22.シャドウより西、旅のゴールを目指して。
――――せっかくの二人旅を邪魔するというなら、遠慮はいらねぇな?
そうして数日。
ダンジョンに潜って眷属退治などしながら過ごした。
メリアとミスティは、早々にヴァイオレット様が直々に来て……ドーンに連れて行った。
しばらくぶりにお会いした気がするが、ボクを見てにやりとされた。
……どっちだ。あるいはどんな意味だ。
この方の意図はだいたいわかるが、目的が不明だ。
ボクらを巫女に押し込めるだけなら、わざわざ評価してもしょうがない。
何かさせたいことがあるのか、期待でもされているのか……。
そうして次は、ボクとストックの番である。
「むぅ。一緒には行けないんですね」
「入場自体に指定があるからさ。勝手にはいけないんだよ」
「後で行くから、いろいろ案内してくれる?」
「そこは私がやってやるよ。ドーンは広いからな?
シャドウより楽しく過ごせるぞ」
「ほんとですか!楽しみにしてます」
ボクとストックは通常通りの手続きに則って。
そして、マリーとダリアも同様に……外国人向けの手続きに則って、入場することになった。
まぁこの二人は、神器車持ってないしね。その点もちょっと、しょうがない。
そしてクルマは買いたくっても、簡単には買えないのだ。
例の「車両契約」である。あれは成人王国民か、信用のある外国人向けに為される。
マリーはまだ、対象外ってこと。
ダリアはたぶん信用は大丈夫だけど、あの契約は購入者本人向けだからなぁ。
そもそも結晶がなくて運転できないダリアは、買うことそのものができない。
で、そんな二人がどうやって入るかというと、ドーンの国防が出している定期便だ。
シャドウとの間で往復している。
乗れる人数にも限りがあるので、手続きだけでなく、この順番待ちも発生する。
ボクらの場合は、自身のクルマがあるのでその手間がない。
ただ、指定されたときに入らないといけないので、一緒は無理だ。
手を振り、二人と別れる。
マリーも手を、ダリアは急ごしらえの杖を振って、ボクらを見送ってくれた。
サンライトビリオンにストックと二人、乗り込む。
さぁ、ようやく目的地だ。
事故のないよう、安全運転で行こう。
◇ ◇ ◇
ストックが窓を開けていて、いつもみたいに窓枠で頬杖をついている。
髪やリボンが棚引いていて、ちょっと様になってる。
サンライトビリオンはシャドウを西門から出て、すでに峡谷内を移動している。
このまま魔境まで抜けて、そこからしばらく魔境を行くことになるわけだが。
たぶん、何の障害もない道行きになるだろうな。それこそ、窓を開けていても問題ないだろう。
王国の聖域周辺なんて、聖域からの戦略精霊魔法の掃射で魔物なんて残ってない。
かつてボクはその様子を、南東魔境側の聖域『ロゼッタ』から見たことがある。
縁あって訪れた後、たまたま聖域移動が始まり、少しだが魔法掃射の様子が見られた。
ちょっとスケールが大きすぎて、個人としての感想は特にない。
ただまぁ……王国があれを人には向けない国で、何よりだとは思う。
そうやって王国周辺の魔境は、ある種安全を確保されているわけだが。
それでもほっとくと、無限に湧いてくる魔物が、王国になだれ込んでくる。
聖域ドーンはたびたび移動しつつ、今日も西方魔境の各所の間引きを続けているはずだ。
それだけやっても、魔境の奪還は困難だ。
魔境は核となる魔物がいるらしい。通称、邪魔。
山のように大きく、非常に大きな障害になることから、そう呼ばれている。
邪魔は特殊な魔物らしく、およそ生き物らしくないという。
ダンジョンや魔界にはいない、と聞いたことがある。
地上の小規模魔界にいるドラゴンは、動物からはかけ離れているが、生物には違いなかった。
あいつはまた、邪魔とは異なるものなんだろう。
とはいえ、単純に大きく強いだけなら、王国が手こずったりはしない。
何か打倒しきれない、理由があるんだろうな。
あるいは大きいから、魔導抵抗が高いとかだろうか?ならあり得る話だが。
大型の魔物になるほど、魔導に対する耐性が高く、魔導師が苦戦しやすいと聞いたことがある。
神器使いの魔力流の場合は、効くのは効くが、大きすぎて倒しきれないらしい。
それでも目を潰せば倒れるはず、ではあるが。
そろそろ渓谷を抜けるが、魔物や眷属の気配はない。
楽な道行きになりそうで、実にいい。
なぜか王国内ですら、やたら魔物に遭遇したからな……。
今日くらい穏やかに、二人っきりのドライブであってほしいな。
「旅の道連れが増えてきたけど、意外に二人にもなるもんだね」
「まったくだな。その旅も、そろそろいったんは終わりだが」
「誕生日には間に合いそうでよかったよ」
「いろいろあったからな。思った以上に、長い旅になった」
「良い誕生日祝いにはなったね」
「そうだな。良き友もできた」
ん。ストックも彼女たちを友達と思っててくれるのは、ちょっとくすぐったい。
うれしい。
「で。マリーとダリアには何を言ったんだ?」
ここ数日、二人は存外仲良く穏やかに過ごしていた。
ミスティとメリアのように甘ったるくはないが、互いに寛容な様子で、見ていてはらはらしない。
前は二人一緒だといつ火がつくか、わからんような関係だったころもあったのになぁ。
それはともかく、なぜそれが気になったしストックよ。
次の投稿に続きます。




