1-4.同。~目指すは我が故国、エングレイブ~
~~~~危機は脱した。このまま、次を目指そう。
「結晶は、どこに取り込んだの?」
「右腕です。刺しましたが、もう傷跡もありませんね」
「…………非常に適合率が高いと、ほとんど石化しない、と聞いたことはあるけど」
「伝説ですね、それ。症例としての記録はありません。
…………ここに実例がありますけど」
「そうね」
……フィリねぇにめっちゃ睨まれてる。
まぁ、急に四歳児がこうなったら、訝しむよね。
「フィリアル。この子はウィスタリアよ。安心しなさい」
「えぇ~……」
「頭打ったら、急に18年くらい老けただけですよ」
「そんな馬鹿な」
ゆっくりとハンドルを回し、方向を修正する。
頭の中の地図、元いた位置、速度と時間、そして感覚。
カーナビだっけ?そんな便利なものも、目印すらないので、魔境走行はこういう感覚頼りの旅になる。
ボクがほんの少しだけ、自由だった時期を思い出す。
神器担いで、わずかな物資を載せてクルマに乗って。
追い立てられるように、各国を巡っていた頃。
「フィリねぇは休んでていいですよ。
エリアル様には、念のため周り見ててほしいですけど」
「ウィスタリアは大丈夫なの?というかそれでちゃんと見えてんの?」
ん?ああ、フィリねぇ神器車乗ったことないのか。
今、エリアル様の膝に乗ってる彼女からは、何も見えないよね。
でも魔境で窓を開けるのはNGです。魔物や眷属がカッとんできます。
やつらは魔力流は怖いが、人間=餌で、常に飢えてる。油断大敵。
「大丈夫ですよ。運転手は見たい方向が全部素通しで見えますから。
同乗者もある程度見えますよ。フィリねぇは外が見たければ後ろに座ってください」
座席に座ってないと、外は見えないんだよ。
もちろん、座ってる人が扉側の窓を開ければ、そこは誰からでも見えるけどね。
「まじかよ……。
ん、でもまだ休めないかな。聞きたいことが、あるんだけど」
「はぁ。なんでしょう」
「王国に行くのはいいけど。どうして?」
鋭いなぁ。
さっきまで王国行きの神器船乗ってたんだから、その流れだって思いそうなものなのに。
ボクに何か目的があるって、ちゃんとわかって……この子ほんとに9-10歳児か?
…………この人たちには、ちゃんと話しておいた方がいいな。
ボクは秘密主義は嫌いだ。何でも正直に話すものでもないけど、限度ってものがある。
「目的は二つ。
一つは、王国にボクの本当の家族がいます。
ただ……まだ会わない方がいいんですよね?エリアル様」
「そうね。また浚われる恐れがある」
「でしょうね……」
やはり、この人はボクがどこの誰か、知っている。
でもクレッセントにあったボクに関する情報の出所は、エリアル様じゃなかった。
この人は、彼らにボクのことを秘していた。
それゆえかはわからないが……激戦地に追いやられ、始末されたんだろう。
なんとなくだが、亡くなった状況から、そのように思う。
その環境で、なんでボクを連れてクレッセントから王国に行かなかったかって言えば、そりゃこういう事情か。
王国に内通者がいるのか、セキュリティが甘いのかはわかんないけど、ボクにとっては安全ではないのだろう。
「ウィスタリア。あと一つは何?」
「友達が、いるんですよ」
「へぇ~……どんな子?男の子??」
なんでそこで、によによしてくるんだこの人。ませてんのか。
……いや、10歳って普通はそういうお年頃か?
ボクはそういうのなかったから、よくわかんねぇな。
仕事と生活で、それどころじゃなかった。
「女の子です。人の墓になりに来るような、感情の重たい子」
「……いみわかんないんだけど」
そうだね。自分で言ってみてもよくわかりません。
わかんないけど……嬉しかったんだよ。
また、会いたい。もう謝ることは、できないだろうけど。
今の彼女は、ボクが知ってるあの子とは違う。
それでもできれば、彼女の苦難を、少しでも取り除いてあげたい。
今度は理想を叶えるとかじゃなくて……まっとうに、力になりたい。
「その子のこと、聞かせてくれる?」
「はい。エリアル様」
んじゃあまずは思い出話を聞かせて。
ボクが何をどうしたいかは……その後に話をしよう。
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