23-5.同。~日輪となりて~
~~~~鉄火場で本当の再会となるとは……君らしい。
エネルギー炉自体は、封鎖されていない。
ここまでの区画が厳重管理されているので、階層にさえ入れればあとは素通しだ。
広い部屋の中央に、尖塔のような柱があり、その真ん中にでかい球状結晶が繋がれている。
結晶自体を貼り合わせて作られた、合成結晶。こうすることによって、負担分散を可能にしている。
柱の下には制御盤があるはずだが――今は見えない。
100や200じゃ下らない。ひしめくような、モザイク人間たち。
ちょっと多すぎだが……さては対ヴァイオレット様用の布陣だな?これ。
ということは魔導師ばかりというわけで。
こちらが来たことに気づいたそいつらが、身構えようとしている。
何か所かに緑の仄かな光も見えている。まずは拘束を試みるのかな?
あー。さすがにヤバイ。まずいじゃなくて、これはやばい。
待ち伏せは想定していたが、誰を待ち伏せる布陣か、が考えから抜けていた。
多少の敵ならまだしも、ヴァイオレット様想定だから桁が……下手すると二つ違う。
近接戦なら一度の相手はそう多くない。ボクなら一対一×Nみたいな状況にすぐできる。
けど魔導師戦はそうじゃない。数がいるならいただけ、同時に相手にさせられる。
今はどう崩そうとも一対数百だ。
打倒の手自体は、ある。
呪文の起動は間に合うだろう。だがそれまでだ。
こいつらは倒せても、ここの仕掛けの解体前に、ボクが力尽きる。
呪文の獣を起動するだけならまだしも……これだけ倒しまわれば、魔素が持たない。
紫電雷獣で加速し、頑張るというのも一つ。
しかしあれは、今のボクの練度でそのまま使うと、起動しているだけで魔素を消耗していく。
この量を倒したら……まぁやっぱり力尽きるな。仕掛け解体はできても、ストックの元へは行けまい。
この点は、ただ魔素制御だけで戦うのも同様。というか分が悪すぎる。
パールでメリアを助けにいったときのように、ボクには魔導への有効な対抗手段がない。
雷撃を使えない場合、そも相手の障壁すら抜けない可能性がある。
……やると、すれば。
先ほど見たばかりのキリエの、最小の動きで戦う、達人の姿が思い浮かぶ。
ほんの僅かな時間、瞠目する。
――――ハイディ。閃光ってのは一瞬じゃないんだぜ?光ってのは強く輝けば、宇宙の彼方まで届く。
急にそんなことを言いだした彼に、そもそも宇宙ってなんだよ?って講義をねだったことを思い出す。
光。波動。情報の伝達。星。そして星座。そのロマンあふれる講釈の末に。
ボクは一つの奥義に辿り着いた。
頭の中で、撃鉄を起こす。
魔素制御は脳の中にだって使える。
最初に使ったのは、五歳の頃だった。
オーナーに教わった魔素制御。それを一緒にやってたやつがいて。
そいつが思いついたのを、ボクも試してみたら、できた。
その頃は雑事を手伝いながら、勉強と少しの鍛錬を重ねていたころで。
でも小さい体じゃできることが少ないからと相談したら、オーナーは魔素制御を教えてくれた。
魔導の使えないボクは、これしかないと思って磨くことにし――禁断の技術に手を出した。
ある日、ボクが脳の魔素制御をしてるってのが、オーナーにばれた。
彼女は最初、とても狼狽えた。
涙ながらに、それでもゆっくりとボクの話を聞きだして。
その後、目から鱗が落ちたような、呆然とした顔をしていた。
最後には笑って。そして強く抱きしめてくれた。
脳の魔素をいじると、自分を保てなくなる、らしいのだ。
今にして思う、この自分とは――役のこと。
彼女がボクを「ハイディ」と名付けたのは、この後だった。
共に戦う戦士として認めてくれたのだと、今ならば分かる。
脳の中の魔素は、実は膨大だ。すごい量がある。
ボクが普段、考えるのに使っているのはそのほんの一部。
そのすべてに――閃光を灯した。頭の中で光が乱反射し、輝き続ける。
一つの星なら、果てにその位置を知らしめるだけ。
だが満天の星に光を灯せば、そこには星座の世界ができる。
さぁ、ボクという宇宙を、見せてやろう。
不敵に笑い、目を開く。
活性された魔素が、仄かに蒼い輝きとなって、ボクの瞳の色を変える。
いくらかの魔導が、結ばれようとするのが見えるが――まるで止まっているかのようだ。
だがこれは、情報処理能力を極限まで高めるだけ。
多量の思考を一瞬の間に繰り返すことが、できるに過ぎない。
体は、そこまで動かせない。それを実現するには、この幼いボクでは体側の魔素が少なすぎる。
でもボクが最初に変えた未来が、大事な出会いを与えてくれた。
――――ではあなたに、雷光の武を授けます。
様々な武を知るあの方が、なぜボクに紫電雷獣を授けたのか。
その選択がボクの中で、新たな光になる。
深く、息をする。
息が音に、音が声に、声が鳴動に、鳴動が雷鳴になって響く。
「__/\/\/\/\/\/\/\/\/\/ ̄ ̄!!」
人から出たとは思えない音が、躍動し、暴れる。
ボクの蒼い瞳に電流が走り、紅が混ざり、紫に輝く。
雷光の量を……弱電と言えるまで沈め、整える。
先日使ったときは、この電流の抑制ができていなかった。
だが今なら、どこまでも光り輝けるだろう。
暴れるケダモノは必要ない。
機械のように精緻に、繰り返せ。目標のみを遂行しろ。
頭の中で。
引き金を、引いた。
閃光と雷光が重なる。
星よ輝け、光となって――十億光年の彼方まで、届け!
「――――行くぞハイディ!日輪 の ように!!」
さぁ、お前らが使っているその体。
ドーンの人たちのそれを、返してもらうぞ!
光が丸く広がり、輝きを増す。
それが輪のようになって――――ボクの身と共に、霞んで消えた。
次の投稿に続きます。




