23.聖域ドーン。その中枢へ走る。
――――早期の決着を御望みか?いいだろう、かかってこい。
あのさストック。
ボク抱っこしたままドーンに入ったの、ほんとどうかと思う。
検問の人に三度見されたかんな?
拗ねたボクは、そのままストックをぎゅっとしている。
もちろん、もうとっくに動ける。
ついでにいうと、ドーンのロイド家別邸の駐車場にもうついている。
ストックは真っ赤になって、かっちこちだ。全然動けないみたい。
自分がすんのはよくて、ボクにされんのはダメなんか?そうかそうか。
堪能してたら、クルマの外装が叩かれる音がした。
窓を見ると、ミスティが見える。メリアも来てるかな。
とりあえず窓を開ける。
「…………お取込み中すみませんが、お迎えにあがりましたよ」
「はーい。この後はなんかするの?」
「いえ、特には。ヴァイオレット様からは、お休みになってていいと」
「え、そなの。ご挨拶とかは?」
「今ドーンを出ておられるので、必要ないですよ」
「はぁ。あと、バジリスク倒したんだけど」
「ああ、それで。こっちには来てないですが、たぶん国防に連絡いったのでは?
ちょっと忙しなかったですし」
「ん。とりあえず降りて……そっちのお話でも聞きましょか」
「ええ」
ミスティにはどいてもらって。
ドアを開けて、降りる。やっぱりメリアもいた。
で、固まってるストックだが……。
「ストック。そのままにしてるなら、ボクが抱っこで連れてくが」
すごい勢いで降りてきた。
そして両手で顔を抑えている。
……これはあれか。反射でやっちゃったけど、抱っこがよかったんか。
そして人前だからとてもそうはできないと、煩悶してるんだな。
さて。荷物出して行こうかねぇ。
……うん?
「どうしたストック。何見て固まってんの?」
「いやに国防の職員が目につくなと思ってな。
なんで街中をこんなにうろうろしてるんだ?」
国防省は青基調の制服を着る。
そういう人が……言われて見れば、屋敷の外の通りに何人か見えるな?
何か探しているような。
「気になる。ちょっと聞いてくる」
「あ、おいストック……行っちゃった。
ミスティ、メリア。なんか聞いてない?」
「…………いえ。特には」
ストックは青い制服の男性を捕まえて、話を聞いているようだ。
何か言い争っているような――お、戻ってきた。
「ミスティ、お母さまはどこだ」
「実は聖域外に出られてて、今は連絡が取れません」
「こんなときにか!」
「どうしたストック」
「……ドーンが機能停止している」
「は?」
「地上の司令部から、機関部にアクセスできなくなったらしい。
それで調べているんだが、機関部への入り口がどこも開かない」
「おい、魔力落とされてるぞ、それ。
――――攻撃だな」
「ああ」
頭の中に……ここの構造を思い浮かべる。
「ストック、聖域領主の緊急路があるはずだ。屋敷か?」
「のはずだ。私で通るかは……」
「緊急転送の管理権限は受けてるか?」
「受けてる」
「なら通る。急ごう。
……ミスティ、メリア」
「なんだ、ハイディ」
「街の警戒、ですか?」
「そう。機関部停止を為したなら、さらなる攻撃に出る。
上物の街部分が標的になる可能性はある。
国防は初動から混乱してる。ちょっとなんとか頼めるか?」
「分かりました」
「こちらは任せておけ。
ハイディ、無理はするなよ?」
「ダメそうなら、ストック連れて逃げてくるさ。
ストック」
「ああ。こっちだ」
ほんとなんでこう、落ち着かせてくれんのかね。
屋敷から、地下部分の機関部へ。
聖域はだいたい、全体が逆三角錐みたいになっている。
錐の底面部がそのまま地上の街だ。
街の地下のほとんどが機関部。
ここはメンテンナンスや、聖域稼働時以外は人が入ることはまずない。
ロイド邸から、この機関部への非常通路が確かにあって。
ストックの権限で、ボクと二人で入ってこれた。
通常は魔力波長を読み取るが、ストックは魔力なしなので、ここ用のタグを持たされていた。
降りてすぐのところは、広いホールだった。特に異常は見られない。
機関部といっても、どこもかしこも機械がひしめいているわけじゃない。
だいたいはただのだだっ広い空間だ。
どちらかというと、壁・床・天井自体に意味がある。
大きな神器車自体をパーツにして、巨大な建造物を組んでると思えばいい。
当然に、そのパーツの中はほぼ空洞だ。もちろん、部屋や施設もあるが。
敵の動きを想定し、降りたところから街の端に当たる外縁部を目指す。
いくつかの扉を抜け……機関部外の空間に出て来た。
立方体の区画構造を並べていくと、逆三角錐の淵に近いところには隙間ができる。
そしてこの外縁部の隙間には、非常時移動用の通路・階段がある。
扉を慎重に閉め、鋼の床で音が鳴らないように気を付けて、歩く。
話す声も小声にしておいたほうがいいだろう。
ここに来たのは、そもそも敵が入れる場所が限られるからだ。
正規の権限で入れるような場所は難しい。
なので外縁部にある、メンテナンス用の扉などから侵入したとみられる。そこは権限偽造手段がないではない。
そして構造上、そのまま心臓部たるエネルギー炉や制御室に到達することも不可能ではない。
なので近い経路を行けば、敵を捉えられるはずだ。
「ここからどう行く、ストック」
「まずは下に降りよう。重要機関が……」
通路から下層を覗き見た、ストックの顔色が変わった。
まさか。
次の投稿に続きます。




