167 剣と魔道具の調整
「……魔力が尽きるそのときまで動けるとは、さすがは勇者ラメット直系の子孫であるな」
いつの間にかコラリーとの訓練を終えていたらしいグイド猊下が言う。
その横にいる大王も頷いていた。
先代勇者ラメットも、ロッテ同様に魔力が尽きるその時まで動けたのかもしれない。
「……ロッテは凄い」
大王とグイド猊下の隣で三角座りしていたコラリーが感心している。
「猊下、いつから見ておられたのですか?」
「んー。十分前ぐらいであろうな」
「どう思われましたか?」
あくまでも訓練はおまけ。メインはラメットの剣に施した魔法の試験である。
「申し分ないな。我らの施した魔法は充分に機能しておる。それに王女殿下も上手く使いこなしておった」
「そうですね、私もそう思います。コラリーの魔道具はどうでしたか?」
「良かったぞ」
「……とてもいい。強い魔法が撃てる。障壁も頑丈」
コラリーはふんふんと鼻息荒く、そう言った。
「疲れやすさは?」
「……いつもより疲れないぐらい」
ぐっと魔道具をつけた左腕を前に出す。
「ならば良かった。改善して欲しいところは?」
「……特にない」
「猊下の目から見て、改善すべき点はありませんでしたか?」
「わずかにだが、魔力の流れが滞るところがあってだな」
「それは調整しましょう」
「調整は難しくはあるまいよ。あとは使っているうちに慣れるであろうな」
「……うん、慣れる」
俺は話しながら、ロッテに魔力を与えていく。
「ヴェルナー卿、何をしておるのだ?」
「これですか? 魔力が枯渇したロッテに魔力分けているんですよ」
「……ほう? あ、魔力が枯渇する病を治す魔道具と同じことをしているのか?」
「そうです」
「だが、卿は魔道具を使っていないではないか」
「魔道具がなくても、このくらいはできますよ」
「とても、信じられぬ」
グイド猊下はそう呟いて大王を見る。
「猊下、我ら古竜は魔力の調整は苦手ですから」
「いや、人族はたしかに我らより繊細な調整は得意であろうが、そんなことできるものなのか?」
「実際、ヴェルナー卿がやってみせているのだから、できるのでしょう」
「主さまは凄いのじゃぞ!」
そんな古竜たちが驚いている間に、ロッテに魔力を与え終わる。
「はっ! また気絶してました!」
「おはようロッテ。急に動くな」
「申し訳ありません。魔力を分けてくださったのですね。またご面倒をおかけして……」
「気にするな」
するとグイド猊下が飛んできて、ロッテの額に手を置いた。
ハティに抱っこされていたユルングも、ロッテの頭の上に飛んできた。
ユルングなりに心配しているのかもしれない。
「おお、回復しておる。おお、すごい」「りゃ~」
そして、大王に向かって振り返る。
「ほ、本当に目を覚ましたぞ。この目で見ても信じられぬ」
「人族は……いや、人族でも同じことをできる魔導師はそういないでしょうな」
グイド猊下と大王がボソボソと囁いている。
「人族にはいますよ。数は少ないですが魔法医師と呼ばれる者たちが得意とする施術です」
「お師さま、魔法医師は大陸に数人しかおりませんし。魔力が枯渇する事故や病気の治療は数か月掛けて行なうものですから」
「それは、まあそうなんだが……」
「……ヴェルナーが異常」
コラリーまでそういってうんうんと頷いた。
それを聞いて、
「そうか、異常だったか」
「であろうな」
大王とグイド猊下はほっとした様子で息を吐いた。
その後、俺とグイド猊下は、目を覚ましたロッテからラメットの剣の使い心地を尋ねた。
「とても使いやすいのですが、魔力を流すときに少し抜けるような感覚が」
「ほう? 詳しく聞かせてくれぬか?」「りゃ?」
「はい。こう、魔力を込めたときに――」
ロッテはやはり魔力を察知する感覚が鋭敏らしい。
わずかな魔力効率のロスも感じ取って教えてくれる。
「ヴェルナー卿、再調整だ!」
「はい!」
俺とグイド猊下が訓練場の端で作業を始めようとすると、
「問題が見つかったのに、主さまもじいちゃんも、なんで嬉しそうなのじゃ?」
ハティが尋ねてくる。
「問題が見つかったと言うことは、魔道具を改善できるのだ。嬉しいであろう?」
「わかんないのじゃ! 主さまもそうなのかや?」
「そうだね」
「そっかー」
首をかしげるハティに見守られながら、俺はグイド猊下と一緒に剣と魔道具の調整を進めていく。
「あー、ここの構造で、わずかにロスが発生しているみたいですね」
「完璧だと思ったのだが、やはり実際に使ってみないとわからぬことはあるのう!」
グイド猊下と行なうラメット剣とコラリー用魔道具の調整はとても楽しかった。
それから、ロッテとコラリーの訓練をし、ラメットの剣と魔道具を調整するという日々を過ごした。
ロッテは午前と午後、一日に二回気絶した。
コラリーも魔道具の扱いが上手くなり、ロッテを簡単に追い詰めることができるようになった。
二人とも訓練の合間に、古竜の神官ゲオルグによる回復魔法を受けて肉体の疲労をいやした。
魔力は俺が分け与え、連日、限界まで激しい訓練を続けたのだった。
そんな過酷で、しかしある意味では長閑な日々は二週間後、実家からの緊急連絡で幕を閉じた。





