21-2.同。~友の恋路を応援する~
~~~~予言者の語りとは、やはりこうでなくては。話がスムーズでいい。
しかしメリアのことを踏まえると……なぜ再現が起こったのか、が難しいな。
マリーに過去の記憶はないわけで。メアリー=マリーだったのは、前回と今回だけとみられる。
メリアの誘拐は、カレン=メリアで、かつパールの街に同時期にいたから起きた再現事件だ。
体と魂、両方が同じとき、過去と同じ事象が起きる、とみられる。
…………ん?ひょっとして、マリーじゃなくて、他の人間が同じだから起きてる?
例えば今日のなら、ダリアに直接依頼をした、王国の人間とか。
連邦滅亡なら、マリーに魔導をぶつけた人間がいるはずだ。マリー自身は、魔導を使えない。
この魔導を魔力流にぶつけた人間が、かつてそれを行ったときと同じ体、魂で、同じ時に連邦にいたなら。
再現は起きる。条件は、今まで見たものと合致する。
そしてそれは、そいつがまた同じ時に連邦にいたら、あの国は滅ぶということだ。
しかもメアリーが知っている人物と事象だから、予言で突き止められない。
いや、待てよ?これボクの認識が間違ってるかな??
「マリー。さっき、ダリアに直接依頼した人は分かったって言ったよね?」
「はい、言いました」
そうだった。『メアリー』が見聞きした範疇でも、本人が知り得ないことがあればOKなんだ。
ダリアに依頼した人と、その人が『メアリー』に会ったところは、『メアリー』の記憶にあるので予言に引っかからない。
でも、実際にダリアに依頼した辺りの話は、『メアリー』が直に記憶していないので、予言の対象になる。
なら……いけるか?
なるべく正確に情報を把握してもらって、やってみてもらおう。
「じゃあ、聖暦1088年、6の月27の日。深夜1時20分から30分くらいの頃だ。
そのとき、イスターン連邦ミクレス国首都イスターン、三番街の宿屋付近で。
攻撃魔導を使用する者がいるか?」
この日時はおおよその予測だ。
生き残りに聞いた範疇から、ことが起こったのはこの辺りの時間じゃないか、というのはわかっている。
場所については、マリーがいたところだ。
「あ、はい。います」
「名前は?」
「……………………サレス」
――――来た。当たりだ。
「っ。中身は」
「ダリアさんではないです。ただ、誰なのかはよくわからなくて」
「命名されてない魂だから、あいまいなのかもしれないね……。
ってあれ、おかしい」
「何がです?」
「前回の時間のとき、当時サレス……ダリアは学園だよ。
そこに『魔女姫サレス』がいることは、あり得ない」
「ん?……学園の、アウラ寮ってところですか?
敷地内側の、初等部棟?の四階。北の一番奥の部屋」
ちょっとマリーが苦しそうにしてる。
時間と人物がはっきりしてるからいけるんだろうけど、ちょっと危ないんじゃないか?
「部屋は分からないけど、場所はだいたいそこでいいはずだ。
その『サレス』はダリアなんだね?」
「はい。それははっきりわかります」
「…………再現現象には、こちらがわかっていない法則性がある、と見るべきか」
「なんでもありですね」
「いやいや。そうだったら同一人物の目撃情報が多数でちゃうでしょ。
条件自体は、狭い感じであるとは思うよ」
なお、こういった「法則」の話は、予言には引っかからないらしい。
おそらく自分がその中にいて……つまり「知ってる」扱いになるからだろう。
外縁部くらいなら知ったり、そこから予測したりはできるようだが。
まぁとりあえず、状況はだいぶわかってきた。
過去にダリアやマリーではなく、別の『サレス』と『メアリー』が激突、連邦が滅んだことがある。
『メアリー』の魔力流は、神器由来ではないので、古い時代の場合もあり得る。
そしてダリアとマリーの所在に関係なく、この再現が起こる可能性がある、と。
どう止めたらいいかさっぱりわからないけど、まったく不明だった以前の状況に比べれば、ましか。
まぁその場にいたマリーを含め、なぜ生き残りがいたのか?とかもわからないからなぁ。
『サレス』が使った魔術によっては、偶然当たらなかった、もあり得るんだけど。
少しずつ、調べていくしかあるまい。
「この件に関しては、できれば状況を詰めつつ、予言も使って防止に動きたい。
手伝ってもらえる?マリー」
「もちろん。というかむしろ、これは私がハイディに頼む立場では……?」
「そうかなぁ?本来はマリーこそ、関係の薄い話だと思うけど?
