23-2.同。~相棒と走りだす~
~~~~ゴールに着いて早々これとか。なんだ、呪われてんのか?あるいは……誰かの狙い通りか。
予感がし、まずストックの両肩を手で抑える。
「落ち着けストック」
「だが」
「落ち着け。ヴァイオレット様はいない」
「だから」
「最悪の事態は避けられる」
「っ」
少し、ストックの肩の力が抜けた。
ちらりと下を見ると……長い白髪の人影があった。背を向け、奥へ向かっている。
そいつが歩いている通路の天井がガラスだから、こちらから見えるみたいだ。
かなり下だし、すぐあそこへは行けない。
姿は見えるが……間にあるあのガラス、確か簡単には壊せないからね。
底まで飛び降りたところで、同じところに出るには回り道が必要だ。
奴が……帝国四聖タトル公爵がなぜここにいるか、というのは置いておこう。
考えてもわかるまい。
ただこれは、五年後を先取りした展開だと、覚悟したほうがいい。
間違えれば、ドーンは滅びる。
だが。
「この状況の最悪は回避されている。
王国最強の武人さえいれば、国防は何とかなるだろう?
それとも、必要なのはこの聖域の方か?ストック」
「……お母さまの方だ」
「よし。ならばあとは、より良い結果を得るだけだ。
戦略目標」
「……住民の安全確保。
聖域ドーンの破壊阻止。
侵入者の撃退。
主犯と思しき、帝国公爵の確保ないし撃破。
この順に優先だ」
「作戦」
「住民の安全確保は、ミスティたちがやってくれるだろう。
あとは一直線に我々で下の亀に追いつき、打倒だ」
「よーしストック、頭が冷えてないな?
ボクの専門はなんだ。言ってみろ」
「…………神器構造と制御の研究だ」
「よしよし。では二手に分かれよう」
「何を言ってるんだ、権限がなければ扉は……」
彼女の唇に人差し指を当てる。
確かに、偽造権限で歩いているだろう奴に追いつくには、その方が楽だ。
だが別に、扉を通らなければ先に進めないわけではない。
少なくとも、この聖域は。
「ドーンは第五世代、第三版設計のミッドピラー構造・スター型制御の大型神器船だ。
エネルギーと負担を分散管理するため、区画そのものを部品として大量に作り、後から結合している。
さらにメンテナンスの都合もあって、区画間には結構な空間がある。
これが複雑に絡んで、道のようになっているんだが」
少し、周りを見渡す。
「複雑な機構のせいで、こいつは設計図通りに作らないと動かない。
つまり設計さえ知っていれば、初めて来るボクでも――区画間に広がる、裏道のすべてがわかる」
「……大型神器船の構造のすべてすら、頭に入ってるのか」
「違うぞストック。『すべての』大型神器船の構造が、頭に入っている。
そして肝要なのはここからだ。聖域は簡単には破壊できない。
だがこの構造の聖域なら、区画緩衝空間にある仕掛けをすれば根底から壊せる。
ボクはその確認をしつつ、基底部へ向かう」
なければそれでいいんだが、そんな手ぬるい真似はしていまい。
ドーンは前の時間で、実際に落とされている。ボクはその手口を調べ、覚えている。
この有無の確認、そしてあるなら排除しなくてはならない。
「仕掛けがあった場合、そのすべてを潰すのは難しい。
だから仕掛けの先を辿り、根元を破壊する。
おそらくはエネルギー炉だろうがね」
「仕掛け自体は……『救急』か?」
神器工材廃棄物、管理No.0099。通称『救急』。
こいつを見かけたら必ず回収せよってなってる迷惑物質だ。
魔力を吸い上げ、最終的に爆散する。
爆発時、緊急転送と同じように魔力流をかき乱すおまけつきだ。
こいつで大掛かりな仕掛けを作り、爆破されると、聖域は当分動かなくなる。
『救急』で魔力を吸い上げていて、それの中心がエネルギー炉にあるなら。
最初に動かなくなるのは、地上から機関部への制御経路や出入口。
現状に合致する。
「調子が戻ってきたじゃないか。その通りだ。
爆発するまでは相当な魔力を吸い上げるから、まだ時間に余裕はあるだろう。
だが油断できない。ボクはこれをなんとかする」
知っている情報にはないが、手動で起動するような悪辣な手段がないとも限らない。
こいつを破壊活動に利用しているのは、主に帝国だ。
下のタトル公爵が、何か持っている可能性は十分にある。
「では私は奴を追おう。それでいいんだな?」
「いいよ。ただボクとしてはそっちの方が不安なんだからな?
前に言ったこと、忘れんなよ」
「私が浚われたら、ついでで帝国は滅亡、か。ふふ。
お前に帝国を滅ぼす業を、背負わせるわけにはいかん。
任せろ。たっぷり時間を稼いでやるさ」
その目が……待っている、と言っている。
ほんの少し、その奥を見つめ合う。
「ぬかるなよ、相棒」
「そっちこそ、相棒」
右手を顔の高さに掲げる。
ストックも同じように差し出す。
手を軽く叩いて鳴らし。
互いに前へ走り出し、すれ違った。
次の投稿に続きます。




