23-7.同。~騒ぎの後に、敵が来る~
~~~~殺せない、逃がせない、倒さねばならない。面倒だったが、少し楽ができた。
あっさり気絶してくれた。狙い通り、緊急転送前に倒せたな。
ストックと向き合って――ハイタッチ。
「大した演技力だったな?相棒」
「相棒ほどじゃないさ。よく吹き出さなかったな?」
二人、少し笑い合う。
そうして何となく……二人して倒れたディックを見た。
こいつ自身、偽物とはいえ四聖に足る魔導師ではあったはずだが……楽な仕事だった。
フェニックスを渡されてなければ、もっと苦戦したはずだ。
ヴァイオレット様が来るかもしれないから、それ受け取った気持ちはまぁ分かるけどね?
貴様も今までやってきた通り、自身の力を尽くしていれば、まだ道が拓けたろうに。
汚い手段を用いようとも、そう戦われたらきっと敬意を表したろう。
だが自分の力を信じられなかったんだな。他人の力を信じてしまった。
偽物らしい……驕りだ。
ストックは倒れたディックに近寄り、その身を検めている。
懐からメダルを探し出した。
緊急転送の起動キーだ。四枚ある。
上に放り投げ……剣で斬った。
しかしストック。相変わらず、その刺突剣でなんでそんな鮮やかに斬れるの?
刺突の意味わかってる?
そして躊躇なく、柄の機構を開け、内部のいくつかの工材を燃え残る炎に投げ入れた。
「これでよかろう。後は人に任せられるな」
「残りはばらして使うんか」
「もちろん。希少工材は有効利用してやるさ。
だが、この子が世に出るのは、まだ早い」
「そうだね」
ボクらの苦労の結晶。
だからこそ、完成してしまった今は、もうただの神器だ。
本当に必要なら、何度でも作り出せる。
希少素材は使うけど、唯一品ってわけじゃないからね。
ストック以外は石にしてしまうような危ない代物だし、当分必要あるまい。
「上は?」
「エネルギー炉は制圧して、『救急』への魔力供給は断った。
もういくつかしぼんでるのは道中確認したから、いずれドーンも復旧するよ。
『救急』は一度魔力供給すると、その後ほんとにただの廃材になるから、心配いらないだろう」
「それはよかったが……モザイク兵はまだいるんじゃないか?」
お。さすがに途中どっかで遭遇したのか。
「もう残ってないと思うよ。
ボクの友達が総出で大暴れ中だ」
「…………ダリアとマリーか?」
「親分と三号もいるよ」
「なぜいる」
「さぁ?」
ストックは肩をすくめ、ディックのローブを裂いて、てきぱきを拘束し始めた。
縛り終わったら、担いで上に戻るか。
「こいつらは……何者かに未来のことを伝えられ、今攻め込んできた、ということか」
「そうだけど、今来たのは吹き込まれたからじゃないよ」
「どういうことだ?」
「ミスティ、どうも様子が変だったでしょ?
しかもボクの友達たちは、ヴァイオレット様の招きで来たらしいんだ。
王国の大人は怖い、って話さ」
「…………こいつは誘い込まれた、ということか」
本来なら5年後のはずの襲撃。
それを、王国側が手を回して早めたのだろう。
いつ来るかわからないのを待つのは悪手。
こちらから攻め込む理由は用意できない。
だから、攻め込ませて絡めとった。
ストックからかなり細かく話を聞いているはずだし、手は打ち放題だったろうね。
ドーンの住民さえ無事なら、ほんとに後はどうとでもなったんだろう。
もしボクらが浚われて連れて行かれたら、タトル公爵邸には先回りしたヴァイオレット様がいたかもしれないね。
まぁだからって、大人しくしてるボクらじゃないって思ったから――ボクの友達を誘ったんだろうな。
あの人、ストックの言った通り、旅の間に何度も見に来てたから。
こちらの様子は筒抜けだったろうし、ドーンに来たミスティにもいろいろ話を聞いたんだろう。
「ヴァイオレット様の外出先も、帰ってこられたら聞いてみようか。
帝国のお土産話が聞けるかもよ?」
「土産話が聞けるほど、良い国じゃないんだがな」
ディックを担ごうとして……弾かれたように二人、フロアの階段方向を見る。
ボクが先ほど降りてきたところから、誰か来る。
「「ハイディ!」」
…………あれ?
「ベルねぇとマリー。どしたの?
いや……すぐ何があったか教えて」
正語りと予言者が二人で来た。
半分は、この二人なら迷わずここまで来れるからだ。道を間違えない。
だがきっともう半分は――緊急事態の報せだ。
二人が、近くまで走ってきた。
「走りながら話します!とにかく上に……地上に戻って!」
「そいつは私が担ぐから。二人とも、急ごう」
ベルねぇが、ボクが担ごうとしていたディックを引き受ける。
二人と、ストックが続いて走り出す。
ボクも続こうとして――思い出した。
「来るんだね」
三人が、こちらを振り返る。
ドーンは機能的損傷の方が、激しかっただけ。
この都市を、物理的に破壊した存在も、いる。
記録では、魔物によるものとなっていた。
確かにここは魔境なんだから、当然いるだろう。
でも、聖域サイズのものを損傷させるのは、大型でも無理だ。
なぜかは分からない。
でも、あれが来る。
魔境の主。山のように巨大な、人類最大の障害。
「何がだ、ハイディ」
「邪魔が来る」
ストックが、息を呑んだ。
マリーとベルねぇが、頷く。
急がねばなるまい。
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