表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/518

24-3.同。~怨敵来たりて~

~~~~友よ。君の力を借りる以上、「このくにをまもるたいぎ」は必ず果たす。


 よし。


 せっかくだし、派手に行こう。



 普段なら、人目を気にするところだが。


 この街なら後ろ盾もある。しかもたぶん、かなり急いだほうがいい。


 緊急事態というやつだ。多めに見てくれるだろう。



「早めに押しとどめたほうがいいから、ボクはもう行くよ。


 ストック、早く来ないと終わっちゃうからね?」


「わかっているとも」


「は?え?行くってどこから?」



 律儀に突っ込んでくれるダリアは放っておいて。


 みんなに手を振ってからボクは……瞠目し、深く息をした。



 頭の中で、撃鉄を起こす。



 息が音に、音が声に、声が鳴動に、鳴動が雷鳴になって響く。



「__/\/\/\/\/\/\/\/\/\/ ̄ ̄!!」



 人から出たとは思えない音が、躍動し、暴れる。


 ボクの瞼の奥で電流が走る。


 紫の、瞳を開く。



 頭の中で。


 引き金を、引いた。


 閃光と雷光が重なる。



 激しい光となって――果てまで駆ける!


 塔の外に向かって駆け、柵を飛び越え、ほんの少しの抵抗を感じ……飛び出す。



 ――――あの邪魔(ヤマ)を倒すのなら、やはり彼女しかいない。



 思い浮かぶのは、蛇腹の剣一本だけで、ボクを死の淵まで追いやった、友。


 ただただ強かった。まさに山のようだった。


 君ならきっと、あの巨大な魔物も制するだろう。



 本気なら、いくらだって勝てたろうに。


 ボクの手を読んで、それでも真っ向から向き合ってくれた。


 二つにしたこと、謝りはしない。頼もしくボクを見送る君に、ボクも並び立つんだ。



 だから一緒に戦ってくれ、ギンナ!



 後ろでほほ笑む彼女の姿と。


 蛇腹の剣で互いを縛り、腕の中で力尽きる彼女が。


 重なって、見えた。



 空に身を投げながら――ボクの宿業が解き放たれる。


 日暮れに近い街中に、膨大な赤い光の奔流が巻き起こる。



<――――どうか。(どうか。)この身に、呪いあれ(あなたに、祝いあれ)。>



 世界の言葉が聞こえる。


 遠い未来から、ボクの業が因果を巡ってやってきて――追いついた。


 赤い光が、収束する。




━━━━『呪文(On)。』




 呪いの言葉を、唱える。




━━━━『紫電雷獣(Indra)フジカズラ(Avata)]、顕現(sowaka)!!』




 英聖に綴られた、呪文が成立する。ボクの右手から、急速に結晶化が始まる。


 結晶はあっという間に全身を覆い、巨大な紫の石英となってボクを包み込んだ。


 空中に出現した巨石が、一気に地に落ちる。



 墓標に……そのケダモノ、フジカズラの名が刻まれる。



<――――(Karma’n) (Indra)応報(version up)。>



 世界の言葉が響き渡り、その法則が小さく書き換わる。


 巨大な石英に、稲妻のようなヒビが入った。



<――――獣性・解放(Release)!>



 雷鳴が轟く。


 石が砕け散り、巨大な獣が残る。家屋のような体。


 フジダナよりは小柄で、しかし力強い。



 狼に近い四つ足の獣。その尾が、体そのものよりはるかに長い。


 体は赤紫の結晶でできているが、特に尾はまさに、紫水晶の剣。


 血のように赤い、大きな瞳が彼方を見る。



 ――――つよくなるには、あしこしからきたえる!



 ずっとそれを実践してきただろう、彼女の力を感じる。


 足に力を込めて踏み出すと……ボクが出したことがないような、信じられない速度が出た。



 聖域から一気に出て、荒野に着地。


 大地を駆ける。



 お前に恨みはないが。


 お前らと人類は、目が合ったなら戦争だよな!



