24-5.同。~相棒と踊る――――荷電粒子砲、発射!~
~~~~意外で、期待以上の、友の助力を受けた。あとはボクと相棒に、任せろ!
自然に、口角が上がる。
ボクは岩山から飛び立った。
空中で再び、結晶を集めにかかる。
<――――どうか。この身に、呪いあれ。>
彼女の、宿業の結実が世界の言葉に乗って、響いている。
君の業と言えば……やはりそれは彼らのことなのだろうか。
ボクが斬った人もいるのに、背負っているのは君なのか、ストック。
━━━━『呪文。』
彼女が、呪文を唱える。
━━━━『紫陽蛇獣[竜蝨]、顕現!!』
英聖に綴られた、呪文が成立する。ストックの左手から、急速に結晶化が始まる。
結晶はあっという間に全身を覆い、巨大な紫の石英となって彼女を包み込んだ。
地上に巨石が出現する。
墓標に……そのケダモノの名が刻まれていく。
<――――業 竜・応報。>
世界の言葉が響き渡り、その法則が小さく書き換わる。
巨大な石英にヒビが入り、奥から眩い光が漏れ出す。
<――――獣性・解放!>
爆音が轟く。
石が砕け散り、巨大な獣が残る。砦のような体。
まさに竜。ただその羽は蝙蝠というより、虫のそれだろうか。
体は青紫の結晶でできているが、広がっていく羽は一枚一枚が硬質で、美しい。
水底のように青い、大きな瞳が此方を見る。
ボクもまた地上に降り立ち――新たに呪文を唱える。
フジカズラのままでもいいが……ここは、多数撃破に長じる彼女に力を借りよう。
━━━━『呪文。紫電雷獣[フジダナ]顕現!!』
英聖に綴られた、呪文が成立する。ボクの体が、再び巨石に戻る。
墓標に刻まれる名は、フジダナ。ミスティとの間の、因果。
刹那――メリアの手を握る彼女と、目があった気がした。
<――――業 雷・応 酬。>
世界の言葉が響き渡り、その法則が小さく変更される。
石英に、稲妻のようなヒビが入った。
<――――獣性・変化!>
雷鳴が轟く。
石が砕け散り、巨大な獣が残る。全身の体毛が非常に長い、狼のような獣。
その血のように赤い大きな瞳が、ボクの呼吸に応じて爛々と輝く。
一撃で、すべての目と体を蒸発させる。
ならば全力を尽くすしか、あるまい。
深く息をし、雷獣套路を踏む。
この套路は、八つの要訣により成り立つ。
それを二より八まで踏み、一に至らせる。
『――――雷獣套路。要訣二、云号の相。帯電。』
全身の結晶が、長い毛が、光を帯びていく。
前はこれ一発だけで気絶してたけど、今は大丈夫だ。
この結晶を神経の延長として使う。
その上で、その中で電流を増幅させる。生身の体の中は使わない。
そうすれば、ボク自身は痺れず、完全な状態で、技が使える。
…………こんなの、日輪の魔素制御ができなきゃ、無理だったと思うけど。
『――――1つ、2つ、3つ!要訣三、阿号の相。放電!!』
雷光が立ち上る。
空間そのものが、広く帯電していく。
『要訣四、跳び捌き。感電!
要訣五、地駄滑り。電影!
要訣六、廻り還り。伝導!
要訣七、登り返り。召雷!』
跳び、地を滑り、弧を描いて回り、後方に宙返る。
そのたびに、全身の毛から結晶が分かたれ、飛んでいく。
目標は、ボクの確認した奴の目の正面。そこに辿り着き、止まって浮かぶ。
ちらりと見ると、竜が同様に踊り、結晶の鱗を飛ばしていた。
ボクらの欠片が、砂で固まる邪魔の周囲に、配置されていく。
『雷獣套路。要訣八、双爪。雷光発勁!!』
大地を踏みしめる。
四肢を踏ん張り、尾から口元までが、直線になるように構える。
『要訣一、鳴言。雷呪咆哮――』
そして最後に……二人で、呪いの言葉を唱える。
━━━━『『呪文。』』
満ち満ちた雷が、開いた口腔前に集まっていく。
彼女もまだ、陽の光を収束している。
━━━━『荷電粒子』『陽電子』『『砲』』
雷が、陽光が、赤くなり――フッと消える。
━━━━『『発射!!』』
刹那、無数の鱗結晶から吐き出された何かが、やつらの瞳と体と、そして大地を滅茶苦茶に抉った。
無音無光のストックとボクの矢が、すべてを粉砕する。
戻ってきた結晶を回収しつつ、様子を見る。
…………。
追加の岩が飛ぶことも、再生が始まることも、ないようだ。
ダリアとマリーの歓声が、ちょっと響いてくる。
ミスティがメリアを抱えて、こっちを見ている。
近くには、ベルねぇとギンナもいるようだ。
『ミスティ!』
「すごかったですよハイディ!」
『そんなことないさ。今から恰好つかなくなるからね』
ミスティやベルねぇが、首を傾げているのが見える。
『もうむり。後はよろしく』
全身の結晶が砕け散った。
中空に生身の体が露わになり……そのままべしゃりと地面に落ちる。
できるだけ伏せた姿勢にしておいてよかった。
ストックも同じだろう。ちょっと向こう見れないけど。
さんざん友達に助けてもらっておいて、恰好つかないなぁ。
瞼が重い。目を閉じ、意識が離れかかる。
その時遠くで――何かが割れるような音がした。
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