25-5.同。~魔女には杖を~
~~~~君らはこれからが大変だけど。一緒に、頑張ろう。
しかしこの工具、充填式だな。
バッテリーが外部についているやつ。内臓じゃなくて。
こやつ……ボクがあれ研究してたの、知ってるからか。粋なことを。
前の時に作った、肌の傷を隠すごく小型の魔道具。
あれに外部バッテリーや、魔力なしでも魔力充填できる仕組みをつけようと、四苦八苦してた頃がある。
後者は検証はできたんだけど、モノを作る前に忙しくなっちゃったんだよね……。
さて、そろそろ止めてあげよう。
「マリー落ち着いて。
ちなみに、ストックも同じ日だよ」
大物を持って戻ってきたストックを手で示す。
「んぐ……そっちは何も用意してないわよ?
下手なものあげられないしね」
「何も上げられない私の身になってくれません??」
「そうは言うけど、消えものくらいしかないわよ?
小物とか服とか上げるのは、やめたほうがいいし」
「プレゼントでそれを外したら、何も残らないですよ?
というか何でです??」
「その子らのリボン」
マリーがダリアの襟から手を離し、しげしげとボクとストックのリボンを見る。
ストックも今日は、普通の……ボクのあげたやつだ。
金属の留め金がついてたり、クリップになってるやつではない。
あの辺り、動けるようになったら探しに行きたいなぁ。
「おそろい……ですかね」
「はいどーん!」
「いたっ、なんでお尻叩くんですか!?」
「乙女失格。それはお揃いじゃなくて、互いの色よ」
「はぇ?」
マリー、そんなに人の目ぇみんなし。
「おお……ほんとだ。お互いに贈り合った、とか?」
「まぁそうだよ。ボクのリボンはストックがくれたやつ」
「私のもそうだ。ハイディにもらった」
「あ、え?ひょっとして服とかも??」
「ん。まぁこれは贈り合ったとかじゃなくて、ストックの仕業だけど」
「おや、お気に召していなかったかな?」
「君のセンスには敵わないよ。毎日かわいくしてくれやがって」
ストックが自慢げだ。
マリーはあわあわしている。
言わないでおいてやるが、マリー。
君がいつの間にかつけてる緑のバレッタも、そういうことやで?
どうせさりげなく贈られたんやろ。
ダリアは一見、赤い装いだが、ところどころが橙。左手首の腕輪が白金。
自分の色に、それとなく混ぜてるのか。
君らどういう関係になったのかわからんけど、ちょっと気が早いんでない?
「で、話を戻すけど。こっちからも二人にプレゼントだ。
二人とも、6の月の5の日だからね。
そっちの二本がダリア用。調整は国元に帰ったらやってみな。
もう一つはマリーにだ」
ストックが袋に包んである長物を、二人に渡す。
ボクは動けないから、ここしばらくの間にストックに作ってもらった。
ありものからの修復だから、手間はそんなにかかってない。
「これ、鍵杖……そうか。あんた仕様知ってるもんね」
「こないだ、また折れちゃってたから。ストックに頼んだ」
「ちゃんと仕様通りの工材を使ったぞ。これなら耐久性も十分だ」
「!これっ!?」
袋を開けたダリアが目を見開き、そしてボクを見た。
ボクはにやりと笑って見せてやった。
ちなみに「仕様通り」は大嘘である。
もちろん、うそつきは仕様を伝えたボクだ。
これはかつてボクらが作ろうとしていた、「理想通り」の杖。
前に作ったときは、もう手に入らなかった工材をいくつも使っている。
主なところは王国製。あとは連邦や、魔都のものも入っている。
彼女と一緒に見た、移動しながら戦略魔法を掃射する聖域ロゼッタ。
「私もあれやってみたい!」がきっかけになった、滅茶苦茶な魔道具。
ダリアが袋から出した二本の杖を、そっと抱きしめている。
「ありがとう。ハイディ、ストック。
大事にするわね」
ストックと二人、顔を見合わせて、つい笑顔になった。
そういえば、マリーが静かだな?
……袋から取り出した剣を両手に持って掲げ、何かめっちゃ興奮したご様子だ。
不意に、ぐりんと首が回る勢いで、ストックの方を見た。
「それは、元はフェニックスという神器だった」
先日、柄の基幹部分をばらした、あれである。
残りの希少工材を使おうとなっていたが、それを再利用した神器だ。
いやこう、つい思いついてしまってな?
「フェニックスは、通常の駆動範囲で高周波数帯の魔力励起を行う。
通常駆動が超過駆動に相当するんだ。
そして超過駆動が通常駆動に相当する」
「何のためにそんなことを??」
「普段から当たり前のように、魔導を起動できるようにするためだ」
「そんなことしたら、神器ぶっ壊れちゃうのでは?」
「魔導そのものに再生効果を含むものを使ったので、これが回避できる」
「すごいじゃないですか!?」
「代わりに、使用者はすごい勢いで石になる」
「ダメじゃないですか!!」
「それを抑えるための超過駆動を入れてたんだけどね。
いくつかの欠陥があって、ストック以外はまともに使えなかった」
あの再生能力は相当なものがある。
超過駆動が可能なら、使用者はほぼ常時稼働させるため、不意打ちで首を刎ねても蘇る。
そしてその程度の傷の再生なら、超過駆動込みだと全然石にならない。
だからボクは、ストックは不死身だと無意識に思っていた。
あの山でやってきた彼女が結晶化していたのは、それどころではない負傷を数えきれないくらいしたからだ。
あの魔導は、別に痛みを消してくれるわけではない。
どれほどの道程だったのか……ボクには想像もつかない。
そして。
これはその不死鳥の灰から、生まれたもの。
「その神器は、フェニックスをもとに再構築したものでね。
名を、リヴァイヴァーという」
次の投稿に続きます。




