表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

165/166

165 訓練場再び

 次の日の朝。起きると、侍従が部屋に朝食を持ってきてくれた。

 朝食をとりおえると、ほぼ同時に小さな姿の大王がやってくる。


「ヴェルナー卿、武器と魔道具の改良を済ませたそうだな。早いではないか」

「ほとんど猊下のお力です」

「謙遜は良い。猊下も褒めておったぞ!」

「ありがとうございます。大王、ご覧になりますか?」

「おお、ぜひ見せてくれ」


 俺は机の上に武器と魔道具を並べる

 俺用の剣とロッテ用のラメットの剣、そしてコラリー用の二つの魔道具だ。


「ほう? ほうほう? 実に素晴らしい」


 大王は満足そうに頷いて尻尾を揺らす。


「どうじゃ? 主さまは凄いであろ!」

 ハティが自慢げに言う。


「ああ、凄いな。テストはこれからとか?」

「はい。今日からテストをして、問題が無ければ終了です」

「問題が無いことと、使いこなせるかどうかは別であろう?」

「もちろんそうですが……」


 すると、大王は嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「ならば、当面の間、王宮で訓練するのが良かろう」

「ありがとうございます。しかし……」

「ヴェルナー卿。本当に遠慮しないでくれ」


 大王はそう言ってくれているとはいえ、あまり長い間逗留したら迷惑になるかもしれない。

 そう思ったのだが、大王は俺の耳に顔を寄せて呟くように言う。


「建前ではないぞ。ヴェルナー卿が帰ってしまえば、娘と妹も一緒に帰ってしまうであろう?」

「それは、まあ、そうなると思います」

「娘の方もいてくれたら嬉しいものだが、それ以上に赤子の妹が帰って行くと寂しくてな」


 そういって大王は笑う。


「とはいえだ。古竜の寿命は長い。赤子の期間も長いし、何か用があれば引き留めはしないが……」

「りゃ~」

 大王は寂しそうにユルングの頭を撫でている。


「何こそこそ話しておるのじゃ!」

「いや、なに。遠慮せずにいくらでも滞在してくれと言っただけのこと」

「そうかや~」


 俺は大王に尋ねる。


「あの、ケイ先生は?」


 昨日、ケイ先生は大王と話があると言っていた。


「ああ、大賢者はお帰りになったぞ」

「そうでしたか」


 きっと、ケイ先生はロッテの武器や戦い方を知ってしまうことのないようにしたのだろう。

 つまり、ケイ先生は本気で自分が大魔王になることを警戒しているということだ。

 今、ケイ先生の本体を保護している封印も万全ではないと言うことなのかも知れなかった。


 俺自身も、本気でケイ先生が大魔王になると考えて、動いた方が良いだろう。


 その後、俺たちは訓練場へと移動した。

 ロッテ、コラリーとユルング、ハティと大王も一緒である。

 大王はユルングを抱っこして、ご機嫌だ。


「ユルングは可愛いなぁ~」

「りゃむ!」

「ユルングはハティが抱っこするのじゃ」

「む? ハティはいつでも抱っこできるであろう?」

「そんなことないのじゃ!」


 父子に取り合いをされているユルングはご機嫌に尻尾を揺らしている。

 最初、俺以外に抱っこされるのを嫌がっていたのに、ユルングも成長したものである。

 古竜は人族より成長が遅いとは言うが、それでも赤子は成長が早い。


 嬉しい気持ちと同時に、少し寂しく感じた。

 そんな思いで歩いている間に、訓練場に到着する。


「待っておったぞ!」

 広い訓練場の中央あたりに、小さなグイド猊下が浮かんでいた。


「お待たせしました」

 グイド猊下の元まで、俺たちは小走りで駆け寄った。


「よいよい」

「猊下、私達のためにありがとうございます」

「……ありがと」

「王女殿下もコラリー殿も、気にしないでくだされ。魔導師として、魔道具師として、とても楽しいゆえな。なあ、ヴェルナー卿」

「そうですね。テストも、煩わしいと言うより楽しいですね」

「うむうむ。ドキドキするしのう!」


 グイド猊下は嬉しそうに尻尾を揺らした。


 それから俺はロッテにラメットの剣を手渡した。


「まずはロッテに。ラメットの剣だ」

「気配が変りましたね」


 一目見てロッテが呟いた。


「見た目ほどには変っておらぬぞ? 多少魔力を通しやすくしているぐらいである」

「改造した魔法陣を、グイド猊下の隠蔽の魔法陣で隠してあるんだ」

「……なるほど」

「魔力の消費量が増えているから疲れやすくなっているから気をつけてな」

「はい」


 ロッテは、少し俺たちから離れて剣を素振りする。


「次はコラリーだ」

「……うん」

「三つの魔法陣を組み合わせた。この部分が魔力を集める機能、ここが出力の増加、そして、ここが障壁を発生させる機構だ」

「……すごい」


 コラリーは目をキラキラさせて、左腕に魔道具を装着する。


「……良い感じ」

「コラリー殿。わしとテストしようではないか」

「……猊下と?」

「うむ。あちらに移動して、わしに向かって思いっきり魔法を撃ち込むが良い」

「……死なない?」

「ふはははは! 頼もしい限り! わしを殺せるならば、想像以上の成果であろう。……だが、殺したら不味いと思って本気を出せなければ困るな」


 そういうとグイド猊下は俺を見て、ハティを見て、最後にユルングを抱く大王を見た。


「陛下。殿下を置いて付いてきてくださらぬか」

「む?」

「コラリー殿の魔法が想像以上に強かったとき、防ぐ役割を持つ者が必要ですからな」

「それはハティでも……」

「いやあ、何事も余裕があった方がよろしいでしょう」

「……やむを……やむを得ないか」


 大王は寂しそうにユルングをハティに手渡した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