25-6.同。~勇者には聖なる加護を~
~~~~ストックはいい仕事をしてくれた。ただちょっと早くない?
まぁ、いくら元と素材があったとはいえ、作るの早すぎだけどね?
勘だが、ストックはたぶん、これを作ったことがある。
……事情をいう気はないみたいだから、教えてくれるときまでは、黙っておくけどさ。
いろいろ、想像はつくしね。
「復活者?」
「そう。聖人」
「フェニックスに込めた魔導に元々あった、攻撃性能を削った。
自己の破壊をトリガーに再生・復活するという、その点にのみ注力した品だ。
フェニックスの欠陥は、『炎で攻撃もする』という機能から発生していてな。
その熱量発生が制御全体を難しくし、工材の破壊も促進していた」
「いやいや、それ削ったら攻撃性魔道具のコンセプト放棄してるじゃないの」
「そうだね。でもこいつが使えるものもまた、魔道具で叶っていないそれに違いないよ」
ボクの知る聖人とやらはいろいろ条件があったとは思うが、確か奇跡の癒し、がキーになる。
リヴァイヴァーは癒しを与える。それも、ただの魔導のそれではない。
「こいつはほんのわずかだが、結晶を魔素に戻す働きがある。ほんとうにちょっとだけどね。
フェニックスには結晶化を鈍らせる働きがあったが、それに特化した形だ。
その神器を持つものは――――石にならない」
「「!」」
そう。これを作ることで「魔結晶は魔素に戻る」という事象を証明できてしまった。
正直、ボクらとしてはそれができただけで、もう満足だ。
「無論、それを絶対に保証するものではないがね。
それから、一つだけ欠点がある」
「欠点、ですか?ストック」
「使い手を選ぶ、ということだ。起動に必要な結晶出力が尋常ではない。
私、ハイディ、メリアは起動できた。ミスティはダメだった」
「ああ、例の色付き……」
ダリアが、ボクの右手辺りを見て呟く。
こないだ話したときに、二人にも色付きの不思議な魔結晶のことは語ってある。
「そう。そいつを持ってない中で、同じことができそうなのは、マリーだけだろうね」
「私が持って、いいんですか……?」
マリーは腰が引け気味だが、持ってもらわないとちょっと困るなぁ。
「いや、我々の中で神器を引き続き使うのは、君だけだ。
その上で……私でもハイディでも、超過駆動ができなかった」
「試験してないってこと?」
ダリアが訝しんでいる。
これは試験してないと思ってるんじゃなくって、ならどうやってやった?って聞きたいんだな。
「いや、したよ。二人がかりでやったらできたから。
別に危ないものじゃないから、その辺は使いながら試してみて。
仕様書は袋に入れてあるから、ダリアは読んであげてね」
「ほんっとに、とんでもないもの作るわね……」
「やったらできちゃったんだよ。しょーがなかろー?
というわけで、マリーなら使いこなせるだろうから、君にあげるのが適切。
気が引けるというなら、使用感とか次に会った時に聞かせてよ」
「……わかりました」
マリーが一度剣の柄を握り締め、鞘に戻した。
布で再びくるんで、大事そうに持つ。
ストッカーに雑に入れてええんやで?頑丈に作ったしな。
「ちょっともらいすぎたわね。また返しきれないものが増えたわ」
「お互い様だよ」
「だといいわね。じゃあ……そろそろ行きましょうか、マリー」
「はい。ではまた。ハイディ、ストック」
「ん。気を付けてね」
「待ってるからな。ダリアも」
「ええ。二人とも、またね」
二人が手を振って、ドアの外へ消えて行った。
「そういえば口をはさめなかったから、言いそびれたが」
「なんぞ?」
「車両契約くらいなら、もう結べるんだがな」
「え?なんで?」
「私らが先日何をしたか、もう忘れたのか?」
「あのさ、それは正当に評価しちゃダメじゃない?」
「便宜を図ってもらうくらいなら、よかろう」
「ボクは怖くてやだよ」
「聖域の一つくらいなら、ねだればもらえるかもしれんぞ?」
「あー……いらない」
ストックは冗談めかして言うが、これほんとにもらえかねんやつだな。
あれだ。ディックの持ってた四つ目のメダル。
公式には、彼の管理していた聖域は三つのはずだ。
隠し聖域というかなんというか、そういうものがあるのじゃないかな。
で、帝国はそれを今回の件の代価に譲り渡し、手打ちにするんかな。
王国に敵意を向けられたら、帝国はあらゆる意味で持たない。
過激派の暴走なんて、全力で叩き潰し、地に頭をこすりつける勢いで詫びたいところだろう。
だがもらったところで、人員がなければ動かせない。
ボクやストックという過剰な神職適性者は、そこにやるにはちょうどいい人材になる。
けどボクはやだな。
「なんでだ?」
「ドーンの巫女なら、君と穏やかに過ごせるだろ。
他のものなんて、いらないよ」
「……それもそうか」
うーん、でも嫌な予感がするなぁ。
ここんとこ、大丈夫やろと思ってたら魔物に襲われたりするし。
なんかそれと、似たような雰囲気を感じる。
やっとドーンについたのになー。
もう少しゆっくりしようぜー?ボクらまだ四歳だぞ。
ちょっとは子どもを謳歌させろや。
次の投稿に続きます。




