X-4.同。~9人目を迎える~
~~~~ふふん。我ながら会心のプレゼントだろう?気に入ったかね。
連れてこられたのは、ドーン機関部の、エネルギー炉。
先日ボクが暴れたところだ。
これは……ご指名、ってことか。
人が、いる。
「お母さま。お待たせしました」
「こんな時間に悪いわね。二人とも。
別に今でなくてもいいのだけど――聞きたいことがあってね」
ストックのお母さま、ヴァイオレット・ロイド様だ。
だろうな。おかげでいろいろ繋がったよ。
どうやってそれを勘づいたのかはわからないけど。
ボクを何度か見てたのは、このためか。
ただただ、この件を解決できることを、期待していたんだな。
邪魔を倒したあたりで、特別な存在であると目をつけられたかな?
「そちらの方の、お名前ですか?」
「っ。知って、いるの?」
「いいえ?たぶんお聞きの通り、これは本人以外は知らないはずで、本人からは言えないものです。
わ……ボクも聞いたことがありませんでした。
ヴァイオレット様が名前をつけられないのは、ご本人が認識できないから、ですね?」
「ええ」
「あとス……リィンジア様も、見えていないんですね?」
「そうだ」
まぁストックは血縁者だしな。たぶん、赤子の頃に会ってるんだろう。
関係性が元々あると、認識できなくなるんじゃないかな。
それにしても…………。
ボクに淑女の何たるかを教えた人が、とっても行儀の悪い座り方をしている。
制御盤の上は、腰かけるところじゃございませんよ?
前にここに来た時もなぜかいたから、いること自体は驚かないんだけどさ。
あの時はお話ほとんど聞けなかったから、ちょうどいい機会だろう。
なお、その時は一緒に暴れまわってくれた。おかげで手早く済んだ。
金の髪に、赤い目。
顔立ちは、言われて見れば似てる、くらいなのだな。
そりゃ結びつかんわけだ。
「なるほど。役として死ぬはずの運命のものが、何らかの理由で生き延びた場合。
元々関係のあった方々とは互いに縁が切れ、認識できなくなるんですね?
その方は、前に内魔結症を患っていた、と聞いたことがあります」
近代では治る病気で死ぬはずだった人は、役としてはそこで命運が尽きるのだろう。
だが本人の命が、役の終焉以降も失われなかったらどうなるのか?
ある意味、世界に忘れられた存在になるのだろう。
そう。だからこの方は、調べても名前や来歴が出てこなかったのだ。
めっちゃにっこにこなその人。魔都の貴族と聞いていた人。
クレッセントの創設者。
ボクらは「オーナー」と呼んでいた人。
「転じて、ご本人と役柄上で関係のない人間とは、縁が切れないようですね。
ボクは、『ウィスタリア』としては縁のない方。
名前については聞いていませんが……ヴァイオレット様の妹様、でいいのですね?」
親族だと思ったのは、ただの勘なんだけどね。
よくよく考えると、貴族出とは聞いたんだけど「魔都出身」とは聞いてなかったんだよ。
ならどこの貴族か?なぜここにいるのか?と考えたら、まぁそれしかなかろ。
ご年齢としては、オーナーの方が下で合っていたはず。
「ええ。王家から一緒にロイドに養子に出されたのよ。
その後一度帝国に嫁いで、体を悪くして王国に戻ってきて。
手術で治ってから……行方が知れなくなっている」
おおう。もしかしてと思ったら、そっちもか。
「今そこにいるのは、ミスティに探させたから、ですか」
「ええ。とても優秀で、助かっているわ。
……それで?」
さて。
妹、というなら単純だ。
つまり、この方を見て、ヴァイオレット様がつけそうな名前が、一番近い。
それを、当てる。
袖口をすっと加え、雷鳴を布に流し込む。
瞠目する。頭の中で……撃鉄を起こし。
引き金を引き、目を開いた。
マリーの予言ほどの、精度がないが。
あなたとの縁を辿れば。
ボクでも、手が届く。
「ビオラ。合っていますね?」
ボクが手で示した制御盤の方を、ヴァイオレット様が驚愕の目で見ている。
彼女の正しい……魂の名が呼ばれたことで。
周りから再び、認識できるようになったのだろう。
しかしですね。
今更ゆっくりそこ降りて来ても、淑女失格は免れんからな?オーナー。
瞬きをし、瞳の色を戻した。
「合ってる。久しぶりね、ハイディ」
そっちは聞いておらんのやが??
この人はボクが初めて会った魔導師。知り得ないことを精霊の囁きで知る人、だったけど。
その場合、ボクを知っているだけで、久しぶりとはならんやろ。
「ボクは精霊の囁きを聞く人を、精霊の子というのだと思ってましたが。
その様子だと、なんか違うんですね?」
「あなたの言う、役。これを失くしたものは、魂が循環しなくなる。
喪失の理由は様々だけど、私の場合は病気が治ったからね。
つまり私やミスティって子みたいなのを、精霊の子というのよ。
……ごめんなさい姉さん。久しぶり」
「名前も忘れてしまう、不甲斐ない姉でごめんね。ビオラと呼んでも?」
「ええ、ぜひ。
小さい頃は呼んでくれてたのよ?
そこも忘れてしまうのでしょうけど」
なんと。
まぁそこはいいや。
「メリアにはまだ?」
「ええ。あの子も私のことは分からないから。
だから今日、後でびっくりさせてあげるの」
ミスティにも口止めしてるってことか。
「おいちょっと待てハイディ。なんでそこでメリアが??」
なんだストック。そこは聞いてなかったのか。
「さっきヴァイオレット様が言ってただろストック。
王家から貴族家に養子になった……つまり元王女で。
帝国に嫁いで、王国に戻ってきたって。
聞いたことのある話じゃないか?」
「……メリアの探していた、お母さまか」
メリアの身の上話は、彼女とこっちで再会した後、ストックにも共有してある。
「そう。メリアを生んだ後で、役を喪失してるから、メリアからは認識できないってこと。
でも役でない名前を得られたから、これからはビオラとして認識される」
しかし、似てねぇよな……。髪の色は一緒だけど。
ビオラ様は髪の癖の付き方は、ヴァイオレット様と一緒で波打ってる。でもメリアはそうじゃない。
皇帝の血が強いんかな。
なお、この国は王女は皆、貴族に養子に出されるらしい。
養子ではなく、嫁のケースももちろんあるそうだが。
ただ稀に、王家の精霊に後継として指名され、女王が生まれることもあるんだとか。
しかし。
ここが繋がったのは、ボクが意図したことでも何でもないが。
メリアの望みが叶えられたのは、本当によかった。
次投稿をもって、本話は完了です。




