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162 ラメットの剣改

「だが、それをラメットの剣で担っているのは、聖女の付与した奇跡だろう?」

「だからこそです。そこはケイ先生もいじってくるとは思っていませんから」

「ふむ?」

「現状、シャンタルの魔法陣を囲むように、ケイ先生の魔法陣が刻まれています」

「そうであるな」


 シャンタルが刻んだ部分は魔法陣とは異なる。

 魔法ではなく神の奇跡、祝福と言うべきものだからだ。

 だが、面倒なので俺とグイド猊下は、便宜上魔法陣と呼んでいた。


「ケイ先生の魔法陣をいじることで、シャンタルの魔法陣に流れ込むロッテの魔力量を増やせば良いかなと」

「なるほど。聖女の魔法陣自体は変らずとも、流入量が増えれば出力が増えると」

「そうです。ケイ先生の魔法陣の外側に古竜の魔法陣を刻んで頂けば、更に出力を増やすことも可能でしょう」

「……いや、それはしない方が良かろう」


 少し考えて、グイド猊下は首を振った。


「古竜の魔法陣は、いや魔法理論的に魔力量の調節がそもそも得意ではないのだ」

「そうでした」

「古竜の魔法陣には隠蔽の魔法を刻むのはどうだ?」

「隠蔽ですか?」

「うむ。そもそも刻まれた魔法陣のどこが変ったのか大賢者が見てもわからなくすればよい」


 そしてグイド猊下はにやりと笑う。


「古竜は昔から隠蔽が得意なのだ」

「そうなのですか? 隠れるなど古竜のイメージにそぐわないのですが……」

「そうでもないぞ? 小麦やバターなど食材を、我ら古竜は人族の街で手に入れておるのだが、噂になったことはあるか?」

「聞いたことがないですね」


 古竜が街中を歩いていることに気付いたら、騒ぎになる。

 民はともかく、近衛魔導騎士団などの防衛を担う魔導師連中は警戒と万一の対処のために動き出すだろう。


「であろう? 古竜の隠蔽魔法に気付ける人族などおらぬゆえな。それに、この王宮も人族は知らないだろう?」

「たしかに、そうですね」


 古竜の王宮は巨大だが、人族は気付いていない。

 各国の諜報機関も、近衛魔導騎士団のような魔法の専門家集団もだ。

 数千年、いや恐らく数万年前から存在しているというのにである。


「古竜が長年研鑽を重ねた魔法技術の真骨頂は隠蔽魔法にこそあるのだ。見ているとよい」


 そういって、グイド猊下は紙に魔法陣を描いていく。


「お、おお? おお」「りゃ? りゃあ」


 俺は思わず声を出してしまった。

 あまりにも見事な魔法陣だ。

 そのうえ、人族の魔法理論とは全く違う体系だ。


「この魔法陣をどうおもう?」

「見事としか言いようがありません。正直ケイ先生の魔法より上ですね」

「大賢者よりか? そうか?」

「はい。つい先日、ケイ先生が隠蔽魔法を見せてくれたのですが……」


 俺は別の紙に魔法陣を大まかに描いていく。

「ケイ先生が従魔の鳥に持たせた隠蔽用魔道具が使われた際に、私なりに解析したものです」


 ケイ先生の使いでやってきたファルコン号が帰る際に使った魔道具のことだ。


「一回見ただけで、ここまで解析したのか?」

「同門ですから」

「なるほど。体系が同じと言うことだな」


 体系が同じだと構造や理論を見破られやすい。

 だからこそ、古竜の魔法体系を使う必要があるのだ。


「これが、恐らく最新のケイ先生の使う隠蔽魔法です。これを……このようにして魔道具に組み込んで利用しています」

「……これはこれで素晴らしいな。古竜の魔法陣より消費魔力がずっと少ないのに効果はさほど落ちていない」

「はい、ですが、古竜の魔法に比べて隠蔽力は足りません」


 ケイ先生の魔道具はファルコン号というけして小さくない存在をまるごと隠すために作られた。

 それに、ファルコン号以外の人や集団も、魔道具が隠す対象として想定しているはずだ。

 大きな存在を隠すとなると、消費魔力が多くなる。

 だからこそ、消費魔力をおさえることが大事になるのだ。


「今回隠すのは、刀身に書かれた小さな魔法陣だけですから」

「もとよりさほど消費魔力は多くなり得ないか」

「その通りです」

「とりあえず、紙に描いてみよう」

「はい」


 俺とグイド猊下は、改めてラメットの剣に刻まれた魔法陣を写す。

 それからシャンタルの魔法陣とそれを囲むケイ先生の魔法陣の外側に古竜の魔法陣を描いていく。


「ケイ先生の魔法陣はここをいじれば、連携が良くなりそうです」


 いくら優れたケイ先生の魔法陣とはいえ千年前の技術である。

 現在のケイ先生に師事した俺の目から見て改良すべき点がいくつかあった。


「なるほど、ならば古竜の魔法陣もこういじろうか」


 俺とグイド猊下は相談しながら魔法陣を改良し、新たに描き込んでいく。

 時間を忘れて描き込んでいる間、ユルングも真剣な表情でじっと見つめていた。

 ユルングに見守れながら作業を進めて、ついに完成する。


「これで、完璧の筈だが……」

「実際に刻んでみましょう」

「そうだな、こればっかりは実際に刻んでみないことにはな」


 まず、俺がケイ先生の魔法陣をいじっていく。

 それが終わると、古竜の隠蔽魔法陣をグイド猊下が刻んでいった。

 グイド猊下が魔法陣を刻む手法は繊細で、それはもう見事なものだった。


「これでよしと……卿からみてどう思う?」

「目をこらしても魔法陣が全く見えません」

「卿にも見えないならば、安心だな」

「絶対安心とは言えませんが。何しろ相手はケイ先生です」

「…………そうだな」


 グイド猊下は、改造を終えたラメットの剣を鞘に収めた。

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