3、調香師は悪魔
朝になるとニッカは目を覚ましていた
「生きてる・・」
「ニッカ!よかった!」
アルバートはニッカに抱き着く
「あら、体力お化けはすごいわね、もう起きれるの?」
「サンドラさん!」
体を起こし立ち上が党としてふらつく体をアルバートが支える
ニッカは床に手をついて頭を下げる
「助けていただきありがとうございました」
「無理しないほうがいいわよ、まだ痛いはず」
脇腹を押さえて、苦痛に顔を歪ませるニッカ
横になるように手を貸すサンドラ
「お願いします、天才調香師ニコン・カーターのお力を貸していただけないでしょうか?」
「ん~それは本人に交渉してみて、あなたの応急処置をしたのもニコンだから」
サンドラによってベッドに横にされたニッカは
感謝しかないとまた眠りについた
ニッカの目覚めにほっとしたアルバートはサンドラに訊ねる
「天才調香師ニコン・カーターって何者?」
「あら王子様は井の中の蛙かしら?」
サンドラはふふっと笑う
「なぜ俺が王子だってわかる?」
「指輪渡したでしょ?ニコンに」
「ニコンってカラスと同一人物?」
「ふふっ、王子様は・・面白い子ね」
サンドラは口元を押さえて笑いをかみ殺すように笑っている
「ニコンを借りに来た世間知らずの王子様ねぇ~」
サンドラは楽しそうだった
「交渉頑張ってね、王子様。ニッカが治るまでは面倒を見るわよ」
アルバートは渋い顔をしていた
ニッカに連れられてここに来た、そのニッカはまだ回復していない
自分がニコンを説得しなければならない状況であることは分かる
けど、ニコン・カーターがどういう人物でニッカが何を求めてここまできたのか
それすらわからないのに説得とは何をすればいいのか
さっぱり分からなかった
あれから幸いにも刺客がくることはなかった
でも居場所は知られているはずだ
そんなことを考えて湖までくると
ニコン・カーターがしゃがみ込んで何か草を摘んでいるのが見えた
アルバートはニコンに近づく
やはり黒いローブでフードを目深にかぶり、口元を隠していた
「あなたはニコン・カーター?」
「そうだと言ったら?」
「調香師って何?」
「香りをかぎ分けて薬などを調合する人」
「なんでそんなカラスみたいな格好してるの?」
「・・・・」
「あのさ、俺弟探してるんだけど。手伝ってくれない?」
「は?なんで私が?」
「ですよね・・」
アルバートは直球で誘ってみた
これで協力するとは誰もが思わない
ぐっと胸元を掴まれ、ニコンに引き寄せられるアルバート
「わっ」
フードから見えるその瞳は灰色がかった青い目
その瞳を見てアルバートはドキッとした
「来るよ」
その言葉と同時に2人くらいの殺気を感じ取ったアルバートは
腰の剣に手をかける
ニコンは身軽に木に登り、気配を消した
一人がアルバートに切りかかってくる
それをかわして剣を振りおろすと、逆サイドからもう一人に襲われた
アルバートの身のこなしは見事であった
一人の足の腱を傷つけ動きを封じるともう一人に切りかかる
急所を押えて、2人を封じ込める
ニコンが木から降りてきた
「海、イヌザンショウ、金」
とげがある蔦をどこからか持ってきて
その男2人を拘束する
「手伝って」
「はい」
アルバートはその蔦でぐるぐる巻きにした
「さて、あなたたちは何をしにこちらへ?」
「・・・」
話そうとしない様子を見て、刺された場所をぐりぐりと木の棒で刺激するニコン
ためらいなく容赦ないその手口に唖然とするアルバート
「海の近くからわざわざここまで人殺しにくるとは、相当な金をもらったんでしょ?」
「うるせーお前なんだよ、そっちの王子に用があんだよ」
「ほう、まだそんなに元気があるとは」
そういって袖のローブから小さな小瓶を取り出すニコン
その小瓶は無色透明な液体が入っていた
「楽に逝くのと苦しむのどちらがいい?」
その小瓶のふたをあけようとするニコン
「まて、その液体なんだ?」
アルバートが聞く
「毒薬、これ一杯で死ねる、匂いを嗅いだだけでどうなるかな?」
フードを被ってマスクをしていてもわかる
ニコンは笑っていた
その様子に威勢の良かった男も黙る
「人を殺しにきたんだから、それ相応の覚悟があるんだろ?」
小瓶に手をかけたままのニコン
「迷惑なんだよね、生活圏内でこんな物騒なこと起きるなんて」
心底めんどくさいというような調子でニコンは話している
「もう来ないでくれる?それか死んでくれる?」
小瓶をちらつかせ、またしても急所をえぐる
男の苦痛にもがく声が大きくなる
殺さない程度にいたぶるその様子は
黒いその姿は悪魔にしか見えない
アルバートも男たちも恐ろしいその人物にふるえていた
「あんたも、早く出ていって、それとこいつらどうにかして」
ニコンがアルバートのほうに気がむいたとき
アルバートは終わったと思った