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「今日はすごく冷えるね。」


「そうね。あ、ラジオつけておいて。」


僕の妻はいつもラジオを聴きながら眠りにつくのが日課だ。


僕は厚手の靴下を履いてから妻に頼まれたラジオをつけにいく。


「ん?いつもつけるだけで繋がるようにしてるんだけどな…。」


なぜかうまく繋がらないので仕方なく周波数をいじってどこかの放送に繋がるようにするけれど、なかなか繋がらない。


こんなこと初めてかもしれないな。


[May happiness come to everyone who listens.

皆さんこんばんわ。明日のクリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]


ネイティブな発音で幸せを願うラジオの放送が聞こえはじめる。


まあ、いつものとは違うけどたまにはいいよな。


僕も妻がいるベッドに入り、温まる。


「ありがとう。おやすみ。」


「おやすみ。」


妻はお礼を言うと目を瞑った。


僕の妻は毎日思い出を見失ってしまう病気を持っている。

最近物忘れがひどくなったなと思ったけれど、病だとは知らなかった。


日が経つ事にどんどん僕や子どもたちのことを忘れてしまい、今日は子どもたちの名前を間違えてしまった。


子どもたちは笑顔で妻の発言を訂正して最後にはいつも大丈夫と言う。


しかし、妻がいない部屋で2人は涙を流していた。


ごめんな、寂しい想いをさせて。

でも僕の妻はお前たちのことを忘れてるわけじゃないんだ。

ちゃんと心の中にお前たちがいるから幸せそうに笑うんだ。


けれど、いつか子どもたちのことも僕のことも忘れてしまう日がきてしまうのかもしれない。


だから、僕はいつも天に願うんだ。

妻が思い出を思い出すきっかけをたくさんくださいって。


でもなかなかうまくいかないんだよな、現実って。


僕は妻のすやすやと寝息を立て始めた顔を見る。


もう寝てしまったのか…。


君はずっとここにいてね。

たくさんの思い出が詰まったこの家に。

そうしたら僕たちのことを絶対に忘れない。


雲を触るかのように優しく妻の顔に触れる。


[では、次の曲、White christmas。あなたに幸多からんことを。]


可愛らしい伴奏が流れ始めた。


White christmasか。

この曲はとても思入れがある曲だ。


僕とこの曲はあまり会うことがなかったんだ。

たまにすれ違ったりしたんだろうけど、僕が気づかなかったんだろうな。


僕が認識している出会いは妻との初デートの時だ。

あの日はとてもよく晴れていた。

外でラジオのクリスマスメドレーを流し、ホットラテを飲みながら夜空を見てた。

せっかくならホワイトクリスマスにならないかなと思ったら、本当に雪が降ってきた。


あの時、妻は目を輝かせて喜んでくれたな。


次は僕が妻にプロポーズした日。

レストランでご飯を食べた後、近くでたまたまやっていたクリスマスマーケットに行ったときに聞いた。

本当はレストランで指輪を渡そうと思っていたんだけど、どうしても勇気が出なかったんだ。

誰か僕に勇気を分けてくれ、と念じたら僕のまつげに雪が落ちてきたんだ。

その雪で何故か急に勇気が湧いて妻にプローポーズした。


結果は僕と彼女の今の関係を見てもらえれればわかるよね。


次に聞いたのは、上の子どもが産まれるとき。

ハロウィンが終わったばかりなのに先取りしすぎの病院がクリスマスマスの曲をずっと流していたんだ。

きっと、季節外れの雪のせいかもしれない。

これはだいぶ長丁場かもと先生に言われて妻が精神的に弱っていたときに、なるべく妻も子供も負担が軽くなりますようにとずっと心の中で願っていた。

すると、すぽん!と上の子は生まれてきた。


先生も僕もとてもびっくりしたな。


最後に聞いたのは下の子どもが僕たちとはぐれてしまった時だ。

僕たちは一生懸命探していたんだけど全く見つからなくて警察に連絡するか迷っていた。

無事でいてほしい、それしか思っていなかった。

だけどその想いと裏腹に雪が降ってくる。

しかし、迷子案内所にサンタの格好をした人が僕たちの子どもを抱えて来てくれた。


こじつけかもしれないけどいつもこの曲が流れていたんだよな。


そしていつも雪が降っていた。


「妻の思い出がこれ以上、こぼれ落ちないようにしてほしいな。」


妻の耳元で起こさないように僕は囁いた。


今日はまだ雪は降っていない。


だけどいつもより寒い寝室。


きっと僕を見てくれている神様は雪を降らせてくれるだろう。


僕は目を瞑る前にもう一度妻の顔を見る。

妻はあの時と同じ幸せそうな顔をしていた。


ほら、叶えてくれた。


妻におやすみのキスをして僕も眠りについた。




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