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114 朝食

 翌朝。

「主さま、主さま」

「ううむ。ハティか。早いな」

 俺はハティに起こされた。


「昨日の夜に実家について。話をして、すぐ戻ってきたのじゃ」

「お疲れ様だ。ありがとう」

「なんのなんの! 同族であるユルングのためなのじゃし!」


 そして、ハティは俺の背後を見る。


「お! 主さま、コラリーと仲良しじゃな!」

「…………おはよ」


 俺の背中に抱きついていたコラリーがぼそっと返事をした。


「そ、そそそそ」

「そそそ? ロッテか。どうした?」


 ロッテは混乱しているようだ。よくわからないことを口走っている。

 ロッテは昨夜母屋に泊まったのだろう。

 そして帰宅したハティと一緒に研究所に入ってきたらしい。


「お師さま、コラリーさんと、そう言う関係? だったのですね?」

「いや、どういう関係のことかわからんが」

「それは、若い男女が同衾するような関係です!」

「なるほど。だが」


 ロッテが想像していることがわかった。

 だが、それは誤解である。否定したほうが良いだろう。


「だが、ロッテ――」

「いえ! わかってます! お師さまも若い男性。その滾る肉欲を――」

「ちょっと待て、ちょっと待て」

「隠さなくても大丈夫です。私も王族。そのような知識は一通りありますので!」


 王侯貴族ならば、子供を作るのも仕事の内。

 そういう知識は必須である。


「だが、そういうわけではなくてだな。コラリーもちょっと言ってやれ」

「……ヴェルナーは優しかった」

「やっぱり」

「いや、違うぞ?」


 その後、しばらく誤解を解くのに時間を費やした。


「というわけで、そう言う関係になったわけではない」

「そうだったのですね」

「納得してくれてうれしいよ」


 思わぬことに時間を取られてしまった。

 俺がロッテの誤解を解いている間、ハティは朝ご飯を机の上に並べていた。

 どうやら、ハティが母屋から朝ご飯を運んできてくれたらしい。


 みんなで朝ご飯を食べながら、俺はハティに尋ねた。

 今、肝心なことは、ハティと、父親との交渉がどうなったかだ。

 基本的に人族が入れないという古竜の王宮への立ち入り許可を取れたかどうかで今後の方針が変わる。


「それでハティ。話し合いはどうなったんだ?」

「ユルングと主さまはもちろん、速攻許可が下りたのじゃ。主さまはハティの主だし、ユルングは古竜であるからな」

「そうか、それはよかった。ロッテとコラリーは?」

「それは少し話し合った結果、許可が下りたのじゃ」

「おお、それは良かった。許可が下りなくても仕方が無いと思っていたぞ」

「ハティも知らなかったのじゃけど、ちゃんと申請すれば、許可は下りやすいらしいのじゃ。申請する者がいないだけで」

「申請ってどうやるんだ?」

「古竜の紹介状があれば、手続き自体は簡単だったのじゃ」


 古竜の紹介状を手に入れるのが難しい。

 ほぼ全ての人族は無理だろう。


「ロッテとコラリー、どうする? 許可は下りたみたいだが」

「行かせてください!」

「……いく」

「うむうむ。朝ご飯を食べたら早速出発するのじゃ」


 焼いたパンにバターをたっぷり塗ったものを頬張りながらハティが言う。


「ちょっと待て。ハティ、眠くないのか?」


 昨日、こちらを出て寝ずに飛び、古竜の王宮で話し合いをして、寝ずに飛んで戻ってきたのだ。

 恐らくハティは一睡もしていない。


「ハティは古竜ゆえ、数ヶ月寝なくても余裕なのじゃ!」

「それは、そうかもしれないが、休んだ方が良くないか?」」


 古竜は寝ないぐらいでは死なないだろう。

 だが、ハティは毎日寝ている。

 死なないことと、疲れないことはまた別だ。


「余裕なのじゃ。ユルングのためにも、一刻でも早いほうが良いのじゃ。ハティのことは気にしないでよいのじゃ」

「だがな……あ、そうだ。ロッテは一応、王宮の方に報告した方が良いかな」

「わかりました。報告しておきます」


 ロッテは厳重な警護対象である国賓なのだ。

 国外にでるならば、報告しないと大騒ぎになる。


「ということで、ハティ。ロッテの報告が終わるまで待ってくれ」

「わかったのじゃ。仕方の無いことじゃ」

「ファルコン号はどうする?」

「ふぁる~」

「急ぎではないのなら、俺たちが出て行った後も自由に休んでいって欲しいが」

「ふぁる!」


 ファルコン号が何を言っているのかはわからないが、きっと俺が何を言っているのかは伝わっているはずだ。


 朝食を食べた後、ロッテは王宮へと戻っていった。

 そして、俺はハティを寝かしつける。


「今のうちに眠っておきなさい」

「ハティは子供じゃないから、寝なくても大丈夫なのじゃが……」

「念のためだ」


 ハティとユルングをベッドに入れて、優しく撫でる。

 そうしていると、ハティとユルングは、すうすうと気持ちよさそうな寝息をたてはじめた。

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