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第四話 秘密の日課とゴブリンの影

「たーたらった、たったったー、っと」


 鼻歌を口ずさみながら、私は道なき道を進む。


 お風呂から上がった私は、お散歩と称して家から飛び出し、ついでにアーランドの村からも飛び出した。


 当たり前だけど、村から出ることは家族から禁止されてる。村の中と違って、外に出ればいつ魔物に襲われるかも分からない危険地帯が広がっているんだから、当然だ。


 でも、私は知っている。この世界は、村の中だからって安心してのほほんと暮らしていけるほど、生温い世界じゃないって。


 この大陸の西側に存在する、魔物達の楽園……"暗黒大陸"に棲む魔王が軍を率いて侵攻してくれば、こんな平和は一瞬で崩れ去るって。


 だからこそ、私は敢えて外に踏み出す必要がある。

 魔物と戦ってレベルを上げ、スキルと体を鍛え上げて、どんな脅威からも村を……家族を守れるように。


 そのために私は、家族にも黙ってここ……アーランドの村から一番近い森の中で、魔物狩りを日課にしていた。


「グオォォ!!」


 そんな私目掛け、巨大な熊が襲い掛かって来た。森の暴君と恐れられる魔物、タイラントベアだ。

 乱立する木々を突進の勢いだけで蹴散らしながら突き進む様は、まるでダンプカーのよう。

 いや、ダンプカーでも木とぶつかったら止まるだろうし、それ以上? よく分かんないや。


 ともあれ、あんなのに轢かれたら、私の小さな体なんて一瞬でミンチになることだけは間違いない。


「まあ、そうはならないんだけどね」


「グォ!?」


 突進してきたタイラントベアの巨体を、ヒラリと空に跳び上がって回避する。


 一瞬で視界から消えたことで、私の位置を見失ったのか。タイラントベアは適当な木に頭を突っ込んだところで止まり、周囲をキョロキョロと見渡す。


 そんな無防備な熊の後頭部目掛け、私は踵を振り上げた。


「──《身体超強化》、《筋力強化》」


 私自身の身体能力を全体的に強化する上位スキル、そこに更に、筋力に絞って強化するスキルを重ね掛け。


 極限まで威力を高めた踵落としが、熊に直撃。凄まじい衝撃となって、その頭を吹き飛ばし、地面に小規模なクレーターを穿った。


「わあぁ!? またやっちゃった!!」


 血飛沫を上げながら倒れていくタイラントベアの死体から離れながら、私は焦る。


 もう一度言うけど、この魔物狩りは、家族に隠れてやってるの。それなのに、返り血で服を汚したら怪しまれちゃう。


 赤く染まったワンピースを見て溜め息を溢しながら、私は急いで《浄化》の生活魔法で汚れを落とした。


 これくらいの魔法なら、お母様も教えてくれるんだよね。攻撃魔法は全然だけど。


「これで誤魔化せるといいけど……うーん、最近、力の加減が利かなくなってるなー、注意しなきゃ」


 FBFは、他にある数多のゲームと同じく、敵となる魔物を倒して経験値を稼ぎ、強くなるシステムだった。


 この世界でもそれは似たような感じで、魔物を倒し、その世界への貢献で以て女神から"加護"を貰い、強くなっていくことが出来る。


 この"加護"によって、人は自らの限界を超えた超常のスキルを習得し、悪魔の眷属たる魔物に対抗しているわけ。


 ただ、加護によって強くなると言っても、手に入れた力をいきなり使いこなせるわけじゃないし、全く習ってもいない技を急に覚えられるわけでもない。加護は、あくまでスキルを覚えるための"下地"を作ってくれるだけだ。


 お母様からは、体の使い方ばっかり習ったから、こういう基礎能力を強化するスキルは一式使えるようになったけど……魔法とか、武器を使った攻撃スキルはまだ全く使えないんだよね。


「今の私のレベルは……んー、ゲーム換算だと50そこそこかなぁ、レベル100(カンスト)まで、まだまだ先は長いね」


 二年掛かりで鍛えて来たものの、この辺りはあまり強い魔物が出ないこともあって、あまり効率が良くない。


 タイラントベアなんて、ゲームじゃちょっと強めの通常湧き雑魚モンスターだったしね。


「せめて、何かボスクラスのモンスターを狩りたい……むぅ……」


 私が戦うことをお父様やお母様に認めて貰えれば、二人の魔物討伐についていけるんだけどなぁ。


 英雄なんて呼ばれてる二人が出向くような任務だし、きっと上級クラスの魔物が出てくると思うんだよね。もしかしたら、それより上の魔族だって。


「……ん?」


 そんな風に悩んでたら、近くに魔物の気配がした。

 目を向けると、草葉の陰に隠れて一瞬だけ暗緑色の肌が見えた──気がした。


「うーん……?」


 確証が持てないのは、それらしい影を見た場所を探っても、魔物どころか野ウサギの一匹すら見付からなかったからだ。


「確かに居たと思ったんだけどな……」


 あの色合いの肌を持つ魔物となれば、その対象はほぼ間違いなくゴブリンだ。


 人間の子供並みの知能を持つ、亜人タイプの魔物。大体どんなゲームにも出てくる、雑魚キャラの一つ。


 それはこの世界においても、概ね間違ってない。ゴブリンは単体だと弱いし、初心者御用達のチュートリアルモンスターと言える。


「でも、それならそれでおかしいんだよね」


 ゴブリンの知能が子供並みというのは、あくまで平均の話。大抵は、人を見れば躊躇なく襲い掛かって来る。私みたいな子供相手ならなおさらだ。


 それなのに、攻撃の一つもせず姿を眩ませた。

 もし、偵察なんて"雑用"をこなすゴブリンですらそこまでの知能と理性を備えてるなら……それは……。


「強力なリーダー個体が、近くにいる?」


 ゴブリンは雑魚。その認識があくまで"概ね"しか正しくない理由は、例外が存在するからだ。


 他のゴブリンを率い、巨大な群れを作って町を呑み込むゴブリンの王──ゴブリンキング。


 こいつがいると、周囲のゴブリンの知能が上がって強くなるし、何より本体もそこらのゴブリンと比較にならないくらい強い、れっきとしたボスモンスターだ。


 そして、何より気になるのは、その設定。

 あくまでゲームの中の話ではあるけど……ゴブリンキングが率いる群れは、積極的に人が住む小さな農村を襲っては、そこに住む人々を母体に仲間を増やし、やがて国すら呑み込む大災害を引き起こす、とされていた。


 もし、その設定通りの存在が近くにいるなら、一刻も早く仕留めないと危険だ。


「明日からは、もう少し奥の方まで捜索してみようかな……」


 そんな風に考えながら、私はその日、一旦家に引き返すことにした。


 でも私は、この時まだ本当の意味で理解してなかったのかもしれない。


 村や町、国すらも簡単に滅ぶ修羅の世界。その厳しさを。

少しでも楽しんで貰えた方、先が気になる方はブクマ・評価お願いします。

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