A-4.同。~お土産(仕事)を渡して見送る~
~~~~よし。一仕事終わって、ほっとしたわ。これで……重大な懸念が話せる。
武術と呪縛が併用できるなら。
魔導と呪縛だって併用できるはずだ。
両者は真っ向から衝突するような現象ではない。
聖教の信者が、特定のワードに反応して、重大事を本国に通知する。
そういう仕組みがないと、聖国の持ってた各国の情報精度が高すぎるのだ。
多少の間諜がいるだけでは、説明がつかなかった。
前の時間の聖国は、あの混乱期に異常なほどうまく立ち回っていた。
その秘密がその仕組みにあると、ボクは睨んでいる。
「む。それは……結びつくな」
「父上、人が、呪いを?」
「呪縛と呪詛の違いはわかるね?アスロット。
王国の精霊は呪詛の使用は厳しく罰する。
だが呪縛は見逃す。それを利用した手法が、世にはいくらかある。
魔導との組み合わせは、聞いたことはないところだが」
アスロット様も引いておられる。
まぁ初めて知るとそうよね……。
「アスロット。聖国は呪いを使っているという噂は、元々あるのよ。
王国以外の場所でやっているという話だったけど。
呪縛と法術を組み合わせて、複雑な手段で諜報活動としている、というのが今回の話よ」
「叔母上……少々、衝撃的な話です」
国防としては耳が痛すぎるよね。
聖国は徴税隊と呼ばれる、信徒から魔力を徴収する人らを各国に派遣してる。
条約で彼らはこの徴収行為を認められているから、簡単に外国に入り込める。
この辺を中心に諜報活動を広げられていると、非常にやりにくいだろう。
大丈夫かな?間諜そのものについて、もっとえぐい話があるんだけど……。
まぁまずは通報の方か。
「洗礼法術で名を与えて縛り、これを時間をかけて呪縛へとしていく。
その上で、禁句集に抵触した場合に、通報が発生するのではないかと」
「聖教聖書の禁句集だね?」
一応触れておくが。ロード共和国の聖女派経典には、この内容はない。
禁句集が載っているのは、ウィスタリア聖国聖教の聖書だけ。
ついでに言うと、洗礼があるのも聖国だけだったはずだ。
「はい。名前と魔導がキーなので、ウィスプの力で破棄できる可能性があります。
名前と魔導が失われると、呪縛の原因がなくなって、呪いが失効します」
「検証が少し大変だね……」
「ご協力いただいて、一人試せばいいのでは?
例えば、コーカス・ファイア様は洗礼名をお持ちと予想しますが」
大公閣下は聖国と共和国、二つの聖教国家に強いコネクションがある。
本人も聖教徒。表向きは聖国の方だ。
そして聖国聖教徒なら、洗礼名は持っている。
「ああ……コーカスか。
しかし、洗礼名を破棄させてばれないものか?」
「魔導ですし、ばれません。
遠くの魔導使用状況を監視する手段は、この半島にはないですから」
「呪いの方では?」
「この手法の場合、信者の方が自らを呪っている構図です。
当然、自身の呪いが解けたらからって、それを知らせる手段はありません」
この半島で遠くに情報を渡せるのは、緊急通報の魔導だけだ。
あらかじめ通報先の人の魔力を何らかの手段で持っておき、そこに情報を伝える。
ただ使い切り前提だ。多量の情報を渡す場合、非常に高精度な魔導となっていく。
魔道具にもなっているが、超お高い。でも冒険には欠かせなかったな。
車両契約にも同様の機構が入っているが、これは精霊ウィスプの力の流用である。
ウィスプはまぁ……例外のようなものだなぁ。
人が自由にできるわけではないが、通信しているようなものでもあるし。
王国内にしか、働かないけどね。
「わかった。こちらで慎重に検討を進めてみよう」
「ちなみにもう一つの方。えぐい事例を知っているのですが……」
「間諜自体の方かい?どういう?」
「イミテーションエイプ、という魔物をご存知ですか?」
「……古いが、王国を揺るがした大事件じゃないか。
国の小さな子供を浚って育て、呪いで先兵に仕立てた魔物が攻め込んで……。
