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056 大賢者の弟子

 俺のつぶやきを聞いたロッテが言う。

「元となる魔導具をお師さまが設計したからでは?」

「いや、改造部分がまさに師匠の体系だ」

「……私にはよくわかりません」


 ロッテにはわからないようだが、開発者である俺にはわかる。


「ロッテも、そのうちわかるようになる」

「はい、頑張ります」

「でも、なんで主さまの師匠の理論体系なのじゃ? 主さま以外にも弟子がおるのかや?」

「師匠は長年生きているからな。当然弟子はいる。いやいた」

「過去形なのかや?」

「師匠は千年を超えて生きているんだ。弟子はみな死んだと聞いている」


 生きている弟子は俺だけのはずだ。

 もっとも師匠が適当なことを言っているだけの可能性も否定できない。


「じゃあ、なんで、主さまの師匠の理論が使われているのじゃ……?」


 そう言った後に、ハティはハッとする。


「主さまの師匠が、敵になったということなのかや! そうなのじゃ! 元々主さまの師匠と魔導具学部長は同僚! それに主さまの師匠は賢者の学院を創設した初代学院長だったはずなのじゃ。前学院長とも深い関係でもおかしくないのじゃ!」


 ハティは興奮気味に一気に言う。


「ハティ、落ち着け」

「な、なんということなのじゃ。全部、主さまの師匠の差し金だったのじゃ。大変なことなのじゃ」

「まあ、落ち着け」

「落ち着いていられないのじゃ! あわわわわわわ」

「お、おおお、落ち着いてください」


 ハティのあまりの慌てように、ロッテもおろおろしている。


「まあ落ち着け」


 俺は空中でプルプルしているハティを抱きしめた。


「ぬ、主さま? 主さまが師匠と戦うときはハティもついて行くのじゃ。ハティは結構つよいのじゃ」

「そのときは頼む。だが師匠ではないと俺はおもうぞ」

「え? でも、生きている弟子は主さましかおらぬのじゃろ? 主さまの師匠しかいないのじゃ」

「弟子の弟子とか、弟子の弟子の弟子はいるだろ」

「……あ、そっかぁ」


 ハティは落ち着いたようだ。

 ハティは頭が悪いわけではない。むしろいい方だ。

 だが、あわてんぼうなのだ。子供なので仕方がない。


「魔導の理論は師から弟子に受継がれていくものだからな」


 弟子の弟子や、弟子の弟子の弟子ぐらいならば、師匠の理論はかなり正確に受継がれていても自然なことだ。


「安心したのじゃ」

「でも、お師さま。ケイ博士の孫弟子か曾孫弟子の方が、ガラテア帝国にいらっしゃるということですか?」

「可能性はあるな」


 師匠の孫弟子なら、国家機関の魔導具師となっても何もおかしくはない。


「それは、恐ろしいです」


 ガラテア帝国に狙われているラメット王国の王女としては、気になるだろう。


「まあ、確かに恐いよな。だが、師匠も賢者の学院をやめて何かやっているらしいし」


 師匠が何をしているのか本当にわからなかった。

 もしかしたら、孫弟子の魔導具に対しての何らかの対策をしているのかも知れない。


「ケイ博士は、今何をされているのでしょうか?」

「俺にもわからない。だが、ロッテの敵ではないと思うぞ」

「はい。それは信頼しております」

「ロッテを俺に弟子入りさせようとするぐらいだしな。それに師匠はラメット王国の建国王と知り合いなんだろう?」

「はい。建国王の王妃はケイ博士の妹とか」

「あ、それは知っているのか」

「大々的に公開されている情報ではありませんが、ラメット王国の王族は皆知っています」


 王族の中には口の軽いものもいるだろう。

 代々の王族全員が知っているのなら、ラメット王国の上級貴族辺りは皆知っていると考えた方がいいかもしれない。


「ケイ博士は代々の国王陛下の相談役をしてくださっていますから、我が国とは関係は深いのです」

「そうだったのか」


 それなら、師匠も魔導理論の指導もすべきだった。

 なぜ、師匠が付いていながら、ラメット王国は魔導後進国になってしまっているのか。

 あまり干渉しないようにしたいのだろうか。

 師匠がラインフェルデン皇国に居たときも、王宮とは距離を取っていた。


 賢者の学院をラメット王国に作るべきだったのではと思わなくもない。

 だが、恐らくラメット王国に予算がなかったのかもしれない。

 だから同盟国であるラインフェルデン皇国に作ったのだろう。


 とはいえ、その全てはあくまでも俺の推測なのだが。


「師匠のことは、俺たちが考えても仕方ないから、今は魔導具を調査しよう」

「はい!」「わかったのじゃ!」


 特に手伝わないハティも元気に返事をする。

 手伝わなくてもハティは癒しになるので役に立っているのだ。


 調査を進めて、やはり改造部分が師匠の魔導理論に基づいていると確信する。

 それもかなり高い水準だった。


「よし、一通り、調査が終わったから、この魔導具を本来の機能を果たせるようにしようか」

「はい。お手伝いします!」


 俺とロッテは一時間ほど、作業を行なう。

 不要な部品を取り除き、足りない部品を加えていく。

 そして、あっというまに魔導具が完成したのだった。

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[気になる点] 賢者の学院をラメット王国に作るべきだったのではと思わなくもない。  だが、恐らくラメット王国に予算がなかったのかもしれない。  だから同盟国であるラインフェルデン皇国に作ったのだろ…
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