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013 深夜の来客

 ロッテを送り届けたあと、俺は王都から拠点にゆっくりと歩いて帰る。

 俺は必要が無ければ、基本的に外に出ない。

 とはいえ、外に出ること自体は好きではないが、嫌いというほどではない。


 天気のいい冬の午後を、のんびりと歩く。

 誰にも会わない散歩というのは良いものだ。


 俺は冷たい空気を肺一杯に吸い込みながら、散歩がてら帰宅したのだった。



 五時間かけて拠点へと戻ると、その頃には夕方になっていた。

 門番に臭いと言われたのが気になっていたので風呂に入る。


 そして、一人で乾燥パンをもそもそ食べた。

 相変わらずおいしくない。


 そういえば、ロッテと出会った昨日の夜から夕方まで研究のことを考えていなかった。

 おかげで脳がすっきりしたような気がする。


 風呂にゆっくり浸かるのも気持ちが良かった。

 風呂の中で、良いアイデアも浮かんだ。


「たまに休むのも効果的かも知れないな。これからは休むことも考えよう」


 食事の後、数時間ほど強力な結界づくりについて研究を少し進め、眠りについた。

 眠りの重要性を理解したので、いつものように徹夜することはやめたのだ。


 …………

 ……



 真夜中、俺はコンコンという音で目を覚ました。

 何者かが扉を叩いているらしい。

 その音は弱々しく、風が何かを動かして扉に当たっているのではと思えるほどだ。


「……来客か?」


 俺は扉の元へとゆっくりと向かう。

 近づくと、はっきりと扉が叩かれているということがわかる。


「……こんな時間に、何の用だ?」


 そう呼びかけると、扉を叩く音が一瞬やむ。

 静かになった。


 この拠点に俺がいることを知っているのは、姉とロッテだ。

 そして、二人ともこんな真夜中に来るはずがない。


「用がないなら、俺は寝るが」

「……あけて、……あけて」


 ささやくような声が聞こえる。

 扉の向こうだからよく聞こえないが、女の声だ。


「ロッテか?」

「…………」


 扉の向こうからは返事はない。

 門番に丁重に扱われているようだったが、その後で何かあったのかもしれない。

 それで逃げてきたのなら、保護しなければなるまい。


 もしかしたら、身分証が偽物で、それがばれて逃亡してきたのかも知れない。

 よく考えたら、ロッテはボロボロの恰好をしていた。

 あんなボロボロの服を着た上級貴族などいるわけがないのだ。俺以外。


「まあ、いい。今開ける」


 もちろん、俺は警戒を怠らない。

 強盗団だったら困る。

 爆弾にも攻撃魔法にも対処できるよう心構えをしながら、扉を開けた。


「……誰だ? というか、一体どうした?」


 扉を開けると、そこには真っ赤な鱗を持つ竜がいた。

 誰だと聞いてしまったが、よく見たらわかる。


 昨日、ロッテを襲っていた老竜だ。


「……わらわは昨日助けていただいた竜なのじゃ」

「………………」

「昨日、助けていただいた竜なのじゃ」

「いや聞こえなかったわけじゃないし、それは見たらわかる」


 なぜ昨日の竜がやってきたのか。

 それが問題だ。


「ロッテを襲っていたあの老竜(エルダードラゴン)が、何の用だ?」

「……(ぬし)さまの言葉とはいえ、看過できないのじゃ。わらわは老竜ではないのじゃ」


 竜は自分のことを老竜ではないという。


 老竜というのは竜の種族を表わす言葉ではない。

 成長具合を表わす言葉だ。


 産まれてから数百年しか経っていない竜は幼竜と呼ばれる。

 そして、充分に成長し一人前となると成竜だ。

 成竜が、さらに千年以上を過ごし強大になると老竜と呼ばれるのだ。


 老竜は竜の中でも特に強大。生きる災害とも呼ばれるほどだ。


 そして、目の前の竜は、明らかに老竜級に強い。

 いや、老竜の中でもかなり強い部類だろう。


「俺は主ではない。それはともかく老竜じゃなければ何なんだ?」

「わらわは古竜エンシェント・ドラゴン。わらわに比べたら他の一般竜種などトカゲに羽が生えたようなものじゃ」


 そういって竜は胸を張った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流石に学部長が生徒の親を把握していないのは無能すぎませんかね?親の権限を使わないのが不文律で徹底してるだのだろうけど。
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