まさか」
「ボクもまた、聖国に浚われた一人。
あそこの国は、王国から人を浚うルートを持っています。
そうして育てた人間に呪縛をかけ、戻している」
さすがにキース様も引いてる。アスロット様は言葉と色を失ってる。
おいしいご飯の後で、こんな話してごめんよ。
「……イミテーションエイプの件は、古すぎてほとんど記録がない。
だが近い事例があるなら、同様のことが可能かは、疑わないといけないね」
6000年前となっていた。ほとんど伝説だ。
このエイプの侵攻が大事件になった理由は二つ。
一つは、先兵となった子どもたちが恐ろしく強かった、らしいこと。そう記録されてる。
もう一つは想像だが、その先兵を殺せなかったことだ。
殺すな、犯すな、呪うな。王国民の子どもを殺せば、殺した方が精霊に罰を受ける。
「小さな子ども、ということは。公契約を結ぶ10歳未満です。
公契約があると、戻された場合はいろいろなところでばれますから。
でもそれ未満だと、周りから疑って照会されないと、はっきりしない。
確かその状態でも、小さな村落なら活動が可能なはずです。
そしてその活動で地位や名声を得れば、より大きな街に出ることも」
王国民は、生まれたときに王国民登録を。
10歳で公契約を。
15歳で成人契約を結ぶ。
それぞれいろいろと違うが、何かやって精霊がすっ飛んでくるのは、公契約と成人契約から。
例えばだが、ボクらが王国内で人を殺しても、すぐ精霊が飛んでくることはない。
そのかわり、公契約を結んだ段階で発覚し、罰せられる。
王国民登録だけした子をまず浚う。
それを15-6まで育ててから、王国にそっと戻す。
王国民登録があるので、国内には素通しで入れてしまい、活動ができる。
何か悪事を働いても精霊は飛んでこないし、罰せられることもない。
未契約状態だとばれさえしなければ、密かに活動し続けられるのだ。
もちろん罪を犯して人に掴まって未契約状態がばれ、契約させられたら、その時点ですべての罪を償うことになるが。
恐るべき点は、この手段をとっているとして。それが王国にまったくばれていないことだ。
どれほど統制のとれた間諜なのだろう。
人さらいの方もだ。
王城から浚う時点でとんでもないが、何か秘密があるのだろう。
「そうして王都を含め、要所で活動している工作員がいる、と。
先の通報の呪いと合わせて、か。精霊の目を完全にかいくぐっているな」
「対王国用の諜報活動手段でしょう。
通報については先の通りですが、工作員は一網打尽にする手段が思いつきません」
「それこそこちらに仕事さ。ありがとうハイディ。
アスロット、帰るよ」
「は、はい!?父上、もう!?」
「さすがにこれは、すぐ持ち帰らないといけない。
国防もだ。派手に動けない分、時間が要る。
またゆっくり話をしよう。ハイディ。
リィンジアと、メリアも」
「あ、ちょ。父上!っと。皆さま、失礼いたします。
リィンジア。とてもおいしかったよ。ありがとう」
「こちらこそ、兄上。お帰りお気をつけて」
お二人はそそくさと出て行った。
あー、まぁ。話したらこうなるんじゃないか、とはヴァイオレット様も言っていたが。
「御苦労さまハイディ。あとは大人の仕事。
あなたはいい加減、休みなさい」
「あー……ですがヴァイオレット様。
いい神器船工場が見つかったので、ボクはシャドウに下見に……」
「「休みなさい」」
「はい」
姉妹で揃って言われた。くそう。
「ドーンにいながら、どうしてシャドウの工場が見つかるのかわからんなぁ……」
「それがハイディだよ、メリア。
では母上、叔母上。私が責任もってハイディを休ませますので。
デザートを用意していますので、皆さんはこちらでお召し上がりください」
デザート!?聞いてないぞボクの……
「もちろん、お前のも用意してある」
えっと。
なんでそう、艶やかに笑ったし?ストック。
次の投稿に続きます。




