23-4.同。~武人と侍従~
~~~~お約束の展開ってやつか?でもちょっと真面目にやろう?
一時権限付与かもしれないけど、マリーいいなぁ。タグもらえたんか。
ストックは当然、ここの領主の娘だからタグを持ってたわけだが。
巫女になったら、ボクももらえるかなぁ。
聖域機関部はなかなかお目にかかれない。ボクもこれで三度目だ。
自由に入れるようにならないかしら。
やつらさえいなければ、じっくり嘗め回すように見て回りたい……。
やっぱりスター型制御構造にする場合は接合が命だから、結合部がいい仕事してるわー。
この区画間空間を移動してるだけで、マッシュ大盛り三杯いけそう。
そして案の定、たまに黒くて丸くてでかいのを見かける。
壁や、天井に張り付いていることが多い。床にはないな。
それぞれの『救急』の間は、細い線でつながれている。
正直憎しみが湧き出そう。片っ端から潰したい。
こいつは、すべての魔道具開発者の敵だ。
だがこいつら一つ一つや、線を切ったところで意味はない。
先を急ごう。
角を曲がったところで、別の角から出てきた手に口元を抑えられ、腕を掴まれた。
……落ち着けハイディ。手が完全にふさぎに来てない。
それにこの手は、よく覚えてる。
「フィリねぇ」
小声でつぶやく。
手が離れた。
こんなとこで会うとは。
この人はお仕着せでも、相変わらず明るく華やかだな。
「ちょっとゆっくり行ってほしいの。
今掃除中だから」
「そうじ……えぇ~」
彼女の案内に従って、移動すると……予定の昇降口のところだった。
結構広くとってある空間で、階段とか通路が入り組んでいる。
ここを下に降りてく、んだけど。
通路にも階段にも人がひしめいている。
そしてその中を……小さな暗色の人影が駆け抜けて行っている。
緑がかった黒髪、青の装い。キリエだ。
彼女はよく見ると、接敵の一瞬で男たちに少し触れているようだ。
そして、キリエが通り過ぎた後の者たちは……気を失っているように見える。
狭い通路や階段から落ちないように、手すりなどにひっかけられた状態で。
…………達人がいよる。
「ウィスタリア」
「ん。もうちょっと下がるよ。待とうか」
下手に誰かに勘づかれても嫌なので、通路に戻る。
「あれだな?ヴァイオレット様から日付指定で招待状が来たな?」
「そういうこと。
久しぶり……っていうほどじゃないけど。元気だった?」
「とっても。楽しい旅だったよ。
あ、今更だけどハイディの方で呼んで?いろいろあってさ」
ハイディの名は、ファイア領を出る前に少し話してあった。
最初に神器車で王国目指してるときは、端折ったんだけどね……。
ストックがボクをそう呼ぶので、不思議そうにされたのだ。そして説明した。
「ん。じゃあ……私のことも、ベルと呼ぶように」
ボクの思考が止まった。
この人は前の時間を、知らない。
ボクは彼女の「名前」を伝えたことは、ない。
エリアル様が突き止めた可能性もある。
でも、もっとありそうなのは。
「キリエ様……ギンナ様は、前のこと、覚えてるって。
ウィ……ハイディに倒されたの、結構気にしてるみたい。
再戦を挑むとき、名乗らせてもらうって言ってたから。
私が言ったのは内緒ね?」
……内緒ということなので、その<ギンナ>という名前だけ憶えておく。
後の諸々は、胸の内にしまっておこう。
でもこれだけは。
「うん。ただ一つ聞いていい?名前はどうやって知ったの?
んと……ベルねぇはオーナーがつけてた。
だからあー。まだキリエでいいか。
キリエが時間を戻ったなら、知っていたのはおかしくない。
でもキリエ自身の名前は、まだつけられていない」
「名前?えーっとね。
少し前に、ギンナ様に聞かれたことがあって。
私があてずっぽうで言ったら、その名で合ってるって言われた」
そうか、この人の「正しいを語る」力を、あの大公令嬢は前の時に知ってるんだ。
エリアル様は『正語り』って言ってたっけ。
ベルねぇには、正解か不正解かの二択なら、必ず正しい方を選べる力がある。
そして、あらゆる事象を二択に分け、遠くの正解に辿り着く。
戦う前に「勝つ」道筋を見つけられたら、もう敵わない。
で、キリエはそれを踏まえて、自分の名を探らせたな。
問題は、なんでその辺に勘づいたかなんだけど。
……ほっとこう。
ひょっとすると、彼女じゃなくて周りの大人が気づいた可能性もあるしな。
彼女の名乗りが聞けるとき、その辺も教えてもらえるだろう。
およ、昇降の空間からは結構いろいろ音がしてたけど……静かになったな。
ベルねぇを見ると、静かに頷いた。
戻ってみれば、死屍累々。
え、これは通路や階段を行くのは無理だな?
しょうがない。ここを底まで行くのだから、飛び降りよう。
手近な手すりに乗りあがり、降りる方向を定める。
「あっちの達人には挨拶しないでいくから。
あとは……お願いしていい?」
「ええ。行ってらっしゃい。気を付けて」
少し手を振ってから、飛び降りる。
降りる途中、予感めいたものがして。タイミングを合わせて、右手を振る。
手を叩き合わせる音がして。一瞬、彼女と目があった。
その目が言っている。
――――ここは任せなさい。また会いましょう。
思わず顔がほころぶ。
男前っつーしかない。相変わらず、気持ちの良い子だ。
さて。
こんなに助けてもらったんだから……ボクはボクの仕事を、必ずやり遂げなければ。
次の投稿に続きます。




