24.ドーンよりさらに西、荒野にて。決戦。
――――やってやるさ。こっちには、頼りになる友がいる。
ドーンは王都にデザインが似ている。
王都の時計塔は有名だが、この聖域にもほぼ同じものがある。
中を登ることができ、文字盤下には空中庭園があって、お茶したりもできるわけだが。
デートでもなく、ここに来ることになろうとは。
ここが一番遠くまで見渡せる場所なので、案内された。
ボクら四人が最後で、先に残りの四人も集まっていた。
人の避難が始まっているのか、客も従業員もいない。
時計の機構の直下にあるらしく、それなりの高さで、外が遠くまでよく見える。
窓がついているのではなく、壁が3分の1周ほど空いてるんだそうだ。柵だけがある。
高所の吹き曝し……のはずなんだが、風は全然来ない。魔導がかかっているんだろうか。
庭園の外、彼方の魔境を見る。
非常に遠くに……いるはずなのに。巨大な、山脈のような何かが、見える。
ゆっくりとだが、青っぽい何かが確かに動いている。
えーっと地球の知識に似たものが……「ブラキオサウルス」だっけ?恐竜っての。
あんな感じだ。背中が凸凹してて、そのまんまじゃないけど。
あれは魔物だ。だから、動物ではあり得ないような機構を持っていたり……呪いを放ってきたりもする。
とはいえ、あんな遠望距離から、岩石か何かを高射砲バリに飛ばしてくるのはどうなの?
岩は魔導によって撃ち落とされている。精霊の守りが敷かれているようだ。
ただいくらドーンに詰めてる国防省職員が精鋭とはいえ――あれを倒しにいくのは難しいだろう。
ヴァイオレット様がいれば別だが、当分は防衛を敷くしかあるまい。
邪魔は、人を見る……というか、見られると襲い掛かってくる。
なので人類生存圏付近に入ってきたら、そのまま奴らとの戦争に突入する。
あれを倒さなければ、ドーンは滅亡する。
「ミスティ」
「このようなケースの場合、街の放棄撤退を行うとヴァイオレット様に言付かってます。
行政官が中心となって、すでに退避が始まっています」
ヴァイオレット様がいない今の状況。
このドーンに、奴を倒せる戦力はないということだな。
しかし、ある程度は邪魔の到来は事前に想定されていたのか。
「ドーンの復旧は25時間後だ。エネルギー炉で状況を確認したから、間違いない。
その後ここを動かしたら、どうなる」
「……奴が王国まで、来ます」
「だろうね」
つまりその前に避難を済ませ。
ここ聖域ドーンを、バリケード代わりに使うつもりなのだろうな。
少し、マリーを見る。
「その未来は、あります。ベルさん?」
「必ずではないと思います。道が一つではない」
「ありがとう二人とも。少し気が楽になったよ」
知り得ないことを当たり前のように話してくれる人たちがいると、楽でいいわ。
「しかし、なぜ奴がここまで来てる。理由があるなら……」
「ダメだよストック。一度人間を見かけたら、自身の範疇から外れるまで奴らは追いかけてくる。
ドーンやシャドウが見つかったら、終わりだ。
理由は分かってるけど、そっちは対処できないんだよ」
「は?なんで?あんたまで予言者になったの?」
「何言ってるんだよダリア。簡単だよね?名探偵」
「ええ。何も難しくありません」
「「これは過去のドーン滅亡の再現」」
「黒幕の仕込みかの、ハイディ」
「それで間違いないよ、メリア。
ドーンが見つかる前だったら、対処できたんだけどね」
肩をすくめる。
残念ながら、平易な手段はない。
「しかし……みんな今更だが、普通に避難するって顔じゃないね?」
「「「「「「「…………」」」」」」」
こっちみんなし。お前が言うなみたいな顔すんなし。
「ハイディだって、逃げる気なんてまったくないだろ?」
それをボクに改めて聞くのかね、相棒。
「ないねぇ」
「なぜだ。正義感か?愛国心か?」
「違うよ。ここで背を向けたら、君のご家族に顔向けできねぇ。
この局面で逃げるような女は、西方魔境からの防衛を預かるモンストン侯爵には認められないだろう」
そりゃあヴァイオレット様は、ボクらに何とかしろとは言わんだろう。
ボクらはただの子ども、なんだから。
だが彼女はずっと、ボクを推し量っている。
そして今。
他に対処でき、責任のある者がいたグレイウルフのときとは、わけが違う。
いっそ誰にも責任なんてないかもしれない。少なくともボクにはない。
だがボクが、その対処をできるのであれば。
ここで力を尽くさぬ理由は、ない。
ここでそれを見せぬのなら、ストックの隣に立つ資格は、ない。
「ハイディ。子どもに、ましてやお前に責任のある話じゃない。
それで否と言われるなら、私はそれでも……」
「ボクは嫌だね」
深く息をし、相棒の赤い目を、その奥を正面から覗き込む。
「ボクには想像しかできないが、親の、家族の祝福はそんなに軽くはないだろう。
君の幸福は、何一つ諦めない。
淑女を舐めるな、ストック」
彼女が息を呑み、そして深く吐いた。
「悪かった。降参だ」
んむ、よし。
見渡すと……おい、なんだみんな。そのによったお顔は。
のろけやがってってことか?
そもそも――なんで当たり前のように、手伝ってやるよみたいな空気なんですかね。
それこそ、皆は逃げてもいいのに。
ちょっと友達甲斐がありすぎでしょう。
軽く咳ばらいをし、姿勢を正し、胸を張る。
よーし。開き直って、堂々とやってやろう。
「ストック。戦略目標」
「邪魔の打倒。それしかない」
「作戦」
「ない」
「おや、嫌に断言するね?」
「私の知る限りだが、邪魔は倒せない」
「ん?待って。連邦は魔境奪還してるでしょ?どうなのダリア」
魔境を取り戻したということは、邪魔を倒したと考えて間違いないはずだ。
「その戦闘痕と思しき場所はすべて砂漠と化し、かつ魔力が沸かない。
大地の魔力を枯渇させたのではないか?と言われているわよ」
そんな馬鹿な。
あの連邦の広大な砂漠の範囲すべてを、魔力枯渇させることで倒したのか?
そりゃ餌たる魔力がなければ、生きてはいけんだろうがな??
滅茶苦茶だろう、過去の連邦人。
手段もわからんが、その心意気というか執念。さすがに理解できん。
次の投稿に続きます。




