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166 弟子との訓練

 ハティにユルングを渡した後も、大王は未練たらたらだ。


「……ユルングを頼む。くぅ」

「安心してハティに任せるのじゃ。ユルング可愛いのじゃ」

「りゃ~」


 ユルングを抱っこしてハティは上機嫌に尻尾を振っている。

 そして、大王は今生の別れであるかのように、数回振り返りながら、グイド猊下とコラリーと一緒に移動していった。


「陛下は、よほど、ユルングを抱っこしていたかったのですね」

「年の離れた妹は可愛いからなぁ」


 俺は妹ルトリシアを思い出しながら、ハティに抱っこされたユルングの頭を撫でた。


 ――ドォォォォン


 そしてすぐにコラリーたちがテストを開始した。

 コラリーは魔道具を使って、強烈な攻撃魔法をグイド猊下目がけて放つ。

 その魔法を、グイド猊下はあっさりと障壁で防ぎきった。


「おお、期待通りの威力は出せているな」

「コラリーの魔法、あっさり防がれてますが……」

「そりゃあ、グイド猊下は強い古竜だからな」


 グイド猊下は古竜の長老。

 強力無比な古竜という種族の中でも特に強い古竜なのだ。

 魔法一撃で、倒せるような相手ではない。

 俺やケイ先生でも、魔法一撃で倒すのは非常に難しいだろう。

 防がれるのは当然である。


「今出しているコラリーの攻撃魔法の威力は充分だよ」


 ケイ先生であっても、今のコラリーの攻撃魔法は厄介なはずだ。


「あとの問題は持続力かな?」

「コラリーは私よりずっと強そうです」

「まあ、訓練の密度が違うし」


 コラリーは殺し屋として幼少期からしごかれている。

 脱落すれば死という環境で、徹底的に鍛えられたのだ。

 王女であるロッテの育った環境とは違う。


「ロッテの役割は、コラリーとは違うよ。近接担当と魔法担当は単純には比べられない」

「そうですね」

「それはそれとして、コラリーに負けないぐらい激しい訓練をはじめようか」

「わかりました」


 俺はロッテから距離を取って、ユルングを抱くハティに声をかける。


「ハティ、ユルングのことはお願い」

「わかったのじゃ!」「りゃ~」


 ハティが離れるのを確認してから、

「ロッテ、剣を使って掛かってきなさい。殺す気でな」

「はい!」


 ロッテは一気に間合いを詰めると剣を振り抜く。

 前に訓練したときよりも相当速くなっている。

 シャンタルと前大王との戦いを経て成長したのだろう。


「いい動きだ」

 俺は剣をかわして、攻撃を仕掛ける。

 以前のロッテがぎりぎりかわせたであろうタイミングで魔法を飛ばす。


「しぃっ!」

 息を吐くと同時に、剣で俺の魔法を切り捨てて、再度俺に迫る。

 やはり、以前辛うじてかわせたタイミングは、余裕でかわせるタイミングになっているようだ。


「いいぞ。その調子だ」


 俺は剣をかわし、速度を上げた魔法を撃ち込んだ。

 体勢を崩しながらも、かわしたロッテに、更に魔法を撃ち込んでいく。

 そして徐々に、撃ち込む魔法の速さを上げていく。


 ロッテの訓練は、いかに追い込むかに掛かっている。

 俺は慎重にロッテがかわせるギリギリを見極めながら、速度を上げていった。


 ロッテは息を荒げ、汗だくになり、床を転がりながら魔法をかわす。


「ロッテ、剣を使え」


 俺は魔法攻撃をすこしだけ緩めて、声をかける。


「け、剣ですか」

「ああ。シャンタル戦で結界を剣に纏わせただろう?」

「っ! は、はい。ぃっ!」

 床を転がり、俺の魔法をかわしながら、ロッテは返事をする。


「あれはよかった。そのラメット剣ならば、結界発生装置を使わなくても似たようなことができる筈だ」

「にっ、似たっ、ようっ、なっ? とはっ!」

「前大王にとどめを刺したときと同じだ。魔力を剣に流せ。それで似たことができる」

「はっはい!」


 正確には魔力ではなく、勇者の力、剣を聖剣たらしめる力である。

 だが、ロッテには魔力だと思わせておいた方がいい。


「はあああ!」


 ロッテは俺の攻撃をかわし、剣に勇者の力を纏わせて、攻撃をしかけてくる。

 その剣を俺はかわす。

 勇者の力を纏って聖剣と化した剣を防ぐことは難しい。

 聖剣は、頑強な障壁だろうと容易く切り裂くだろう。


「力を纏うのが速すぎる!」

「はい!」

「当たる瞬間にだけ、力を込めればいい」

「は、はい!」


 俺はロッテの剣をかわしつつ、魔法攻撃を仕掛け続けた。

 ロッテは、俺の指示を聞きながら、急速に強くなっていった。


 訓練を初めて数十分後。


「うおっと」


 突然、ロッテの振るった剣が伸びた。

 かわしきれずに俺の服が切れる。

 ロッテは、込めた力を使って擬似的な刀身を作ったのだ。 


「見事!」

「…………」


 俺は褒めたが、ロッテは立ったまま気絶していた。


「ロッテ。大丈夫なのかや?」「りゃ~」


 ユルングを抱っこしたハティが駆け寄ってくる。


「魔力切れだな。初めてではないし、心配はいらないよ」


 以前も魔力が切れて気絶したことがあった。

 だが、そのとき、ハティは居なかったのだ。

 初めて、立ったまま気絶するロッテを見たら心配にもなるだろう。


 俺はロッテが転倒しないよう優しく床に寝かせる。


「……すー」

 ロッテは静かに寝息を立てていた。

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