25-2.同。~我ら王国民と精霊は、異物を屠るために在る~
~~~~絆が、繋がる。
もう体なんてほとんど動かないし、フジツボはどう考えても攻撃向きじゃない。
でもそんなことは気にしなくていい。
ボクはただ一言。その名を呼ぶだけ。
メリアの繋いでくれた未来を、その先に導くんだ!
天を、落ちようとする最後の砂を、見る。
エングレイブ王国、西の守護神よ。
来たれ!
━━━━『サンディ・ザ・フォース』。
ボクから仄かに紡がれた言葉が、世界に刻まれる。
二柱の精霊王が行ったのは、邪魔を封じる砂の魔法じゃない。
それは最初から……彼らの子どもを、生み出す儀式。
この世にいてはならない魔物を追放する、新たな精霊の創造。
くぼ地から一気に砂が踊りだす。
巨大な首に飛び掛かり、巻き付き、絡めとった。
首が暴れようとするが、徐々に抑えられていく。
開こうとする瞳が、片っ端から砂に覆われていく。
そこが……眼球のように盛り上がっていて。
あれはおそらく、精霊の眼。
至近でそれと視線があったと思しき目のあたりが、崩れていく。
「何が……起きてるの?」
マリーに抱えられて、ダリアが降りてきた。
『魔物は、この世界を見ることで生きている生物。
あれは精霊の眼を通して、この世界ではないところを見せられてるんだよ』
「えぐいわね……」
瞳が急速に、なくなっていく。
なんとなくわかる。ボクが当初数えたとおり、数は722個。
その最後の一つが……もう消えた。なんと、あっけない。
跡地には……なんか赤い派手なスーツの御仁がいよる。
いや砂なんだけど。存外すっとしてるな?
息子。息子?
彼?の近くにいつの間にか、球体紳士も来ていて。
その頭にはやっぱり、ドレスの玉がいて。
三柱の精霊はこちらに一礼すると、荒野に歩んでいって……消えた。
あまりの光景に、正直脳の理解が追いつかない。
…………じゃない。これ単に、あれだ。
限界だな。
『ダリア、マリー』
「何?」
「なんでしょう」
『もうむり。後頼んだ』
また結晶が砕け散って、ボクは地面に倒れ伏した。
さすがにもう、意識が持ちません。
ストック――――。
くそっ!そうだ!意識が持たないとか、言ってる場合か!
ストックの容態を確かめないと!
無理にでも体を持ちあげようとし……動かない。
ここでストライキとは、いい度胸だな?ボクの体よ。
ならば――動けるようにするまで。
「ちょ、何してんのハイディ!?休んでていいのよ!」
ダリアの声を無視して。
ボクは、魔素のすべてを放棄した。
力が、抜ける。
瞳が、黒く染まる。
糸で操られた人形のように、体が動き出す。
起き上がれた。ストックは……ベルねぇがまだ抱えている。
「スト、ック……」
「何やってんのよ!?ええい、ちょっとベル!ストック持ってきて!!」
「は、はい!?はい!」
ボクが何mか進む間に、ベルねぇがストックを抱えたまま走ってきた。
両の腕を、天に掲げるように差し出す。
「ハイディ……」
腕の中のストックを見てから、ベルねぇがそっと彼女の体をボクに渡してくれた。
抱き留めて。膝をつき。抱き寄せる。
……息は、ある。鼓動も、体温も、問題ない。外傷、内部のケガや病気、その他異常も見られない。
生きて、る。
少し気持ちが緩んだ瞬間、身が震え出した。
……これ、は?
今更、怖くなった?
腕の中のストックを、見る。
会った時には手遅れだった、あの山での彼女に、その姿が重なって。
震えが、止まらなくなった。
「やだ……やだよぅ。しんじゃやだよぅ。すとっく……」
ストックをかき抱く。
涙が、溢れてくる。
「はぁ!?ベル!!」
「い、生きてますって!脈も息もありますから!?」
「ベルさんが言ってるのは本当ですダリアさん落ちついて暴れないで!?」
「そんなこ……げ、ハイディ?」
たまらず、声を上げ、ボクは泣き始めた。
友達の前で泣くとか、たぶん、初めてだ。
そのままボクは、子どものように。
魔素が体にいくらか戻り、瞳が黒から赤になって。
気を失うまで、泣き続けた。
次の投稿に続きます。




