21.シャドウ南街。滞在し、語らう。
――――友情を因縁とは呼べないな。照れくさいが、絆、というべきだろうか。
「そこにいないで、こっち来ませんか?」
……君、普段はもっと鈍いじゃろ?なんで気づいた。
話し終わって、皆休んで。すでに遅い時間。
部屋は内部でさらに6部屋ほどに分かれていて、別々に寝た。
といっても、ボクとストック、ミスティとメリアは同じ寝床。
今日は普通に寝付いたと思ったんだけど、急に目が覚めた。
飲み物を飲んでたら、マリーとダリアがいないことに気づいて。
着替えて、もうちょっと養分とるかと食堂に来たわけだが。
二人がこう、割とシリアスな雰囲気で同じテーブルで向き合っていた。
といっても、ダリアが渋い顔で、マリーは俯いていて。
なんだこれやな状況だなぁと思って戻ろうとしたら、ダリアが席を立って、外へ。
そして残ったマリーに見つかって、止められた。
給仕の人を捕まえて、エールレッドを頼んで、テーブルに行く。
無性にアルコールを入れたい。どばどばと。
マリーの左手の席に座ったが彼女は顔を上げない。
……というか、これ。
「告りやがったな?ダリアめ」
「っ。そのえっと、はい……」
「ごめんよ。ボクのせいだ」
「え、なんで?」
やっとマリーが顔を上げた。
「かつて言ったんだよ。余裕のあるうちに、素直になっとけって。
その上で、あの子の中では深刻なつかえが一つとれた。
だからこれは、ボクのせい」
「つかえ、というのは……」
「さっき、イスターンの滅亡についても話したでしょ?」
「はい」
ダリアの祖国、西のイスターン連邦は、前の時にドーン崩壊と前後して、消えた。
文字通りの消滅。生き残りもいたのだが、皆一様にして「何が起きたかわからない」と言ったらしい。
急に何もかもなくなって、ただの廃墟と化した、と。
ダリアにとっての主題は、この連邦滅亡の謎を解くこと、その回避だろう。
「あの子ね。マリーが滅亡に関わってるって疑いを、拭えなかったんだ」
「私が、ですか?」
そしてその滅亡の場に、マリーもいた。
彼女はたまたま連邦首都イスターンに立ち寄っていたが、起きて目覚めると廃墟だったそうなのだ。
彼女をしても、何が起きたかさっぱりわからなかった、と。後々に聞いた。
そしてこれを知っている人間は少ないが。
マリーは条件次第だが、国を消滅させるような戦略破壊が行える。
「君のオーバードライブに、高出力の魔導を乗せると、場合によりそのくらいの威力に達する」
「ええっ!?」
「ただこの場合、君はもちろん、魔導師だって生きてない。
だから状況的にはあり得ない。
でも、それができるような者が、他に生き残っていなかった」
例えば、高位精霊使いなら、これも場合によっては近いことを成し得る。
それでも一瞬で蒸発とはいかないが。
だがそれができるくらいの魔法使いは、当時全員王国にいた。
何せ連邦滅亡は、ドーンが落とされた直後くらいだったからだ。
王国としては、そちらに高位精霊魔法使いを送るような余裕はまったくない。意味もない。
多くの国防省職員が亡くなった後なのだから、防衛に全力を上げているところである。
「そして君自身が『わからない』と言ったことが、事態に拍車をかけた。
ボクらは予言の効果は教えてもらったからさ。
君がわからないことなんて、あり得ないって思ったんだよ。ボクも、ダリアも」
時系列的には、例の魔力流での魔導の拡大法をまず見つけて。
その後、マリーに予言のことを教わった。
しばらくして、悩んでたダリアを手伝って、連邦滅亡時の状況を調べた。
マリーがやったわけがない。でもほかに可能性がない。
ダリアは国自体はともかく、家族や縁のある人は大事にしてたから……すごく思い詰めていた。
それがマリーにも飛び火して、めんどくさいことになって、なんとか二人を落ち着けて。
一応組ませられるくらいまで持ち直したあたりで、ラリーアラウンドが王国内に侵攻してきた。
その後はまぁ、ボクが船を降りるまで、忙しかったからなぁ。
「ごめんなさい。今調べてもそれは、わかりません」
「ああ悪い、先に言っておけばよかった。それについてはわかったから、調べなくていいよ」
「へ?」
「もちろん、詳細がわかったわけじゃないけどね。
さっきのつかえ、というのはそれだよ。
マリーにもわからないことがある、その正体がはっきりしたんだ」
ダンジョンから戻ってくる際、ストックが言っていた話である。
「えっと、どういう……」
「その体、『予言の子メアリー』が過去に行っていたことは、君が知ることはできない。
予言の力はメアリーのもの。
だから過去にメアリーの中に入った、いずれかの魂がやったことは『知ってること』になる。
しかしその力は『知り得ないことを知る』ものなので、すでに知っていたら反応しない。
そしてマリー自身は、過去のメアリーがやったことは当然知らない」
「私……ではなく。私以外のメアリーが、連邦を滅ぼしたことがある、と?」
そう。ダリアは「マリー本人がやった以外の、しかも有力な可能性がある」から浮かれやがったのだ。
ついでに告りおって。よくやった。でももうちょっと仲良くなってからにしろ。
「そうなる。で、ダリアをダンジョンに誘導した先の件も、メアリーが過去に関わっている」
「え”。私ここにいますよ!?」
「メアリーが二人いるって話じゃなくてね。言ったろ?過去を再現するような現象があるって」
「あ。再現元がいずれかの『メアリー』ってことですか?」
「うん。動機がちょっとあいまいだけど……」
「『魔』女姫だから、討とうとしたんじゃないですか?」
うわこっわ。例の使命か。真面目にやってた子がいたってことか?
「あー……君はその使命、さっぱりやる気ないけど、他のメアリーはそうとは限らないのか」
「ええ。魔物を暴走させる方法も、予言を使えば」
「できるのはできる。筋書きを描くのだけ、一人でやったとは思えないけど。
ないではない話になってきたね。
となると……連邦も近い動機か?」
「あるいは、事故のようなもの、とかはどうでしょう」
「ああ。魔力流を出してるところに、魔導をぶつけられたのか」
「はい。今のところ、故意である必然性はないと思います」
なんてややこしい話に。
次の投稿に続きます。




