C.女四人、連邦麺道を往く。
――――よし。新しい神器船に、麺街を作ろう。
イスターン連邦中央の、ミクレス王国。
連邦と王国両方の首都にあたる、都市イスターン。
3×3のマス状に区画整備された四角い、しかし大きな都市だ。
ギボスという大きな河のほとりにあり、その威容というか異様を眺めることもできる。
河っつーか水の山っつーか。
北から流れて来た水が、小高い山の山頂に登る。実はここ、結構標高がある。
それはもう、街中から見て、その水の流れが目に見えるくらいには。
水は山頂を越えて、そのまま南へ流れる。
山頂は水の流れる中央部が低く、その両脇に高い尖塔のような頂上が二つある。角みたい。
長年かけて少しずつ山は削れているらしいが、思ったより低くなってないそうな。
結構な水量と水流だと思うんだが、不思議な山というか河だなぁ。
そもなんで遡ってるんだよ。重力に従え。
ボクとストックはサンライトビリオンに乗って、その首都にやってきた。
ビオラ様も連邦には来てるんだが、あの人は別のクルマでもっと北に行ってる。
イアベトゥスっていう、連邦北端の都市だ。そっちに神器船建造にいい場所があるらしい。
連邦には冒険者ギルドなんて便利なものはないので、駐車場付き宿探しは苦労する。
いや、王国でも駐車場が完備なとこはそう多くないらしいがな?
幸いにも今回は早々に見つかったので、宿をとってクルマを停めて来た。
仕事なら王城……離宮に招かれるんだが、今回のボクたち二人は休暇だ。
「あ、いたいた!」
おっと、先に見つかったか。さすがマリー。
通りに出て、さて西端にある王城を訪ねるかと相談していたところ。
白い外套姿の二人組が、こちらにやってきた。
ボクらも同じ格好だ。連邦の河よりこっち……「中寄り」地域はよく砂が飛んでくる。
連邦は、かつて魔境だったところを奪還してできたところだ。
しかし、その元魔境の大部分は、魔力のない砂漠になってしまっているという。
「マリー。元気そうだな」
「ストックも!久しぶり、ハイディ」
「先月来たばっかなんじゃが?
久しぶり、マリー。ダリアも」
「ええ」
外套のフードから覗く顔は、魔女姫と予言の子。
ボクの友達の、ダリアとマリーだ。
マリーは今、ダリアの元で一緒に暮らしている。
この子、聖国人なんだけど、行く当てないんだよね。
で。ボクらは神器船建造絡みで、連邦にはもう何度か来た。
ダリア、マリーも、それに関係している。
まぁ今日はそっちの用事はなくて、先の通りただ遊びに来たんだよ。所長送りついでに。
来るたびにだいたい仕事で自由に回れないから、一度くらい観光しようとなっていてね。
今日は二人に、ちょっと飯処を案内してもらう予定なのだ。
……いや、今更思ったけどさ。
ダリアは王女なんだから、街中の飯屋案内はなんか違くない??
「じゃあ早速だけど行きましょうか。
通好みから入りやすいところまで。より取り見取りだから。
一度七番街まで行って、そのまま斜めに三番街まで突っ切るわよ」
「はぁ。街ごとに特色があるんだっけ?」
「言うほどじゃないけどね。
まぁ油麺、塩油麺、太麺の順かしら」
「分かった。払いはこちらで持つし、そちらは好きなように食べてくれ。
我々は気になるものをそれなりに食べて行く」
「OK。連邦貨幣は?ないと支払いひと手間かかるけど」
「十分用意してきた」
「わかった。案内するわね」
腹がなりそうなのを、気合いで抑え込む。
今日はイスターン連邦、有名どころの麺巡りツアーだ。
「へいらっしゃい」
ダリアが引き戸を開けると、元気な声が聞こえた。
いい感じに油のにおいがするなぁ。
玄関入ってすぐの砂落とし場で服を十分はたいてから、店内へ入る。
空調はちゃんと効いてる。素晴らしい。
外はカラッとしてるけど、あっついからねぇ。
気持ちいいわ。
「あれ、ダリアちゃん。そっちは?」
「友達。マリーどうする?」
「ここは私もで」
「じゃあテツさん。いつもの四人前」
「そっちの嬢ちゃんたちは大丈夫かい?」
「この子たちの方が、私らの何倍も食べるのよ。平気」
「そりゃいいね。席は好きにな。待っててくれ」
…………王女、手慣れてるんだが。
むしろ明らかに常連だ。マリーも連れ回されてる感があるし。
デートで来るとこ??ここ。違くない???
手も洗わせていただいてから、カウンター席の奥まったところに、四人座る。
一番奥がストック、次がボク、ダリア、マリーの順で店の中央よりとなる。
タンブラーが積まれていたので、水をポットから注いで他三人に回す。
砂の国ではあるんだが……連邦はちょっと治水を頑張りすぎたらしい。
水の価格が死ぬほどやすい。今のところ、有料のところは聞いたことがない。
まぁだいたいの街がギボス沿いだから、っていう理由もあるようだが。
王国でも、河から遠いところの内陸寄りでは、飲料水は魔道具頼みなのでそれなりにする。
果実酒の方が安いくらいだな。
地下水は山寄りなら豊富にあるんだけど、ところによっては全然ないらしい。
ちなみに飲料水事情がいいのは、西の国が主で、東の方は少し勝手が違うそうだ。
質が違うんだと。コーヒーはいいが、お茶の味がかなり変わるそうな。
まぁコーヒーはそもそも、東の聖国の一部地域でしか栽培されてないけどねぇ。
そういや、地球とこっちで明らかに同じなのに、名前が違うものがある。
黄土根と芋……じゃがいもとか。紅水魚ってのがあるけど、あれは鮭っていうし。
なお連邦の特に西では普通に鮭というらしいよ?よくわからんねぇ。
で、コーヒーはそのままなんだよな。
こうした、名称の一致を見ることは……ボクの知る限りでは少ない。
ひょっとすると、コーヒー自体がゲームに出てないから、かもしれないなぁ。
黄土根や紅水魚はゲームに登場している。
おかげで変な感じだ。
芋と鮭じゃダメだったんか。ダメなんか。
「水が相変わらずうまいな、連邦は……」
「王国だって水はおいしいんじゃないの?」
「悪くはない。ただあまり飲まないな。
タダで出るところはないし、それなら果実を混ぜてあるほうがうまい」
「甘くないのが飲みたいときはどうすんのよ?」
「炭酸」
「あー」
ボクの右と左で会話が進む。
ダリアとストックは、割と仲良しさんだ。
一方、マリーはたまにストックに対して毒が出るので、ほどほどの間柄になってる。
まぁ小心者のマリーが気安くしてるから、馴染んでる方ではあるんだけど。
次の投稿に続きます。




