1、森の中の出会い
かつかつと忙しそうに歩く足音が聞こえる
重厚な扉を開けて響き渡るその声にピクリと反応する男は床に直に
あぐらをかいて座り新聞とにらめっこをしていた
「アルバート様ぁ~!!!!」
「何?」
「何じゃありませんよ!どうするつもりですか?」
「どうしようね・・」
第一王子アルバートが持っている新聞を
いきよいよく剥ぎ取る第一王子付き護衛のニッカ
「何するの?」
「この馬鹿王子!また賭け事なんかして、今それどころじゃないでしょ!!」
耳にペンを挟んで、今日の馬を選んでいたアルバートを
血相抱えて新聞を剥ぎ取る
「なんのために今ここにいると思ってるんですか!」
「何のためって弟の情報収集でしょ?」
ニッカは危機感がまるでないこのダメ王子を睨んで
自分の頭をぐしゃぐしゃにした
「あ~!!!なんで王はこんな大事な任務任せたんだ!!」
「借金帳消しにするっていうからさ」
「はぁ?そんな理由で王命受けたんですか?」
「金ないのは死活問題でしょ」
「あんたがしっかりしないと、俺らが死ぬんですよ。もちろんアルバート様も
弟殿下を助け出さないと待っているのは死刑ですからね」
「う~ん、困ったな、死ぬのは怖くないけど、金がないのは怖い」
今アルバートとニッカは城の地下スペースにいる
王太子救出という王命を受けて、すぐに何者かに襲われたからだ
「ダメだ、この人・・犯人の目星は?」
「襲ってきた奴らの顔をみたけど、知らない人だった」
「困った・・私についてきてください」
移動しようとするも全く動く気配のないアルバートを引っ張るニッカ
地下道を抜けて、馬を調達し緑豊かな国の外れを目指した
途中刺客と思われる何人に襲われる
アルバートは剣の腕は一流だった
2人は刺客を巻いて、目的地にたどりついた
服は返り血で汚れ、どこからどうみても訳ありの人物にしか見えない
幸いにも人口が多い町ではないが、その容貌はとても目立っていた
ニッカが服を入手しアルバートも着替えた
さらに森へと進み、1件の薬屋を目指す
また新たな刺客がニッカを襲う
ふいうちのため、ニッカは腹部に傷を負った
アルバートがその刺客に致命傷を与える
「ニッカ!大丈夫か?」
アルバートがニッカに近づき、腹部から流れ出る血を押さえる
横になっているニッカは顔色が悪い
「その人、もうすぐ死ぬよ」
木から降ってくるように黒い人間が下りてきた
「え?」
それだけ言って霧の中に姿を消した
黒いフードに黒いローブの姿
姿が消えると同時にカラスが飛び立った
「え?カラスなの?それとも死神?」
アルバートが馬鹿な事を言っている間にもニッカはとても苦しそうだった
「どうすればいいんだ」
なすすべなく、アルバートはニッカの側にいると
霧の中からさっきのカラスのような人間が戻ってきた
「え?カラス、何する気?」
ニッカの腹部の布をナイフで切り深そうなその傷を見て触れて確認する
「これは、縫わないとダメなやつ」
アルバートを除けさせ、水を汲んでくるように指示をだす
その間にニッカの口にタオルを挟む
傷口には麻酔効果のある薬を塗る
「効くまで待ってられないから、痛くても我慢して」
そのカラスのような人物は、手際よく
損傷した部位を縫っていく
痛みで悶えるニッカの体を水を汲んで戻ってきたアルバートに手足を持つように指示する
無事に縫い終わり、手を血で真っ赤にしたカラスは
汲んできた水で手を洗い、じゃと去ろうとする
アルバートは黒のローブの裾を掴む
「ありがとう、命の恩人だ」
「これは応急処置でしかない、これからがどうなるかわからない」
「どうしたらいい?」
「訳ありでしょ、あんたたち。これ以上関わりたくない」
「そこをなんとか!これで助けてくれ!!」
指にはめていた金の指輪をカラスに渡す
その指輪をじっと見つめる
「これ、王家の紋章が彫られてるんだけど・・それにその瞳は・・」
「第一王子のアルバートだ。こいつはニッカ!」
「却下!益々無理!」
「金は出す」
「身分や金で人の心が動くと思うなよ!」
そう言い放ち、カラスのようなその人物は
再び霧の中に消えていった