21-4.同。~その実りを、呪いとは呼べない~
~~~~素直さとは、勇気だ。君の決意に、敬意を。
遅くに寝たはずなんだが、早くに目が覚めた。
いろいろ考えるとうろうろすべきではないが、ちょっと体が動かしたくなって。
昨日のダンジョン付近から、河川沿いにしばらく歩き、人気のないところまで来た。
ここならだれにも見られないだろう。
呪法や呪文は、「起動するだけ」ならそこまで消耗は大きくない。
あんまりやりすぎると、魔素が尽きるけど。
ちょっと気になることがあったので、確認したかった。
━━━━『呪文。』
呪いの言葉を唱えていく。
起動し、順に確かめる。
ボクの友達六人の業を背負ったから……ケダモノは六匹のはず。
ミスティとの縁、フジダナ。
マリーとの縁、カットウ。
ダリアとの縁、フジワラ。
ただあと三つが、出ない。
キリエとフィリねぇは……ひょっとして本名の関係か?
フィリねぇの方は知ってるけど、そういやこっちで一度も呼んでない。
問題はメリアか。反応はあるのに、化身に変われない。
宿業の力が……まったくない。
また、ミスティのフジダナの力も、パールの時より弱くなったと感じる。
これは呪いの力。因縁を結実させたもの。
その状況によって、力が上下するのか?
「すごいものになっておるな、ハイディ」
「!!!!????」
めっちゃびっくりした。
人の気配、しなかったと思うんだけど……。
いつの間にか、メリアがいた。
「…………これはミスティの技か?」
『そうだよ』
メリアがボクの結晶に、そっと触れる。
今はフジダナの姿。メリアはそのまま、意外に柔らかな結晶の毛を撫でている。
「気にしすぎだ。馬鹿者」
なんで今ボク怒られたし。
「この体は呪いによるものであろう?
そしてミスティとの縁でできておる。
ミスティが、おぬしを恨むわけなかろうに」
……なぜわかるし。
『呪いは恨み辛みじゃないよ。
そういうもの、なんだ。
ボクがミスティを斬ったことに変わりわない。
その未来への道が外れるまで、この業は残るよ』
「単に斬っただけでそうなるなら、もっと呪いにかかっておるだろう。
それはやはり、おぬしが気にしすぎで合っているのではないか?」
鋭い奴め。
そりゃこれは呪縛の業なんだから、ボクが自らを縛らなければ、かからない。
あの時の、心が無くなるような悲嘆が――ボクを、まだあの山に縛り付けている。
『そうだけど、そりゃ気になるさ。
許してもらえたとしても、ボクだって絶対やりたくないことだったんだ。
ボクが許せない。ボクに、ボクの友達を斬らせた奴らや存在が、許せない』
「自分も含めてか?」
『そうだね。もうやらないって自信くらいはある。
でもそれは、そういう実績を作って初めて安心できるものだ』
「めんどくさい奴め」
『嫌なら自重するけど、そういう顔じゃなさそうだね?』
「おぬしが世話好きで面倒な奴なのは、承知の上よ。
ただ一つわがままを言うのであれば……」
彼女の額が、伏したボクの鼻先に触れる。
……別にそこで呼吸とかはしないんだけど、ちょっとくすぐったい気分。
「ことがミスティについてなら。私が責任を持ちたかった」
そういう。
ボクに背負わせるくらいなら、自分が引き受けたいのか。
人のこといえねーだろ。こやつめ。
『……万が一のときは、自分で始末をつけたいってこと?』
「そうなる。そしてその後は望みに従おう。
ミスティが共に果てよというなら、そうしよう。
あやつが私に生きろというなら、どれほど永くても生き抜こう。
ついでにまた、待たせてもらうか」
『重たいやつめ』
「……嫌がられるかの」
『大好物なんじゃないの?
それで一生かけてミスティを落としたんだから、自信持ちなよ』
メリアが身を離し、とても驚いたように目を見開き……それから、笑った。
「くく……そうか。私の得意技は、そんなに効いたか」
『効き過ぎだね。ちょっと頑張りすぎでしょあれ。
だから前の時みたいに……寄り添ってあげて』
「言われずとも、今度は何が何でも離れず側にいるつもりだ。
クルマの乗り心地もよくなったしな?」
『そりゃあよかった。神器戦車でさらによくなるよ、きっと。
まぁそこまで車両に偏るなら、ミスティはもっと運転上手くなったほうがいいけど』
ミスティは十分な運転技術を持っている。
ただ車両戦闘するには足りない。
彼女は変態扱いするが、万が一のときに魔物を車両でひき潰す手段がまったくないなら、クルマで戦うのはやめたほうがいい。
なんでもいいから一つは、及び腰の魔物を必殺する方法がないと、大変だ。
飛んだり跳ねたりもそうだが、気配を消すような走行や、確実に回り込むようなルーティングとか、技術はいろいろある。
変わったのだと、保護色を使ってごまかすのとかもあるんだよね。
ボクらはフレーム色がどうしても派手だから、できないけど。
「私がやるのはダメなのか?」
『ん?あー。君も結晶あるし、むしろあの核結晶の神器車なら、君の方が適合するかも?
運転だって、うまかったしね。
そうすると、オーバードライブの魔導制御と、運転を分けた……複座式か。
両方を一人の人間がやるより、いい塩梅になるかもね』
なるほど、新しい試みだ。
ちょっとわくわくしてきた。
「時間を作って、取り組んでみるか。
運転に精霊にと、しばらく忙しそうだな」
『まずはドーンにつかないとね。思ったより長旅な気分だよ。
トラブル続きで……誕生日までにつくかな』
「来月3の日だったか?」
『そ。その二日後がマリーとダリアだね。
せっかくだから、落ち着いたところで迎えたい』
……こちらを見るメリアが、穏やかな顔をしている。
きっと、見透かされている。
『メリア。この姿、友達全員分あるはずなんだけどさ』
「ああ」
『君のには、なれない』
「それは喜んでよさそうだな?」
『うん。君に許されていないなんて言ったら、そりゃ怒られてしかるべきだろう』
あの山を経なければ、メリアとミスティの出会いはない。
ミスティと違い、メリアはそれを強く自覚している。
ならボクは、欠片だってメリアに恨まれてるなんて、思ってはならない。
「またやられなければ、私としては文句なぞない。
記憶にある限り、私に傷をつけたのはお前だけだ、ハイディ」
なんと。
記憶にある限りってことは……『カレン・クレードル』の体験した全記憶じゃないのか?
メリアが把握してないところもあるだろうけど、思ったよりずっとおおごとじゃないか。
『うそぉ。あれそんな偉業だったのかよ。二度はできんから、安心して』
「くく。そうならんよう、私も力を尽くすさ。
それに」
もう一度、彼女がボクの毛を撫でる。
「文句は言うがな?構いやしない。
それはきっと、おぬしを守るために必要だった。
なら何度でも、盾になってやる。私を信じろ、ハイディ」
……そういうのはずるいと思う。
『信じているとも。何度裏切られたって、諦めるものか。
でもそういうのは、ボクよりミスティにやったげて?』
小さな皇女が。
首筋を照れくさそうに撫でながら、笑った。
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