22-4.同。~危険なその目を狙い打て~
~~~~ついカッとなってやったが……意外なことがわかったな。収穫だ。
「戦略目標」
「バジリスクをドーンに近づけない」
「作戦」
「目を潰せば再生しないと聞いた。
なんとか私を目のところまで届けてくれ。
呪法で潰す」
なるほど。
危ないが、こっちが無茶しようとした手前、無下にもできまい。
……信じてるからな。もう石になんか、なるなよ。
「わかった」
「あとは任せてくれ」
「何言ってるんだ」
「?」
「それはこっちのセリフだストック。
必ずフォローしてやる。後はボクに任せて、思いっきりやれ」
「……頼んだ、相棒」
ストックが深く呼吸をする。
息が音に、音が声に、声が咆哮に、咆哮が轟音になって響く。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
彼女の赤い瞳が、さらに赤く燃え上がる。
――――立て、紫陽蛇獣。
向こうの準備はよさそうだ。なら。
素早くハンドルを回してギアを細かく切り替え、反転する。
あの厚みなら、多少魔力流で轢いても問題あるまい。
少し車体をぶれさせながら、一気に直進する。
間近に迫ったところで、いつものロケットスタートの構えをとる。
シフトレバーはニュートラルへ。アクセルを踏み込み、クルマが気炎を上げる。
直進しながら、その時を待つ。
奴の右前足が、地面についた。
今!
「――――いくぞサンライトビリオン、閃光のように!!」
ディレクションギアを切り替え、一気に間合いを詰める。
車体の右を少し浮かせつつ、巻き込むように右前足に乗る。
そのまま、脚を一気に駆け登る。
肩口まで上がったところで、バジリスクが痛みで悶えた。通ったところ、抉れてるしな。
車体が中空に投げ出される。
助手席側が、ちょうど頭部の先――奴の目の方を向く。
ボクはストックのベルトを解除し、助手席のドアを開けた。
「行ってこい、ストック!!」
ストックが座席を蹴って、助手席の外へ。
ボクはドアを閉め、ギアを変えつつ車体の勢いを制御し、ブレーキを踏んで奴の背に着地した。
頭部は正面。じっと見て……タイミングを見計らう。
ストックが閉じた瞼の上に到着した。よし!
ハンドルを切って車体を回し、向きを180度切り替える。
そのまま、バックでこちらも頭部まで距離を詰める。
ストックは屈みこみ、その手を巨大な瞼に押し当てた。
――――必殺。極震発勁。
魔物の巨体が波打つ。頭部側が反り返る。
ストックの小さい体が、思いっきり上空へ跳ね上げられているのが見えた。
ボクはクルマをそのまま、頭部付近まで登りあがらせる。
僅かに左にハンドルを切って、バジリスクの体から飛び立つ。
運転席側の扉を、開けた。
落ちてきたストックが、扉の内側に当たる。
服をひっつかんで、彼女を車内に引きずりこんだ。
ドアを閉め、運転席で二人の体をベルトで締めにかかる。
「ストック、歯を食いしばれ!
首を縮こませろ!それから!!」
彼女が、腕の中でこちらを見てる。
「ボクを離さないで」
両手が背に回されて、力強く抱きしめられた。
ベルトでできる限り体を固定し、ストックを抱きしめる。
ブレーキを踏んでしばらく。
車体の落下が始まり、体に強く重力がかかる。
今のところ、車体は地面に水平に落ちて行っているようだ。
ならば。
タイミングを見計らって…………アクセルを踏んだ。
大地に衝突する瞬間、魔力流が噴射され、少しだが体にかかる負荷が減った。
一瞬車体が沈み込み、その後跳ねる。
二転、三転しながら大地を転がっていく。
……あとは祈るしか。
「…………止まったぞ、ハイディ」
「…………こちら側に横転か。助かった」
上下ひっくり返ったら、乗り捨てるしかなかった。
シフトレバーに手を伸ばし、ギアを切り替える。
アクセルを踏んで助手席方向に進ませると……車体が起きた。
大きく音を立て、車内の向きが水平に戻る。
正面、少し遠くにバジリスクが見えた。
だいぶ飛ばされたようだ。運がいい。
次投稿をもって、本話は完了です。




