X-2.同。~君の危機にこそ、そばにいたい~
~~~~不安なんて、人にぶつけるものじゃないのだけれど。ごめん……いや、聞いてくれてありがとう。ストック。
わかっていそうだから言わないで置くが。
その機会を作るのが、意思と選択だ。
そしてそれは、領分の中でこそ発揮される。
領分とはすなわち、己が責任を果たすべき範疇。自分以外の誰もやってくれないところ。
そして己が責任を果たすべきことにこそ、人の熱意とやる気は発揮される。
それを果たそうとする積極性が、生まれてくる。その積極性が意思を生み、選ばせ、機会を作ってくれる。
あの時。すでに友のすべてが役に操られていたのなら。
ボクの心を救えるのは、ストックしかいなかっただろう。
ストックがそうしなければ、ボクはただ悲嘆と無常に飲まれ、石となって果てた。
彼女は自身以外の何者もが為さない――ボクを含めて――、ハイディへの救いとなる道を。
自らの意思と、選択と、能力で切り拓き、その機会を勝ち取ったんだ。
君は貴族だし、知恵や力の不足に悩む立場だ。それは分かるよ。
でもボクは、君に救われた女は、その尊い意思をこそ重んじる。
「そしてストック。君はボクのピンチには必ず駆けつけてくれる。
必要なとき、必要な場所に、いつだっていてくれた。これは前の時からだな?」
そう。ボクにとってのストックは、メリアにとってのミスティと同じだ。
ここぞというとき、いつもそばにいてくれる。
たまに、思う。
ボクがゲームで主役なんて嘘だろ?って。
この子こそ主人公だよ。ボクの――救い主。
「だから……心配なんだよ」
「何が不安なんだ?」
「逆はないから。ボクは、君が必要なとき、そばにいられてるか?
そうじゃないだろう」
ボクが不安に思っているのは、そこだ。
ボクにはその「機会」を得る力が、ない。
邪魔が彼女を吹っ飛ばしたとき、ボクは身動き一つとれなかった。
タトル公爵に演技とはいえ、ストックが倒されたとき。ボクはその場にいなかった。
ストックが、あの山を命を削って駆け上ってきたとき……ボクはそれを知ることすらできなかった。
思い返せば前の時、何度も何度もそうだった。
ボクはどうして、自分が本当に欲しい機会に、辿り着けないのだろう?
まぁ、邪魔んときのは油断と実力不足かもしれんがね?
けど結構距離が離れていたし……ほんの少しの間にああなってた。
勘が働いたとしても、雷光で駆けつけるのは不可能だったろうな。
ボクが何よりもストックを大事にしてて。
終わったと思った後、すぐ彼女に駆けつけて。
それなら、間に合いはしたかもしれない。
ただその場合は、二人そろって昏倒した恐れもある。
……ままならない。
すごく、もやもやする。
「いいや。お前はいつだって、私の心に寄り添っていてくれているとも」
「……百歩譲って、そこは認める。君の心の救いにはなれてるんだろうさ」
見えない何かがある。
それが君に迫るとき、ボクは果たして、そこにいられるだろうか?
また何もできず、何もかも終わってから気づくことになるんじゃないか?
ボクはあのコンクパールから、まだ何も変わっていない。
君に救われて――甘えてるだけなんだよ、ストック。
「でもボクは、君の命が失われるのが我慢ならない。それをこそ、どうにかしたいんだ。
言ったろう?君に死なれたショックで、戻ってきたと」
「言ったな。そんなに私は頼りないか?」
「ボクが最も頼りにする、絶対死なないと思ってたやつが死んだんだよ。
ボクの絶望を理解しろ。
フェニックスを作って渡してたから安心してたら、君は結局石になったんだぞ?
しかもそれは……まるで、ゲームの顛末を、なぞる、ようで。
あんなの、もう、やだ」
感情が昂ぶり、言葉に詰まる。
生きる支えが、ここにあったんだと理解した瞬間に。
ボクのそれは、失われた。
目が覚めて、時間が巻き戻っていることを……フィリねぇが生きていることを理解して。
あの瞬間の、大きすぎる希望が、忘れられない。
それが失われることが、怖くてたまらない。
君といられなくなるのは、嫌だよ。ストック。
……頭を、抱え込まれた。
後頭部を優しく撫でられている。
「ハイディ。やっと、私のやるべきことがわかったよ。
お前の友も助けるが。
何よりお前の後悔は、私に死なれたことに違いないんだな。
ならば私は、己をこそ救わねばなるまい」
「ぐす。最初っから、そう言ってたのに。ばかもの」
「悪かった。少々盲目になってたんだよ。許しておくれ」
顔を上げると、そっと目元を拭かれた。
見つめ合って。
ストックの瞳が、近づいてくる。
思わず、目を閉じる。
ストック――――。
次の投稿に続きます。




