1-3.同。~沈む舟より、荒野へ~
~~~~クルマだやったー!
神器車は、タイヤで走ってるわけじゃない。魔力の流れを作って、それに乗ってるだけ。半分浮いてる。
だから、揺れるけど多少の障害物はそのまま通過できる。悪路も楽ちんだ。
あとはさっきの音から予測した距離を走って……見えてきた。
眷属が多量にいて……巨大な魔物の影も見えるな。エリアル様が下がりながら戦っている。
フィリねぇはエリアル様の小脇に抱えられている。ちょうどいい、今が割り込み時だろう。
まずは魔物の巨体に向かって、方向を調整する。こちらの気配を察知したのか、エリアル様が壁際に退く。
シフトレバーを操作し、走りながらギアをニュートラルへ。アクセルをベタ踏みし、吹かす。クルマはそのまま進んでいく。
魔力の滞留を感じ取って……アクセルから足を離し、レバーを前に押し倒す。車体が急加速した。
タイミングを見て、左に思いっきりハンドルを切る。
ブレーキと同時にディレクションギアを切り替え。
車体後方のスライドを誘発させる。
神器車は滑りながら何体かの眷属を引き潰し、カマキリ型の魔物に思いっきりぶち当たって止まった。
体の何割かを失ったそいつが、そのまま壁に跳ね飛ばされる。
こちらにも衝撃と重圧がかかるけど、ベルトが十分に自分の体を支えてくれている。
魔物の体が消し飛んだのは、神器車が周囲に作ってる魔力流に巻き込まれたせいだ。
また、車体を形成している魔石は、この程度では傷一つもつかない。
しかしこれは、いいクルマだ。こちらの無茶に、ほどよく答えてくれる。
助手席側のドアが開いて、フィリねぇを小脇に抱えたエリアル様が入ってきた。
扉を閉めたのを確認し、ロック。
ギアを切り替え、ハンドルを回しながらバックしてから方向転換、出口を目指してアクセルを踏みこむ。
まだまだ眷属がわらわらいるが……そのまま突っ込む。
奴らは衝突前に、こちらとぶつからないように自ら避けていく。
神器動力の作る魔力流を目にすれば、魔物や眷属は寄りつかない。
その流れを踏み越えると、体が消えてしまうからだ。
車体に迫られると、基本的には全力で道を開けてくれる。楽でいい。
「ウィスもが!」
「集中してるみたいだから、あとにしなさい」
「…………」
フィリねぇがエリアル様に口を塞がれて、黙った。
さすがエリアル様。話が早い。
この方は、見るだけで物事の本質を言い当てる。
そういう、武術の極意?を得ているらしい。…………以前は、亡くなった後でフィリねぇに聞いた。
がくん、と車体が前に傾く。
外に出るスロープに乗った。徴税隊のやつらがおろしてたものだ。
なんで魔境のど真ん中で船の結晶壊して、おまけに外につながるここを開けたんだ?やつらは。
自分たちの脱出用だったのかもしれないけど、そこは……前のとき、後から調べてもよくわからんかった。
車体の角度が、戻る。
眷属や魔物はまだうようよいるけど、そのまま走る。
上のバックミラーをちらっと見ると、丁度良い角度だったのか、船の中にみっちりいるのが見えた。うげぇ。
「どこを目指すの?」
エリアル様が聞いてきた。
目覚める前のことが……少し頭をよぎる。
「最初」に行かなくては。
「まずは王国に行きます。
ここからだと、コンクパールの東から入って、南西に向けて下山するルートがいいはずです。
……それでいいですか?」
コンクパールの北側を回って、王国北部から入ろうとすると……帝国領土を通る。
山を南に回ろうとすると、かなりの距離を走る。
標高の低いところを通る、山越えルートが一番安全で、時間がかからない。
「ええ。けどあなたは持つの?」
聞かれ、右手をちらりと見る。
それから、壁際に薄く浮かんでいる計器陣を確認した。
……ボクの魔結晶の出力残量、桁が違ぇ。絶対燃料なくならないだろ、これ。
「取り込んだ結晶の出力が大きいみたいなので、そっちは大丈夫です。
ボクの体の方は、そうですね……山に入ったら休みたい。
東側なら、山にさえ入れば魔物は来ません」
「ととととともが!」
またフィリねぇが口を塞がれている。
頭の中で、ルートを思い浮かべる。コンクパールなら何度も行ったから、よく覚えてる。
前の時の記憶をベースに考えると、神器船が堕とされたのは山脈の北北東に200kmくらいの場所だったはず。
今いるのがだいたい同じ場所だとすれば、まずは南下すればいいだろう。
ロード共和国と山脈の間を抜けつつ山道に入り、そのまま山頂を乗り越えて西側に行けばいい。
山道だから、安全を加味して数日かかるかな……山には今日中につくだろうけど。まだ日が高い。
魔物が来ないから、寝泊りは車中でいいけど、問題は水と食料。
最後部座席下に、多少は携帯食料と水があるんじゃないかな。神器車なら遭難対策に必ず積んでる。
あとは山で調達するしかないだろうけど、それまではある分で持つと思う。
標高の低いところなら、何か所か人の住んでるところがあったはず。
そこで必要なものを買うのがいいだろう。
……神器船に乗ってた以上、エリアル様は持ち合わせがあるだろうし。
なおボクの体力に関しては、魔素制御でなんとかする。
厳しい武術鍛錬の賜物である。
四歳児だから魔素量そのものは少ないし、無理はあまりできないけど……がんばろう。
次投稿をもって、本話は完了です。




