23-3.同。~勇者と魔女~
~~~~ボクの相棒なら……きっと、大丈夫だ。
非常階段から下層に降りた場合、内部に戻るのに権限がいる。
あの様子だと、亀は最下層まで行くだろう。
でも、エネルギー炉はもう少し上だし、しかもさっきの非常階段からは直接いけない。
ボクは通路の通風孔から、内部にいったん戻った。
ここから、まず権限なしで区画間に入れるところまで行く。
そこから上下に空間が繋がっているところまで行き、下の層に降りる。
それなら『救急』を確認しつつ、エネルギー炉のそばまでたどり着ける。
この区画間の空間のつながりは入り組んでいて、特定のルートから行かないと目的地にたどり着けない。
特にエネルギー炉や制御室のような、重要機関に出るのが難しくなってる。
ま、ちゃんと出られる道はあるんだけどね。第三版の設計はこの侵入路が塞がれてない。
さって、下に降りるにはもう少し内部を進まないと。
フロアを駆け抜けて……あれ。たくさん人がいる。
地下機関部は、メンテナンスと稼働時以外は人が降りてこないはず。
……あ!?顔にモザイクかかってる!!
げ、この広間にいるの全員か……?100人くらいいるぞ。
まずいな。
いや不敵に笑えったって、突破しかないし。
単純物量はちときついんだけど?
その時。
ボクの横を、誰かが駆け抜けた。
ホワイトブロンドの、清楚な服の――神器まっしぃーん。
「マリー!?」
「ここはお任せを!」
彼女は背中に担いだ大きな神器ストッカーから、棒状のものを取り出す。
対人用コンセプトとかいう、目的が迷子になった神器だ。
人間に魔力流効かないだろ。
そしてストッカーを端に放り、棒を両手に持った。
振り回しながら躊躇いなく人だかりに駆け込んでいく。
結構な人数が跳ね飛ばされる。
後ろから光を感じて振り向くと――恐ろしい数の緑の魔法陣が見えた。
「ダリア!」
橙に近い赤の装いの魔女が、にやりと笑った。黒づくめは卒業したんか?
したんか。それマリーの眼の色だもんな。そういうお年頃かそーかそーか。
で。
その宙に浮かんでる魔術陣さ。
それ戦略級大魔術の事前展開やろ?ドーンを内部から破壊する気?
「今です!」
声に振り向くと、なんかマリーが飛び上がっていた。棒を掲げている。
あ。それやるんだ?
しーらない。
━━━━『天の、星よ。』
かつてダリアは言っていた。
━━━━『五より九に廻りて、一にふるへ!!』
『マリーを通すと、ほどよく人間を痺れさせられる』と。
「あぎゃあああああああああああああああああああああ!?」
汚い感じの悲鳴が響く。
たまにスロウポークみたいって思っちゃってほんとにごめん。
でもあれ食らって生きてるの、理解できない。
メリアは「魔導が効きにくい」だが、マリーは「効かない」だ。
あれはびっくりしてるだけで、まったくダメージはない。
だが気分はよくないらしく、後でめっちゃ怒る。
服の焦げすらできない。謎耐性だ。
それなのに、適度な減衰と貫通が起こって……本気でよくわからない。
魔力ではなく、魔力流が彼女の中にあるのでは?とダリアと討論したことがある。
とはいえ、効果は確かなんだよな。
……100人くらいはいたんじゃないの?って人たちは、みな綺麗に気絶している。
幾人かモザイクが晴れ始めていて……この人たちは、普通にこの街の住民だろうな。
かつては本当に、帝国からの先兵だったんだろう。
それがいないから、王国民が代理に仕立てられ、巻き込まれている。
二人が普通に戦うと、この程度の人たち相手だと殺してしまう。
契約して入国してる外国人がそれをやったら、命はない。
これだけの人数、まったく怪我無く意識を奪える手段は限られてる。
「ありがとうダリア。後でマリーのご機嫌、一緒に取ってあげるよ」
「いいお酒、期待してるわね?」
めっちゃいい顔しやがって。
人にいたずら仕掛けるときは、ほんっと目がキラキラしてんなこいつ。
ケガするような真似は絶対しないから、そこはいいけど。
「マリーは成人だけど、君はまだ飲んじゃダメだろ」
「私の国では10歳から飲酒オッケーよ!」
「じゃあそれは、君の国に遊びに行ったらね。とりあえず今は……」
「なにするんですかああああああああああ!!」
「こひゅっ」
マリーがダリアの襟首をつかんで……きゅっとした。
「マリー。はしたないよ」
「はっ。これは失礼を。あれ?ダリアさん?ダリアさん??」
マリーは貴族ではないが、淑女教育を受けている。
普段はもっと淑やかだ。
まぁ淑やかってもボクくらいなので、たまに淑女みは投げ捨てられる。
「少ししたら目覚めるから、抱き留めておきな。倒れちゃうし。
で、なぜここにいる」
「それが、あなたたちを見送ったすぐ後、ヴァイオレットと名乗る方が来て。
『許可は出してあるから、どうぞ』って。
で、国防省?の職員の方にドーンまで連れてこられました」
そういうことかよヴァイオレット様……。
「あと、ここにはどうやって入ったし?」
「なんかこれもらって。あとはミスティさんの指示で」
マリーの取り出したのは、聖域の権限タグだ。
……外国人にこんなもん配るなや、ヴァイオレット様。
「マリーの判断を聞きたいんだけど、これからどうする?」
「……私たちで、ここを引き受けます。お任せを」
「ありがとう。引き続き、殺さないようにお願いね」
「ん”。今のも、やるって言ってくれてればよかったんですが」
「ごめんね。そこはたぶん、ダリアの趣味だ」
「人をいじめるのが趣味なんですか!?」
「ちがうよ」
ダリアが少し身じろぎしてる。そろそろ起きそうだな。
「この子は、君が向き合ってくれるのが好きなんだ。
だから言ってくれれば、じゃなくて。聞きな。
そうしないとこういうふうに、振り向かせたくていたずらする」
「うげぇ……んっ」
思わずすごい顔になったのを、マリーが必死に戻している。
「性根がねじ曲がりすぎでは……」
「お互いにだよ。ほんと、君らはそっくりだね?」
「っ……ハイディ」
赤くなんなし。しょうのない子め。
「じゃあ、後は任せる。
ダリアは接近戦できないから、よろしく」
ダリアに睨まれたので、退散することにする。
よく見るとマリーにひしっとしがみついてるので、結構前から起きてたな。
ばれたら後で怒られるやつだと思うけど……知らないフリしておこう。
「分かりました……ご武運を」
次の投稿に続きます。




