24-4.同。~友と力を合わせ~
~~~~再生能力高いにもほどがあるでしょ?もう少し生き物らしくしよう?つまり死ね。
まだ、ギンナの速度に慣れておらず、かなり余分に走ってしまった。
しかも、つんのめってずっころんだ。結構な距離を転がる。
……強化済みだから痛くはないけど、恰好つかねぇなぁ。
起きて振り返ると。
肉の群れが、崩れ落ちるところだった。
魔素の消耗も大きい。できれば、再生が止まって、ほしいが。
…………。
だめ、か。
早くはないが、再生が始まってる。効いてはいる、しかしとどめになってない。
これはおそらく、皮の下にも目があるな。
あるいは単純に、耐久力がかなりあるのか。
どーしよ。
思案し、茫洋と遠くを見るボクの目に……よく分からないものが映った。
体が反応し、思わずできる限り上空に飛び上がる。
地上の彼方を見る。
──間違いない。あの豆粒みたいなの、ギンナだ!
そして右手を掲げる彼女の構えは……その技の名は確か。
『大地・絶唱』。
ボクは前の時、やらかす前後からできる限り地平を行くのを止めた。
もしキリエが何らかの理由でボク狙って追いかけて来た場合、なすすべもなく殺されるからだ。
この技を使うと、彼女自身も巻き込まれる──そんなとこにいる以外、防ぐ手段がない。
ギンナの拳が、大地を叩く。地が、割れる。
皮の回りがぐるりと砕け、陥没した。
……人間が素手で成す結果じゃねぇだろ。
数mは沈まされたと見える。
奴の群れのほとんどが、地平より低い位置にいるだろう。
ギンナが倒れ――さすがに幼児じゃ魔素欠乏するわな――それを誰かが抱えて走っていく。
ベルねぇかな、あれは。
邪魔はまだ再生中だが、小さいもののいくつかが抵抗するかのように暴れ始めたようだ。
かなりの数の岩が、天に向かって吐き出されている。
ベルねぇなら当たりはしないだろうけど……加勢が必要だろうか。
ボクは、少し小高い岩山の天辺に着地した。
近めの同じような岩山の天辺に――何かあるのが見える。
たぶん、人が二人と、地面に刺してあるかなりの数の、神器。
君らもかよ!
「オーバードライブ!『魔力 乱流』!!」
マリーだ。
岩山の天辺で、激しい緑の魔力流に包まれる彼女が見える。
彼女の後方には……やはり、ダリアが。
魔女は白と黒の鍵のような魔導杖を掲げている。
その周囲には、無数の魔術陣が。
━━━━『天の、星よ。』
かつて彼女と研究した、魔導と魔力流の相乗効果。
━━━━『八より三に至り、五より九に廻りて、一にふるへ!!』
街一つを消し飛ばす、ダリアの戦略魔術。
大型の魔物でも包み込む、膨大なマリーの魔力流。
その二つが重なり――国落としの魔導となる。
「いっけええええええええええええええええ!!」
マリーが神器剣の一本を、両手でぶん回して、思いっきり投げた。
それが皮の一部まで届き――刺さる。
遅れて、冷気を纏った魔力流が流れ込み……魔物のすべてが一気に凍り付いた。
邪魔の魔導抵抗を抜くのかよ。尋常じゃないな。
岩の追加はしばらく来なさそうだ。
これならベルねぇとギンナは大丈夫だろう。
ただ二人……特にダリアは限界だろうな。
魔力の消耗も激しいし、何より杖が二本とも折れた。
「時間は稼いだわよ!メリア!!」
ダリアが声を張り上げた先に、黄色い神器車が見える。
その天井に、メリアが乗っている、けど。
メリア?ここでなんで??
彼女の位置は遠い。でも、その呟きが、不思議と聞こえた。
――――時間だ。頼むぞ。
彼女の後ろに、何かが現れる。
それは白い燕尾服に、シルクハットをまとっていて。
体はずんぐりしていて、頭部が――大きなのっぺりとした球体。
━━━━『サンディ・ザ・サード』。
力ある、言葉が響く。人が聞いてはならぬ、名前。
コミカルな姿に見えるが、間違いない。
あれは砂の精霊、サンドマンの……精霊王。
紳士が帽子を取り、一礼。小さな懐中時計を取り出した。
天から邪魔に、大量の砂が降り注いでいく。
砂時計の底に、閉じ込められたかのようだ。
だがその砂の中で、奴は氷の枷を砕いた。
群れ全体の再生は諦めたのか、真ん中の大きい奴だけがあっという間に蘇る。
大きさが、さっきの三倍くらいになってる。高い。
その首が、ゆらゆらとゆれている。
あれ振り回されたら、ひょっとするとこの辺まで届くぞ!?
ボクはともかく、みんなはまずい!!
――――手を貸してくれ、夫人。
は?
━━━━『サンド・サリー・サドマーヌ』。
紳士の額から非常に小さい、何か小さな球体が出てきた。
それ――おそらく手足の生えた小さな玉。ドレスを着ている――が、紳士の頭でびしっとポーズを決めている。
そして踊り出した。
踊りに合わせて、砂が、固まっていく。
力強く、魔物を抑えていく。
砂が首に到達し、一気にその振り回しが留められた。
奴も力を込めているようで、砂と魔物の力の比べ合いが見て取れる。
冗談のような光景だが、精霊王との二重契約?
ばかなの?こんな子を帝国にとられてちゃだめでしょ??
いつの間にか、クルマから出てきたミスティがメリアの手を握っている。
その手に仄かな魔力光。
力を供給してる……消耗が激しいんだ。
しかしなんて頭の悪い作戦だね、探偵殿。
一人でダメなら、みんなでフルボッコにしようってか?
いいね。ボク好みだ。
「砂が落ち切る前に!やってしまえ!!」
メリアの呼びかけが、ここまで聞こえた。
彼女の見つめる正面方向。割と奴に近い場所に……小さな人影が。
こちらを、見ている。
不敵に笑う、ストックと目があった。
次投稿をもって、本話は完了です。