ボクは連邦隣国の王国民だし、友達の祖国の話だから、結構関わりのある一件だよ、これは」
過去の『予言の子メアリー』と『魔女姫サレス』がやらかしたことなんだから、マリーには関係ない、とボクは思う。
マリー自身も、別に連邦に対して思い入れがあるとか、正義感が強いとかいうこともないはずだ。
でも彼女の顔は浮かない様子。
「ん……そういわれるとそう、なのですけど。
私を好いてくれる方の祖国の話だから、ではダメなんですか?」
危うくジョッキを取り落とすところだった。
「……………………お断りしたんじゃないの?」
「いや、あの。時間がかかると思うから、待ってって言ったんです。
その……ほら。あなたは私の性格には理解があるんでしょう?」
「……ついでに言うと、君の性癖もそうなんだな?って思ってる」
「ふあぁぁ!?」
マリーは、自分の様々な思いを好きになれない性質だ。
自分の考えや感情に対して、かなり否定的な態度をとる。
例えば、女同士なんて絶対ダメです!って言ってたり。
ダリアさんを好きになるなんて、あり得ません!って言ってたり。
かえってわかりやすいことになる。そう思ってないのは、本人とダリアだけだった。
彼女は聖国の出身で、さらに預かりの枢機卿が隠れ聖女派だったらしく。
聖国聖教の教えと、聖女派の教えの二つを受けた身である。
そのうち、聖女派の淑女としての教育を踏まえて。
高く在ろうとする志と、実際にそこまで気持ちが追いつかないギャップに悩み、自己否定が強くなった。
淑女としてふるまおうとするが、どうしてもそうできないので、萎縮してしまっているのだ。
その上で、同性愛に否定的な聖国聖教と、比較的寛容な聖女派の間で変な価値観になっている。
そこに己の性質、性格が複雑に絡んで、自己否定的な同性愛者が出来上がった。
結果、ダリアめっちゃ好きなくせに、そんな自分を全否定という、めんどくさい女になっていた。
早々にこうなったのは予想外だが、この様子だと今回も当分はこんな調子かねぇ……。
「マリー、前は言ってあげられなかったけど。
自分を否定するのはいい。それも君の在り様だ。
その分、ダリアを信じてあげて」
「…………はい。
ハイディの言うことなら、私信じられるみたいですし。
素直に言うこと、聞いておきますね」
「そこもわからんのやけどな?なんでや」
「私の性質を理解した上で、寛容だからです。
そうしてくださる人は……」
「ああ、悪かった。じゃあボクは、それを貫くよ。
ダリアにいたずらされたら、相談しにおいで。
楽しいいたずら返しを、たくさん教えてあげよう」
彼女が言いかけたのは、マリーの親代わりだった枢機卿のことだ。
価値がないと判断されたマリーを引き取り、生きる力を磨かせていた。
高齢故、すでに病没しているはずだ。そして派閥が解体され、マリーは放逐された。
彼女が自由になれたのは、その枢機卿の最後の差配によるものである。
「なんですかそれ。でも、楽しみにしてますね」
うん。やっぱりだ。ダリアとは趣味が合わん。
マリーは笑うと、とてもかわいい。
君が笑い転げられるようなダリアとの付き合い方を、たくさん教えて上げよう。
次の投稿に続きます。




