B-2.同。~前からボクを知る者たちのコメント~
~~~~マリー?ちょっとマリーさん???
「続きまして。ファイア大公家ご令嬢」
いや、ギンナなら大丈夫やろ。
『ハイディ?そうね。望まれるならなるわよ。
あの子が私を恋人に望むなんて、ないでしょうけど』
吹いた。
お茶は入ってないけど、むせた。
『彼女は私の理解者。挑むべき頂。
そして自分が貴族令嬢であることを忘れるくらい、完璧な淑女。
いつも見惚れてるわ。戦いの中でも、本当に美しかった。
あの山で斬られた瞬間、歓喜を覚えたくらいだった。
それはあり得ないことではあるけれど。
あの子に望まれる――――悪く、ないわね。
ベルと比べて?
……………………。
ベルは私の唯一よ。比較はできないわ。
ハイディもまたそうだとは言えるけど、別口ね』
「以上」
「…………」
「…………」
「コメント」
「…………ボク、ギンナ倒しちゃったからね。
それで美化されてるんでしょ」
「コメントありがとうございました」
幼児がつやっぽい声出さないでほしい。
というか、唯一……ベルねぇが?
あの二人、前のときほとんど関係なんてなかったよなぁ?
こっちで会ってから、何かあったんだろうか。
「続きまして。元第三皇女にして、現モンストン侯爵家ご令嬢」
『ハイディ?愛しているとも』
「カハッ」
血が出たわけじゃないけど、何かで胸を抉られたかのように体が跳ねる。
何言い出すのメリア!?
『だが伴侶として喜ばせるのは難しかろうな?お互いに、興味が湧くまい。
ハイディがそうしろというなら、喜んでするがね。
ああいっそ、尽くし合うのもいいな?たまらん想像だ。
まぁ、そうはならん。私は太陽を汚す趣味はない。
ミスティと比べてみよと。ほほう。
ミスティの場合は、望まれれば、ではない。私の望みだ。
私はあまり主張が得意な方ではないが、これだけは譲れん。
あの女は、私のものだ。二度と離すものか。
ハイディは――いくらでも拾い手がいるだろう?』
「…………」
「…………」
「コメ」
「メリアはストレートだからな。そこを強く踏まえてるんだろう。
それを踏み越える気は、ボクに対してはないということだ。
ミスティがいて、それどころじゃないしな」
「コメントありがとうございました」
すごい疲れた。どっと重さが体に来る感じが……。
あとストックの圧が強い。強すぎる。
「最後はこちら。イスターン連邦アーサー氏族の王女殿下」
『ん?好きよ。今すぐ抱いてほしいくらいには』
「……!……ッ!」
ボクはあまりの単語に何か体が跳ね回ってる。
『でもあの子、私のことは趣味じゃないわね。
ああ、ストレートだってとこじゃなくてね?
好みの問題よ。私はいいけど、たぶん良い仲になっても無理させちゃうわね。
負担はかけたくないのよ。あんなに真っ直ぐ私を見てくれる子の、重荷になりたくない。
そうでなくてもたくさん無茶をするんだから。私が少しでも支えてあげないと。
でも……好いてくれたら、素敵ね。どんな王子より、王女より、最高よ。
ハイディ以上の人を、私は知らないわ。
マリーと比べて?比べらんないわよ。
私はマリーのために生きてるの。私の世界とは、マリーとそれ以外。
マリーとハイディの比較は、できないわ』
「…………」
「白状しますと、あの子には一度、迫られたことがあります。蹴り飛ばしました」
「コメントありがとう。
で、そういう感情は向けられたことがないって?」
ないです。ダリアのあれは、彼女の気持ちがぐっちゃぐちゃになったときのやらかしだから、ノーカン。
普段はほんと、そんな風に全然見てこない。思い返してもない。
それに比べると、ストックの方はだいぶはっきりしてる。学園の頃からだ。
「ないよ。それは間違ってないし。
内心はともかく、みんなボクを恋人や伴侶にしたいとは考えていない。
詳細もそうだし、最初に君が言った通り、無理寄りの無理、なんだろ?」
ストックが肩を竦める。
「らしいな。よくわからん。
こんなに好いているのに、そこは絶対無理なんだと」
「同性愛者も混じってるのにな。どういう情緒なんだろう……」
「むしろ逆に聞かれたぞ」
「逆?」
「『ストックはハイディの何がそんなにいいんだ?』って」
「何がいいんだよ?」
「何もかもだよ」
さらっと言いやがって。
たぶんこう、みんなの……あれやこれやは。
障害を越えて、ボクの気持ちを無視してまで、そうする積極性はない、ってことなんだろうな。
そしてストックには、あるいは各々が自分の伴侶と定める相手に対しては、それがある。
気持ちを無視っていうと、だいぶ語弊があるけど。
万難を排する?というか。人生を賭して、というか。
「というかこんなの、いつの間に録ってきたんだよ」
「こないだちょっと集まったろう?そのとき、七人で卓を囲んでな」
「ボクがビオラ様と一緒に、カワーク行ってる間だな?それ」
「そうだ。『第四回ハイディ語り』の中で行われた。
さすがにそれぞれ、個別で対面方式でとったが」
「君たちさてはばかなんだな!?」
ボクを肴に茶や酒飲んでたのかよ!?
しかも四回目って多いだろ!!
なお、後日「七本目」を発見し、聞いた。
正直、六人のはとっっっっっても控えめだったとだけ、ボクからはコメントしておく。
ちょっとこう……幼い身には、刺激が強すぎた。
犯人には、罰としてまず七本目を一緒に聞かせ。コメントを求め。
八本目を作って、聞かせてやった。
特に怒ったりはしなかったよ。うん。
おかげで、何でそこまで思ってて恋人は無理なん?って疑問が、氷解したから。
つまり友達らは、ボクの容姿が好みじゃないのさ。
もちろん、今の子ども姿だけじゃなく、大人の時のも含めてだ。
ダリアやマリーにしてもそうみたい。
そこがHITしてるようだったら……ボクは半島から逃げ出す羽目になってたろうなぁ。
そうならなくてよかったよ。
ボクも、ストック以外は無理寄りの無理、だからね。
(注釈というか言い訳。あるいは感想)
重たい感情がハイディに集中する、百合ハーレムにならなかったのは何で?
という疑問からスタートした小話です。
ハイディは作中女性からは絶望的にもてません。ストックの趣味が変わっているのです。
普通、友達に好意を向けられるというのは、あまりいい気分ではないでしょう。
ただ半数はハイディと殺し合ったことを覚えていますし、皆それを知っています。
それゆえに気を遣った結果……なぜこんなことに?
お酒のせいで、漏れてはいけない何かが垂れ流しだったのでしょう。
素面の子がいますが……ちょっとストックをからかっていると思ってください。たぶん。
ストックの分?載せてはいけない悍ましい情緒で溢れたので、カットされました。
ハイディのストック評についても、御察しです。長さは120分フルにありました。
なお容姿については、ハイディは「男性から見るとかわいい。女性から見ると普通以下」です。
ストックはその逆で、とても綺麗ですが、男性からは好かれないタイプです。




