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019 結界発生装置の完成

 結界発生装置の改良案ががまとまったので、ハティに声をかける。


「ハティ。ありがとう。充分だ」

「もういいのかや?」

「ああ。すごく助かった」

「はぁはぁはぁはぁ。久しぶりに体を動かしたのじゃ! やはり気持ちがいいものじゃ」 


 結界の外側に出てきたハティは疲れているが、とても楽しそうだ。


「たまにの運動は体にもよさそうだな」

「主さまも、いっしょに運動するのじゃ!」

「気が向いたらな」


 たまに身体を動かすのはいいと思う。

 王都に住んでいた頃も、真夜中に散歩したことがあった。

 だが、運動は身体にいいとはいえ、激しい運動はあまり好きではない。


「ハティ、ありがとう。好きにしていいよ。俺は少し魔導具を調整するからな」

「わかったのじゃ!」


 俺は結界発生装置を確認し、その場で改良を加えていく。


「……ふんふんふん、…………ふんふんふんふん」


 作業する俺の手元をハティがのぞき込んでくる。

 運動したばかりだからか、鼻息が凄い。

 巨体なので、その風圧が半端ではない。


「ハティ、気になるのか?」

「気になるのじゃ」

「……そうか。見学するのは構わないんだが、もう少し離れてくれるか? 繊細な作業をしているからな」

「わかったのじゃ」


 少し離れたハティに見守られながら、作業を続けた。

 離れたといっても、巨体のハティの強烈な鼻息は飛んでくる。

 冬だから、少し寒い。


「……夏なら涼しいのかもしれないな」

「なんのことじゃ?」

「なんでもない」

 

 俺は結界発生装置を修正し、再び試験をし、修正し、試験をし、と繰り返す。

 ハティの協力もあり、日が沈みかけた頃、ついに結界発生装置が完成した。


「ハティ助かったよ、ついに完成だ」

「凄いのじゃ!」

「ハティのおかげで、試験が一日で終わったよ」

「ハティは、役に立ったかや?」

「すごく役に立ったよ。ありがとう」


 俺が改めてお礼を言うと、ハティは尻尾をぶんぶんと振る。


「ハティも手伝ったその結界発生装置って、どういう機能があるのじゃ? ハティのブレスを外に漏らさないってのはわかるのじゃが」

「そうだな。詳しく説明しようじゃないか」


 手伝ってもらった以上、尋ねられたら丁寧に教えるのは礼儀であろう。


「端的に言うと、衝撃や騒音を含めたあらゆる物を遮断する結界を展開する魔導具ということになる」

「ほうほう? それって凄いのかや?」

「ハティ、鋭いな。それ自体は昔からある」


 古代迷宮の宝物庫などに、使われているものと基本は同じだ。

 凶悪な魔物を封印するのに使われたりすることもある。

 もちろん、今日作った結界発生装置は、耐爆、耐衝撃性能は従来の物とは一線を画してはいるのだが。


「この魔導具の画期的な点はオンオフができることだな」

「それはすごいのかや?」

「従来の結界の魔導具は展開したら破壊するまで、解除できなかったんだ」


 むしろ解除出来ないということが大事だったのだ。

 宝物庫の結界をオフにできるのなら、そこが穴となってしまう。

 それに凶悪な魔物を封じた後、簡単に解除されても困る。


「だが、これは研究室を防護するためのものだからな。任意に作動と解除が簡単にできないと、俺自身も出入りできなくなる」

「それもそうじゃな! すごいのじゃ!」


 この魔導具があれば、要人の寝室の防護などにも使えるだろう。

 内密の会話をするときの防諜という用途にも使える。

 クーデターなどの非常時や、大地震などの災害時の緊急避難部屋としても活用できる。


「…………今度ルトリシアとティル皇子と姉さんにも進呈しておこうかな」


 ティル皇子は可愛い妹ルトリシアの想い人にして婚約者だ。

 それにティル皇子自身も俺を兄のように慕ってくれている可愛い男の子である。

 姉ビルギットにも、色々面倒をかけ、お世話にもなっている。


 父と兄はどうだろうか。

 俺の魔導具作りを快く思っていない二人は、この魔導具をあげて喜んでくれるだろうか。


「……喜んでくれなくても、いざというとき活用してくれればいいか」


 とりあえず、家族とティル皇子に進呈することにした。

 明日、結界発生装置いくつか製作し、明後日、王都に戻ることにしよう。


 本来は師匠にも送るべきなのだが、現住所を教えてもらってないので仕方がない。


「さて、ハティ。お腹空いただろう。ご飯を食べよう」

「やったのじゃ! ハティお腹が空いておったところなのじゃ!」

「とはいえ、今日のご飯も乾燥パンだがな」

「ハティ、乾燥パン大好きなのじゃ!」


 そういって、ハティはしゅるしゅるっと、小さくなった。

 ご飯を食べるときは小さい方が満腹感を得られるのだろう。


 小さくなったハティを肩に乗せて、地下の研究室へと歩き始めた。


 そのとき、沈みつつある太陽が、空を赤く染めていく中、こちらに向かって走ってくる馬車が見えた。

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