24-3.同。~怨敵来たりて~
~~~~友よ。君の力を借りる以上、「このくにをまもるたいぎ」は必ず果たす。
よし。
せっかくだし、派手に行こう。
普段なら、人目を気にするところだが。
この街なら後ろ盾もある。しかもたぶん、かなり急いだほうがいい。
緊急事態というやつだ。多めに見てくれるだろう。
「早めに押しとどめたほうがいいから、ボクはもう行くよ。
ストック、早く来ないと終わっちゃうからね?」
「わかっているとも」
「は?え?行くってどこから?」
律儀に突っ込んでくれるダリアは放っておいて。
みんなに手を振ってからボクは……瞠目し、深く息をした。
頭の中で、撃鉄を起こす。
息が音に、音が声に、声が鳴動に、鳴動が雷鳴になって響く。
「__/\/\/\/\/\/\/\/\/\/ ̄ ̄!!」
人から出たとは思えない音が、躍動し、暴れる。
ボクの瞼の奥で電流が走る。
紫の、瞳を開く。
頭の中で。
引き金を、引いた。
閃光と雷光が重なる。
激しい光となって――果てまで駆ける!
塔の外に向かって駆け、柵を飛び越え、ほんの少しの抵抗を感じ……飛び出す。
――――あの邪魔を倒すのなら、やはり彼女しかいない。
思い浮かぶのは、蛇腹の剣一本だけで、ボクを死の淵まで追いやった、友。
ただただ強かった。まさに山のようだった。
君ならきっと、あの巨大な魔物も制するだろう。
本気なら、いくらだって勝てたろうに。
ボクの手を読んで、それでも真っ向から向き合ってくれた。
二つにしたこと、謝りはしない。頼もしくボクを見送る君に、ボクも並び立つんだ。
だから一緒に戦ってくれ、ギンナ!
後ろでほほ笑む彼女の姿と。
蛇腹の剣で互いを縛り、腕の中で力尽きる彼女が。
重なって、見えた。
空に身を投げながら――ボクの宿業が解き放たれる。
日暮れに近い街中に、膨大な赤い光の奔流が巻き起こる。
<――――どうか。この身に、呪いあれ。>
世界の言葉が聞こえる。
遠い未来から、ボクの業が因果を巡ってやってきて――追いついた。
赤い光が、収束する。
━━━━『呪文。』
呪いの言葉を、唱える。
━━━━『紫電雷獣[フジカズラ]、顕現!!』
英聖に綴られた、呪文が成立する。ボクの右手から、急速に結晶化が始まる。
結晶はあっという間に全身を覆い、巨大な紫の石英となってボクを包み込んだ。
空中に出現した巨石が、一気に地に落ちる。
墓標に……そのケダモノ、フジカズラの名が刻まれる。
<――――業 雷・応報。>
世界の言葉が響き渡り、その法則が小さく書き換わる。
巨大な石英に、稲妻のようなヒビが入った。
<――――獣性・解放!>
雷鳴が轟く。
石が砕け散り、巨大な獣が残る。家屋のような体。
フジダナよりは小柄で、しかし力強い。
狼に近い四つ足の獣。その尾が、体そのものよりはるかに長い。
体は赤紫の結晶でできているが、特に尾はまさに、紫水晶の剣。
血のように赤い、大きな瞳が彼方を見る。
――――つよくなるには、あしこしからきたえる!
ずっとそれを実践してきただろう、彼女の力を感じる。
足に力を込めて踏み出すと……ボクが出したことがないような、信じられない速度が出た。
聖域から一気に出て、荒野に着地。
大地を駆ける。
お前に恨みはないが。
お前らと人類は、目が合ったなら戦争だよな!
