この結晶化は基本的に起こらない。神器自体は使えるけど。
……まぁ、特殊な使い方を激しくすると、その限りじゃないんだけどね。前はあの通り、石になって果てた。
あとはボクが先頃やったように、結晶そのものを粘膜から取り込むと、魔力なしだろうともその分は体に結晶が出る。
なお、できてしまった結晶は、外科手術で取り除くこともできる。
ただそれをすると、魔素の絶対量が減るんだよね。だから処置には限界がある。
それでも重要器官が結晶化して、命に係わるよりはましだけど。
この右腕のは……どうなっているんだろう。この状態だと、摘出は無理じゃないかな。
取り除く気は今んところないけど……また石になるのは嫌だなぁ。
できれば今回は、神器には頼らずにいきたい。
クルマくらいはいい。しょうがないし、こんくらいじゃ普通の人だってそんなに結晶化は進まない。
しかし神器を使わないとなると……代わりの武器がいる。
ボクは魔素が魔力にならない。そういう体質だ。だから魔導を使えない。
魔導ってのは、精霊魔法、魔術、法術、魔道具の総称だ。魔力を使って、あれやこれやする。
なお、結晶で使えるのは神器だけなので、普通の魔道具は使えなかったりする。
完全に余談だが。何か圧が強いので語る。
ゲームにおける神器とは、初心者救済のための「課金アイテム」らしい。
魔物を必殺できる。しかし仕様なのか、装備してると逃げられてしまう。
しかも一度キャラクターに装備させると外せない。
主人公ウィスタリアは神器しか装備できず……かといってつけると、お察しなことになるらしい。
結晶から伝わってきたゲーム情報に、怨嗟の声が溢れている。
ボクは前の時間、好きで研究してたんだけどなぁ……そういわれると滅入るわ。
神器も、神器車も素晴らしい発明なのに。
学園でストックと結構弄り回したんだよ。ちょっと懐かしい。
閑話休題。
魔導も神器も使えない場合、あと有効な攻撃手段として挙げられるのは……武術。
魔素制御によって身体を強くしたり、魔導に準ずる現象を起こしたりする。
なんて言ったらいいんだろうな。部分的に力を集中する、みたいな感じなんだけど。
ゲーム的な言い方をすると、ステータスを割り振る、だっけ?
さすがに戦いながらは難しいけど。
熟達すると割り振りする力の幅や、上下できる項目が増える感じ。
ただ積んだ経験以上の集中はできないし、制限や限界もある。
例えば幼児の体でも相当な膂力や速度を得られるが、大人の体のそれには及ばない。
ただこれ、魔素自体を一時的に消耗するし、長い鍛錬が必要なんだよね。
有効な武器にできるのは、何年後かなぁ。
ボクは18年後でも武術家としては非常に未熟だったので、ちょっと望みが薄いように思う。
でも、力はすぐにでもいる。遅くても……彼女が浚われる、その前までに。
敵は魔物じゃなくて主に人間だけど、魔導師だ。
無力な幼児のままだと、ボクはボクの宿願を果たせない。
彼女を救いたい。王国を守りたい。
どうしたものか。
次の投稿に続きます。




