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第十三話 『    』

 ——昔、あいつの悪戯で大怪我をしたことがある。お互いまだ、幼かった頃の話だ。


 あの馬鹿は取ってつけたような笑顔で、プレゼントだよ、なんて言ってガラクタ置き場か何かで見つけて来たような、薄汚れたビックリ箱を渡してきた。


 まあ、本当に外から見て分かるような代物だったから、俺は逆に堂々と開けて平気な顔してからかってやろうと思った訳だが、なんとその箱爆発しやがった。


 勿論あいつに悪気があった訳じゃない。全部あいつが悪いか、と言われればそうでもない。死ぬような怪我でも無かったし、正直なところ俺の運が悪かっただけだ。


 だってのに、あいつは三日三晩俺の横で謝り倒して泣きじゃくってた。夢にまで出たよ。おかげで、その時の顔は頭に焼き付いてる。


 丁度、俺があの黒いのに飲み込まれた時みたいな、そんな顔だった。


「——何してんだよ」


 わざとらしく、聞いてみる。一瞬驚いたような顔をして、目の前の奴は表情を引き締め直した。


「見たら分かるでしょ? 行かせないから」

「お前が、あれを呼んだのか?」

「そうよ。悪い?」

「……無理すんなよ」

「してない!」


 一秒で分かるような嘘をつくな。目は真っ赤に腫れてるし、歯を食いしばってるのもバレバレ。大体そんな震えた声で、説得力なんかある訳ないんだよ。


「はいはい。分かったから、通してくれ。俺、急いでるんだ」

「……嫌だ」


 預言者が、黙ったままの琥珀の杖を構える。いつもはやかましく空気を盛り上げてくれる癖に、こういう時は一言だって喋らないんだから、困ったもんだ。


「あんたを使い捨てにする世界なんて、救わせない。あんたが居なかったら救われない世界なんて、滅んでしまえばいい!」


 杖が、バチバチと電気を帯び始める。預言以外はからっきしだったあいつの、一番得意な魔術だった。


 ——ああ、駄目だ。こいつは、覚悟してる。俺ももう、目を背けている場合じゃない。向き合わなきゃいけない時だ。


「通してくれ、ライリー」


 真っ直ぐに、預言者(ライリー)の目を見る。


「い……嫌だ! これ以上来たら、たとえあんたでも容赦しないから!」

「どうしても、駄目なのか?」

「駄目だよ! 駄目に決まってるじゃん……! もしここから先に行っちゃったら、あんたっていう人間は消えるんだよ? あんなロクでもない世界の為に、なかったことになっちゃうんだよ? そんなの……そんなの、絶対におかしいよっ……!」

「そんなの分かってる。分かってるけど——」

「クラークの馬鹿! この、分からず屋ぁ!」


 激しい閃光が迸って、身体が痺れる。けれどそれよりも、胸の奥の方がずっと痛かった。


「……ごめんな。お前の言う通りだ」

「なっ……」

「俺は馬鹿だよ。馬鹿だから、お前を守れなかった。誰も救えなかったし、約束も守れなかったのに、まだ俺じゃないと駄目だなんて思い込んでる。どうしようもない奴だよな」


 心からの本音だったけれど、こういうことは言いたくなかった。我ながら、嫌な奴だと思う。


「なんで……そんなこと言うの? それだったら、もう諦めてよ! 今からでも良いから、私とずっと一緒に居てよ! 言いたいこともやりたいことも、いっぱいあるんだから……!」

「……それは——」

「——分かってる。分かってたよ。どうしても、出来ないんでしょ? だって、クラークだもんね……!」


 それが、ライリーの限界だった。諦めたように笑って、膝から崩れ落ちる。もう立てそうにはなかった。


「ごめん。信じて貰えないだろうけど、一つだけ聞いてくれ。俺は、絶対に戻ってくる。勇者として、俺として、魔王を倒して帰ってくるから待ってて欲しい。今度はちゃんと、約束守るから」

「……いいから、もう行きなよ。これ以上ここに居たら私、何するか分からないよ?」

「何もしないだろ。ライリーだぞ?」


 俯いたままの、小さな背中が揺れた。俺もこれ以上は耐えられそうになかったから、足を前に出した。


 ——思えば、こいつとはいつも一緒だった。物心ついた時から、決戦の時までずっと俺の側に居た。


 一人で良いって言ったのに、どうしても離れてくれなかった。こいつだけはずっと一緒に居たいって言って、聞かなかったから。


「——今までありがとう。またな」


 さよならを言うのは、本当の最後になった時。


「うん、またね。大好きだよ——」


 俺も好きだと言うのは、次に会った時だ。

 お読み頂き、ありがとうございました。

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