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【完結】逆行した幼女と令嬢は車で旅に出る~ボクは4歳で攻略されたので、乙女ゲーや王子たちは今更来てももう遅い~  作者: れとると
第一章幕間.聖暦1083年夏~1086年春-二人が意味もなくいちゃつく日々-
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A-2.同。~卵宇宙、開闢~

~~~~宰相は少々軽んじられる。だからこそ、力ある家が輩出してる、とも言えるね。


 当主でもないのに、ストックが勧める。


 何せ今日の料理はすべて――――



「もしかして、リィンジアの作かい?」


「はい。お父さま」


「リィンジア。令嬢がこのような……」


「……どうぞ?」



 また思わず手を挙げてしまった。


 キース様に促していただいたので、口を開く。



「お二人は、リィンジア様の料理を口にされたことがないご様子。


 ならば召し上がればお分かりになるでしょう。


 このもてなしは、リィンジア様自らが振るわなければ、できません」



 アスロット様がキース様を見て。


 二人、スプーンを持って、スープから口をつけた。



「これは……」


「……何のスープなんだい?リィンジア」


「ただの野菜スープ、ですね。王国の野菜をふんだんに使ってあります」



 目に見える具材は何も残っていないが。ただの、とは。



「ベースは芋ですね。黄土根のポタージュです。


 色合いは、豆を混ぜているので出ています」



 芋と豆の緑のポタージュ、には見えない。


 エメラルドグリーンの、透き通った液体である。



「ポタージュはこうはならないでしょう、リィンジア」


「メリア姉さま。丁寧に濾せば、難しくはありません」



 濾せばいいってもんじゃない。絶対違う。



「代わりを用意してありますので、御申しつけください。


 食事の礼からは少し離れますが――王国民の矜持として。


 持て成す相手のおなかを、満たさぬわけにはいきません」



 あっという間にスープを飲んでしまったお二人に、ストックが告げる。



 すぐないなっちゃうのよね。ストックの作るもの。


 とてもおいしい。複雑なのに、邪魔するものがほとんどない。


 味わい深いのだけど、口の中からいつの間にかいなくなっていて、次を食べたくなる。



「他のものも、どうぞ味わってくださいませ」





 会食が穏やかに進む。


 お二人ともお気に召したようで、よく食べておられるようだ。


 たまに言葉を交わしているが、食事の話題が中心だ。いいね。



 ボク?もちろんかなりいただいてる。というかこれ、ボク好みの奴ばっかりだよ……。


 ご家族への紹介の席で、ボクの好きな料理ばっかり出すとか。


 どういう高度な惚気だねストック。



 ほどほど食べたところで、一部皿が下げられた。


 目の前が大きめに開けられて……追加の皿が出てくる。


 何だ?ボク聞いてないやつだぞ?



 なんだろうこの黄色いの。新しい皿に、黄色い半球……楕円染みた何かが。


 見たことはな…………


 瞬間、ボクの脳裏に電撃が走る。まさか、これは!?



 思わず震える指でそれを示しそうになる。


 自重しろボク。まだ慌てるのは早い。



「おや?ハイディ。たまごは苦手ですか?」



 違うのメリア。そうじゃないの。


 ボクが真っ青な顔してるから聞いてくれたんだろうけどね??


 違うのよ?ちがうの。



 これがね?丸羽鳥のたまごにみえるの。それも何個も使ってるやつ。



「いえ…………はじめてみるので。これはまさか」



 ストックの方にそっと顔を向けると、満面の笑みだった。


 そしてボクにそっと言った。



「共和国では食べられなかったと、聞いた覚えがあったからな?


 せっかくだから私が自ら輸送し、作ってみた」



 くあーーー!


 静まれ、ボクの中の怪鳥!!!



「こここここここここ……」


「……羽鳥の真似か?ハイディ」



 怪鳥ちょっと出ちゃった!


 ちがうの!そうだけどそうじゃないの!


 のうがおいつかねぇ!



「これは!伝説の!丸羽鳥卵のお、オム!オムレツ!!」


「ほー。卵を何個も使うという。贅沢ですねリィンジア」


「ハイディは卵が好きだというのですが、王国ではなかなか手に入らなくて。


 ファイア領が地産地消している以外では、あとは王都だけ。


 少々大公領に御用事がありましたので、仕入れてまいりました」



 魔物肉は高級品だが、加工燻製が祝いの席などに出たりもする。


 だから食べたこと自体は一応はあった。


 ほかの高級食材なんかも、こないだの旅路で思ったより口にした。



 でもね。



 卵はまずそもそも輸送できないんだわ。地産地消ならいいけど。


 この国では畜産は盛んではないので、すっごい貴重なんだわ。


 魔法を使えば何とかなるかもね?でもそれ庶民の食卓にあがるわけないっしょ。



 ちなみにファイア領では畜産しているわけだが、鍛冶の都である領都ではやってない。


 なので以前の滞在の折も、口にする機会がなかった。



 乳製品も同様に貴重だけど、あっちはまだ運べる。高級品だけど、流通がある。


 それを遥かに上回るあのた、たまご……卵を。これいくつ使ってるんだ?


 確かそんなに大きくないだろ?二個?三個?



「今日のは卵を五個使ったオムレツ。


 味付けは柔らかいものにし、卵を味わいやすくしております。


 ――――どうぞ」


「ご!?」



 わからない。なぜそんなぜいたくしちゃうの?


 五個もつかってるの?


 それがこんなにしっとりかたまるの??



 皿が皆にいきわたり、幾人か食べ始め、感嘆の声を上げている。


 もうこの時点で、ボクの手は震えている。



 隣で食べだすメリア。


 というか赤実ソース!オムレツにかけちゃうの!?いいの??



「ん。たまごが濃い……しかし酸味と合わせるとたまりませんね」


「私は甘めにしたほうが好みだが、こういうのも悪くない」



 メリアとキース様が前に食べたことあるような会話してるぅ。


 きぞくってすごい。



 思わずのどがなる。


 手の震えを懸命に抑えながら……スプーンを、もって。



 ああくずれそうなのに、さっくり切れてやわらかい。


 濃厚な香りが広がる。


 とろっと卵液がたれて、もったいないぃ……。



 すくって。ひと、くち。



「…………………」



 がんばれ!がんばれボクのぜんさいぼう!


 しゅくじょ!ここで淑女力崩しちゃだめだから!


 あああああああああああああああああああ!



 食べよう!



 ペースを!崩さずに!一定の!間隔で!集中して!



 あじ!しあわせなあじが!ひろがっちゃうから!


 濃い!とろっとしたのが!たまらん!うまい!

次の投稿に続きます。


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