ボクは人類を代表する気はないが。
覚悟してもらうぞ。
◇ ◇ ◇
あっという間に近くまで到着し――すぐ戦闘を開始した。
回避を重視しつつ、観察に努める。
さすがに魔境の主の一柱……邪魔を見るのは、初めてだ。
まずとにかく規模がでかい。街のような魔物だ。
そして不気味。生き物であるとは思えない。
そいつは長い首の先に顔というより……くちばしのようなものだけがついている。
そしてくちばしの上に、巨大な目がある。
それが常にぎょろぎょろしていて……向きが合っているわけがないのに、たまに視線を感じる。
また、背中には火山の火口のような穴があいている。
しっぽも首ほどではないが長く、そちらにもくちばしと目がついている。
そいつの攻撃方法は主に三つ。
一つは、首かしっぽのくちばしでついばんでくる。
もう一つは、背中の穴から岩石を飛ばしてくる。
そしてもう一つは、呪いの視線だ。
岩石は上空高く上がってから、意外に正確に落ちてくる。
ついでに、瞳に見られると、呪いがかかるようだ。
バジリスクより弱いが、同系統の邪視だな。
特筆すべきは。
それが同じ形で、大小さまざまな群れを成しており。
そのすべてから攻撃が飛んでくることかな。
遠くから見ると、中央のでかい一体だけ目立ってたんだよな。
でも同じやつがその足元に、無数にいる。それが全部攻撃してくる。
しかも群れとは言ったが何かこいつら、一つにつながっているみたいだ。
足の下に皮のようなものがあり……これがすべてのやつにつながっている。
皮の上に多量の恐竜?が生えている感じだろうか。
奴ら自体は足があるのに歩いている様子はなく、皮が少しずつ移動しているようだ。
……正直、バジリスクの方がまだましなデザインだと思う。あっちは生き物してるし。
群れの間を、飛ぶように移動し続ける。
ついでに尾の剣で斬っていくが、再生が早い。
そして……倒し方がわからない。検討はつくが。
やはり呪いの力で、すべての目を同時に潰すしかなかろう。
ただその目の数が、ちょっと多いんじゃないかな?
確認しながら移動しているが、一体につき首としっぽので二つずつ。そこは間違いない。
しょうがない。まずは全体の数と位置、稼働範囲を把握する。
こういう、地味な作業は……得意な方だ。
岩石、ついばみ、邪視ともに、食らうと結晶が砕かれる程度には、効く。
痛みはないんだが、危機感の把握がし辛いな……。
首が振り回される。避ける。
視線の網がある。掻い潜る。
岩石が降ってくる。交わす。
首も尾も目も岩も。
避ける避ける避ける避ける。
避けながら、こちらの尾が肉を、目を切り刻む。
すぐ再生するが、後ろから狙い打たれる数は減るな。
一番大きいやつの首が、振り回される。避けて……当たった。
なんだ、今軌道が変わった!?
奴に比べればとても小さい獣の体が飛ばされ、視線の網にかかった。
結晶がまとめて砕かれて……ボクの生身が露わになる。
ボクを吹き飛ばした後の大きな首につく、巨大な瞳と、目が合った。
────口角が上がる。
奴の目がほんの一瞬赤く輝き。
ボクの瞳の紫が煌々と光り。
その大きな目が、弾け飛んだ。
ふん、やはり呪い合いならボクに分があるようだな?
ボクの獣。体表の結晶は、汚い例えだが垢のようなもの。
呪文で強くなってるのは、このボク自身だ。業の深さも含めて。
普段ならいざ知らず、この紫電の獣に、呪いで勝てると思うなよ?
大きな首の目の、再生が遅い。呪い合って返されたからか。
群れの他の奴らも統制を失ってる──好機!
リボンで結んた髪の一房。その先を彼方まで伸ばす。
この技は、キリエ――ギンナの技だ。
光速なんじゃないの?って速度で動き回り、蛇腹の謎剣を残し、斬る。
『行くわよ、ハイディ』
その声が聞こえたのは……幻聴だろうか?
力が、沸きあがる。
「――――行こう、ギンナ!『日輪 の ように!!』」
声が、重なる。
大地に足がついた瞬間、皮の中を、一瞬で端から端へ。
目の数は、都合722個で間違いない。
その全てを薙いで、走り抜けた。
次の投稿に続きます。




