B.ストックの悪ふざけ:ハイディ一味に聞く、ハイディ評。
――――なんだこの……なに?
ある日。
「結論から言うと」
「なんの話かさっぱり分からないぞストック。
どうぞ」
ボクらは煮詰まっていた。
どう計算しても、大きくした場合の総神器機構のエネルギー出力の減衰が高すぎる。
車両はOKだが、かなり小さい神器船がギリギリどうかというところだ。
ストックと二人で考えているものの、出てくるアイディアは小粒なのまで。
ブレイクスルーにつながらない。
だがオーダーは中型神器船だ。ここは突破しないとまずい。
そもそも、研究所が作れないとなってしまう。大ピンチだ。
しょうがないので休憩しようとなった、昼下がり。
聖域ドーンのロイド邸、二階のいい感じの部屋でくつろいでいる。
陽光も柔らかいし、これバルコニーに出てもいいかなぁ。
そんなことを思っていたところに、煮詰まったストックの唐突なコーナーが始まった。
「『ハイディは無理。無理寄りの無理』との回答だった」
吹いた。
お茶ちょっと含んでたから、危なかった。
「何の話だよ」
突っ込んでから、ちゃんと一口飲む。
次のやばい発言の前に、飲んでおきたい。
「君の友達に、聞いて回ったんだよ。
そのものずばり。
『ハイディは恋人にできるか?』」
「ブフォ」
ダメだった。間に合わなかった。
淑女にあるまじき吹き方をした。
そしてむせた。
体をくの字に曲げて咳き込む。
背中さすってくれるのきもちぃ……ではなくてな?
「人の友達になんてこと聞くんだ。
しかも君が聞くのかよ」
「私以外が聞いて回ったら、普通にこじれると思うが?」
「それはそうだろうけどさー。
なんだ、結構前に言ってたが、気になってんのか?
実は良い仲なんじゃないのかー?って。
あり得んだろ」
「ほっほーぅ」
なんだそのボクみたいな反応の仕方は。
おい、なんだ今取り出したじゃらっとしたのは。
録音の腕輪じゃないか。しかも六つ。
え。ほんとに全員に聞いてきたの?
ばかなのストック?
「どのくらい録音できるのか?と思ってな。
せっかくだから確認しつつ、音声をとってきた」
おばかだったわ。
ボクに聞けやそんなのっていうか仕様書渡したろうが。
フル充填で120分だっつーの。
「ではまずこちら。ファイア大公家侍従の方から」
なんか勝手に進めてくし。ベルねぇか?
『え、はい?ええ。あ、もうこれでいいんですか?
――――あ、はい。は?ストック様、だいじょうぶ、ですか??
はぁ。まぁそれなら。ハイディはすごくいい子ですけど、恋人とか、ちょっと……。
えっと、正直に言うとだいぶ無理な方です。
何でもできちゃうし、やっちゃうし。
その、あんまり近くにいると疲れそう、というか。
わ、私がほら侍従ですので!なのにこう、何やっても上を行かれるし……。
私の方がお姉さんだと思ってたのに。実はずっと年上ですし。
え、はい?ギンナ様と、比べて??はぁ。
ギンナ様はお仕え甲斐があります。
とても……とても尽くしていたくなる。どれだけやっても、満ち足りません。
ハイディにはそうはならないですね。
あの子はそう……やっぱり友達がいいです』
「以上だ」
「…………」
「…………」
吹かされるのを警戒していたが、それはなかったな。
お茶を静かに飲む。
「何かコメントを」
「ボクに求めるんかい!?
ベルねぇはそりゃそうやろ。
謙遜してるけど、あの人は相当できるし。
上を行くのは単純に経験年数の差で、前は逆だったからな。
ずっと一緒にいたら、そら疲れるさ。お互いに」
「コメントありがとうございました」
何このノリ。
「続きまして。コンクパール公爵家ご令嬢」
いやミスティはそりゃ無理じゃろ。
『――――ハイディを恋人に??
……ダメですね。私、ハイディに溺れちゃいます』
「ブーッ!」
めっちゃ吹いた。淑女みまでどっか飛んでっちゃったよ。
自分でハンカチ取り出して、テーブルとかを拭いていく。
その間にも、音声は続く。
『クルマの趣味は違いますけど、それは好みくらいの話で。
話も合うし、一緒に冒険出るの、楽しそうです。
でもきっと、メリア以上に私を甘やかしてくれる。
あれはダメ……ダメです。ハイディがいれば、ほかはいらないってなっちゃいそうで。
ちょっとかっこよすぎるんですよ、あの子。
私では扱い切れない。きっと、ダメにしてしまう。
はぁ、メリアと比べて?
メリアはいいんですよ。私、全力で溺れる気ですし。
あの子とはそうなっても、ダメになりません。
むしろそのくらいでちょうどいい関係なんです。
ハイディとは、もっと楽しく友達したいですね。
刺激的で、一緒に居てとてもわくわくします』
「以上だ」
「…………」
「…………」
「コメントをどうぞ」
「ミスティはだいたいが抜けてるから、世話好きをぶち込むと、まぁそうなる。
長い年月でも自己を失わない、自立した人だからね。
自分を律した、そういう意見になるんじゃろ」
「コメントありがとうございました」
なんか雲行き怪しくなってきたんだが。
続けて大丈夫なのか?これ。
「続きまして。聖国出身の女性」
『ハイディですか?大好きですよ』
「ブフォゥォ」
もう、くちに、なにか含むの、やめよう。
『でも絶対恋人にはならないです。
幸福に絡めとられて、何もできなくなる。
私、ハイディを失望させたくないので。
でも大好き。あの世界を睥睨するような目が、たまりません。
あの子のためなら、何でもしますから、言ってくださいね?
え?ダリアさんと比べて、ですか??変なこと聞きますねぇ。
ダリアさんには、失望されてもいいので。ずっとずっと見ていたいです。
あの人相手だと私、不思議と自分を晒すのが怖くない。
ハイディは……まだちょっと怖いです。とても優しくして、くれそうで。
そんなふうにはしないって、わかってます。嫌われることもないって。
それでも、受け入れてもらえなかったら……生きていける気が、しません』
「以上だ」
「…………」
「…………」
「コメントをどうぞ」
「……ボク、この子に親代わりみたいに見られてるから。
そう接するって、約束もしてるので」
「コメントありがとうございました」
絶対違う湿度と糖度を感じる声だったが、忘れる。
まぁ彼女がダリアを弄るときの比ではない。大丈夫だ。
「さて。ここまでのグルーピングがわかるかね?相棒」
なんか唐突に変なこと聞かれたんだが。
グループ……。
「呪いの子ではない、こっちで会った子たち、か」
「つまり次からが本番です」
え?
その構えた腕輪は誰の声が入ってるんだね???
次投稿をもって、本話は完了です。