 ボクは人類を代表する気はないが。


 覚悟してもらうぞ。




  ◇  ◇  ◇ 




 あっという間に近くまで到着し――すぐ戦闘を開始した。


 回避を重視しつつ、観察に努める。


 さすがに魔境の主の一柱……邪魔(ヤマ)を見るのは、初めてだ。



 まずとにかく規模がでかい。街のような魔物だ。


 そして不気味。生き物であるとは思えない。



 そいつは長い首の先に顔というより……くちばしのようなものだけがついている。


 そしてくちばしの上に、巨大な目がある。


 それが常にぎょろぎょろしていて……向きが合っているわけがないのに、たまに視線を感じる。



 また、背中には火山の火口のような穴があいている。


 しっぽも首ほどではないが長く、そちらにもくちばしと目がついている。



 そいつの攻撃方法は主に三つ。



 一つは、首かしっぽのくちばしでついばんでくる。


 もう一つは、背中の穴から岩石を飛ばしてくる。


 そしてもう一つは、呪いの視線だ。



 岩石は上空高く上がってから、意外に正確に落ちてくる。


 ついでに、瞳に見られると、呪いがかかるようだ。


 バジリスクより弱いが、同系統の邪視だな。



 特筆すべきは。


 それが同じ形で、大小さまざまな群れを成しており。


 そのすべてから攻撃が飛んでくることかな。



 遠くから見ると、中央のでかい一体だけ目立ってたんだよな。


 でも同じやつがその足元に、無数にいる。それが全部攻撃してくる。



 しかも群れとは言ったが何かこいつら、一つにつながっているみたいだ。


 足の下に皮のようなものがあり……これがすべてのやつにつながっている。


 皮の上に多量の恐竜?が生えている感じだろうか。



 奴ら自体は足があるのに歩いている様子はなく、皮が少しずつ移動しているようだ。


 ……正直、バジリスクの方がまだましなデザインだと思う。あっちは生き物してるし。



 群れの間を、飛ぶように移動し続ける。


 ついでに尾の剣で斬っていくが、再生が早い。


 そして……倒し方がわからない。検討はつくが。



 やはり呪いの力で、すべての目を同時に潰すしかなかろう。


 ただその目の数が、ちょっと多いんじゃないかな?


 確認しながら移動しているが、一体につき首としっぽので二つずつ。そこは間違いない。



 しょうがない。まずは全体の数と位置、稼働範囲を把握する。


 こういう、地味な作業は……得意な方だ。



 岩石、ついばみ、邪視ともに、食らうと結晶が砕かれる程度には、効く。


 痛みはないんだが、危機感の把握がし辛いな……。



 首が振り回される。避ける。


 視線の網がある。掻い潜る。


 岩石が降ってくる。交わす。



 首も尾も目も岩も。


 避ける避ける避ける避ける。



 避けながら、こちらの尾が肉を、目を切り刻む。


 すぐ再生するが、後ろから狙い打たれる数は減るな。



 一番大きいやつの首が、振り回される。避けて……当たった。


 なんだ、今軌道が変わった!?


 奴に比べればとても小さい獣の体が飛ばされ、視線の網にかかった。



 結晶がまとめて砕かれて……ボクの生身が露わになる。


 ボクを吹き飛ばした後の大きな首につく、巨大な瞳と、目が合った。


 ────口角が上がる。



 奴の目がほんの一瞬赤く輝き。


 ボクの瞳の紫が煌々と光り。


 その大きな目が、弾け飛んだ。



 ふん、やはり呪い合いならボクに分があるようだな?



 ボクの獣。体表の結晶は、汚い例えだが垢のようなもの。


 呪文で強くなってるのは、このボク自身だ。業の深さも含めて。


 普段ならいざ知らず、この紫電の獣に、呪いで勝てると思うなよ?



 大きな首の目の、再生が遅い。呪い合って返されたからか。


 群れの他の奴らも統制を失ってる──好機!


 リボンで結んた髪の一房。その先を彼方まで伸ばす。



 この技は、キリエ――ギンナの技だ。


 光速なんじゃないの?って速度で動き回り、蛇腹の謎剣を残し、斬る。



『行くわよ、ハイディ』



 その声が聞こえたのは……幻聴だろうか?


 力が、沸きあがる。



「――――行こう、ギンナ!『日輪(like) (the) ように(sun)!!』」



 声が、重なる。



 大地に足がついた瞬間、皮の中を、一瞬で端から端へ。


 目の数は、都合722個で間違いない。


 その全てを薙いで、走り抜けた。


次の投稿に続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――

幻想ロック~転生聖女は人に戻りたい~(クリックでページに跳びます) 

百合冒険短編

――――――――――――――――

残機令嬢は鬼子爵様に愛されたい(クリックでページに跳びます) 

連載追放令嬢溺愛キノコです。
――――――――――――――――
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