21-3.同。~友の恋路を手伝う~
~~~~君たちがその苦難を乗り越えられるように。ボクも力を尽くそう。
マリーは寝に行って。
ちょっと頭を整理するために残っていたら。
あるいは自棄エールレッドしてたら。
「……あんた、まだ起きてたの」
ダリアが戻ってきた。
……目が赤い。
いや、君。話して告って……振られたわけじゃなかったよね?
なんで??
「……ハイディ」
テーブルのそばまできたダリアが、立ったまま……何か言いたげだ。
「なに?」
「……私、あんたのこと、その。
結構仲のいい、友達だと思ってるわ」
「そうかい。ボクもだよ」
「…………ハイディ」
「なにさ」
「……いつもありがとう」
「どういたしまして。
ボクからも、ありがとうね」
「………………ハイディ」
「なんだね」
「わかりなさいよ」
めんどくせぇな。
「ボクは、君が勝手に振られたと思って勘違いして泣いたのか?
という可能性を、排除していいのかどうか。まず確認しなければならない」
「……振られたくらいで、泣いたりしないわよ」
うそつけ。
マリーに嫌われたかも、って一晩中泣いてたくせに。
まぁ、つまりそういうことか。
このままじゃ嫌われるって、思ってるんだな。
前の時間は、今のマリーにとってはまだ、起きていないこと。
そこで行われたことは、予言の対象になってしまうだろう。
あの子が、いつか自分の知り得ぬそれを、見てしまったら。
ダリアは、それが怖いんだ。
ならば、原因の方をぶち壊すしか、なかろ。
「ダリア。連邦滅亡は、『予言の子メアリー』の魔力流に。
『魔女姫サレス』の魔術が衝突して起こる」
「……マリーに確認させたの?」
「うん。君を暗殺しようとした、事件の再現と同原理で起こる。
あの魔導拡大を防ぐか、稼働中の事件再現を解消できれば、防げる」
椅子を勧める。
ダリアが大人しく座った。
給仕の人に、果実水とエールレッドを、両方ジョッキで頼む。
「前者は難しいでしょう。接触する前ならともかく、した後に防ぐ手段はないわよ?」
「今のところはね。他がダメなら、それをなんとか考えるしかなかろ」
「ならまず、事件の再現を解消する手段の確立よ。
どう考える?」
ジョッキが来た。
受け取りながら、考える。
「まず、君たちが再現に使われることは、ない。
前の時間でマリーがこれを証明している。
その場にいたのに、自分でやってないのだからね」
「なぜそのようになるの?」
「名前だね。役ではない、魂の名が、抵抗力になったとみられる。
ただこれが防いでくれるのは、役を果たさないという点だけ。
現象自体は起こる」
「その場合、別途『メアリー』や『サレス』が生じるの?」
「再現にあたり、足りない分は、その場にいる人間に役を被せるみたいなんだ。
これについてはパールの街で遭遇してね。
魔力光もなく、魔素による現象でもないと観測した」
「魔導じゃない……呪いという線は?」
この世界の現象で、物理でも魔導でもないなら。
確かに次は、呪いを考えるべきだな。
「あり得るね。ああ、そういえば。
最初にメリアに会った時、なぜか王国内にグレイウルフがいたんだよ。
あれも事件の再現だとすると」
「呪い絡み。魔物はあんたの話だと、魔素のない不完全な存在。
魔素のある存在の場合は代役が必要。
無い存在の場合は、そこにいなくても呼び出し、再現行動を行わせることができる」
ほほう。
もしかすると、バンシーバードもかもなぁ。
「ありそうだ。となれば、あれは呪いの現象だと仮定しようか。
どう防ぐ?あるいは、発生した呪いをどう解体する?」
「……さっきのチキン」
ダンジョンで見た、あれかな?
「ん?ああ、もしかして一体だけ外にいて、おとなしかったやつ?」
そして、中に入ったらまた凶暴化した。
門の前後で、呪いの影響を受けるかの是非が違う、と。
「眷属は親の魔物の呪いの影響を、受けるというわ。
門は異空間の出入口。ここで親子の断絶が為されたのなら?」
「例えば、呪われた存在に門を被せて転移させれば、効果解消がされる?」
「検証したいけど……」
「呪いを発生させる、魔導が何かがいるね。
いや、なくてもできる。ボクが呪いを用いた武術を使える」
「そうね。そこから解明しましょう。
というか、あんたがそれを使いながら門を潜ればいいんじゃないの?」
「おっと、簡単にいけるね。今度試そうか」
「成功したら、門を発生させる魔導の研究ね」
「二……三年くらいはいりそうだね」
「十分間に合うわ。やりま……ぁ」
ん?なんだどうしたダリア。
「ハイディ」
「なに?」
「手伝って」
なるほど。
君が素直に言うなんて、珍しいじゃないか。
明日は雨かな。
「よし来た」
ダリアがにやりと笑った。
「ん。私ね。マリーに嫌われたくない」
雨じゃなくて、槍が降りそうだな??
「……それが祖国を救う理由か?」
「別にそれだけじゃないけど、そのためよ」
……言い切るとは、思わなかった。
君は縁の会った人を、皆大事に思ってる。
そこに優劣は、ついていなかったはずだ。
マリーはそんなにも、君にとって大事な子だったのか。
「私言ってなかったけど、マリーに前の時、言っちゃったのよ。
あなたが……連邦を滅ぼしたかもしれないって」
「だろうね」
そりゃそのくらいは察してる。
君が嫌われたかもと、それ以上言わずにずっと泣いていた日。
あれからマリーも、様子がおかしかったからね。
「……証明してやるわ」
ダリアが果実水を一気に飲み干し、ジョッキをテーブルに置いた。
赤い目で。
まだ涙の少し残る瞳で。
力強く、見上げる。
「あの時の私が間違ってて。どうしようもない大バカ者だったって」
そうして、穏やかにほほ笑んだ。
「そうして今の……マリーに話して。
笑ってもらうのよ」
「そうだね。あの子なら、笑ってくれるよ」
本人はひねくれてるけど。
そういう真っ直ぐなのが、大好きだからね。マリーは。
「ボクからも一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「マリーの何がそんなによかったの?」
「ん”。そんなの言えるわけ……ん。言うわ」
被りを振って。
ダリアが真っ直ぐ、ボクを見た。
「何もかもよ。
嫌いな自分を抱えながら。
それでも真っ直ぐ生きる。
彼女の為すことすべてが。
私は愛おしい」
「そんな彼女のためなら、祖国の危機をも捧ぐってか?」
「最っ低だけど、その通りよ。
私は真っ直ぐ生きられない。
だったら捻じ曲がってるものを、何だって使って。
思いを伝えるしかないのよ」
「そうかい。
君たち、お似合いだよ」
むせおった。なんでや。
「ハイディ、なんか余裕出たわね。
ストックがいるから?」
「うん。言い方悪いけど、他のたくさんのことがどうでもよくなった」
「ほんとに悪いわね。
でも、手伝いはちゃんとしてもらうからね?」
「そりゃ手は抜かないとも。
一番とそれ以外がはっきりしただけで。
ボクが友達を大事にするのは、別に変わってないからね?」
「おせっかいは変わらないのね。
友達に世話焼き過ぎると、嫌われるんじゃないの?ストックに」
ふふん。残念だがダリア。
ボクが死力を尽くして生きるのであれば。
ストックはむしろ、喜んでくれるのさ。
「あの子はそこがいいってさ」
「けっ」
なんとなく、空のジョッキを掲げる。
ダリアも同じように掲げ。
合わせると、思ったよりいい音がした。
次投稿をもって、本話は完了です。




