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you are guilty !

作者: 雨上鴉
掲載日:2020/07/21

4年くらい前に書いたものが出てきたので、もったいない精神で上げました

君は『不思議の国のアリス』という童話を、ご存じだろうか。

少女がウサギを追いかけた先で不思議な冒険をする、というあの童話だ。まぁ、読んだことはなくとも、存在くらいは知っているだろう?

何でこんなことを突然聞くのか、って?

信じてもらえないだろうが、俺は一度、その不思議な不思議なアリスの世界に、行ったことがあるんだ。……おいそこ、暑さで頭がおかしくなったんじゃねーかみたいな目で見んな。俺だっていまだに、あれが本当のことだったのか信じられないんだから。……まぁ、別に信じてもらえなくてもいい。なんとなく、誰かに話したかっただけだから。暇つぶし程度に、付き合ってくれよ?


えーこんにちは。全国の老若男女のみなさん。テスト期間が終わって、家でゴロゴロしていたはずの高校二年生男子です。名を一条ユウと申しまして、先ほどオンラインシューテイングゲームで全国一位に昇格いたしました。ええ、ええ。最近の技術はすごいですね。さっきまで自分の部屋にいたのに、一位になった途端、ゲームのダンジョン的な所に飛ばされるだなんて。

……なんて、現実逃避している場合じゃねーな。

「ここ、どこだよ!」

俺の渾身のツッコミに、答えてくれる人がいるわけもなく。取りあえず、歩き出してみる。

歩き出してみるといっても、周りは木、木、木。皆様ご察しの通り、森です。時たま獣の声がします。わーお、こわーい。俺今、所持品ペン二本とシャーペンの芯だけだぜ⁉目の前に獣が出てきても、選択肢食われる一択だからね⁉

ここはとりあえず、何かイベントが起きるまで歩いてみるか。ほら、よくあるだろ?歩いていたら、茂みからモンスターが現れた!みたいなイベント。今この状況で、そんなこと起きたら確実に死ぬけどな!

さっきまでゲームの中にでも入ったかと思っていたが、俺がやっていたゲームはこんな森の中ではなかった。廃墟の中でゾンビを撃ちまくりながら進む、よくあるシューティングゲームだ。間違ってもこんな森のステージなんか存在しない。

なら、ここは一体どこなのだろうか?

「……しっかし。ずいぶん深い森だな」

歩き出してから結構時間がたっているが、一向に出口には着きそうにない。むしろ、どんどん奥に入っているような気さえする。雨があがった後なのか、地面は湿っていて、湿度の高さが気持ち悪い。変な植物が繁茂していて、下手なホラーゲームより不気味だ。例をあげると、見た目きれいな花だけど、蝶が近づいた瞬間、花びらが閉じて蝶を食べるとか。あの花びら、歯がついてねぇか⁉しかも、食われたはずの蝶が花の軸を食い破って復活したし。なんだよ、食虫植物すら敵じゃないのかこの世界の蝶は。食物連鎖に抗うなよ恐ろしい。試しに持っていたシャーペンの芯を一本出して花の上に落してみた。案の定、その花は芯を食べた。……あ、でも萎びてきたぞ?なるほど、こいつらは炭素に弱いのな。……一体どうやって光合成してんだよ。

そんなこんなで実験をしつつ歩いていると、不思議な木を発見した。この世界において今更何見たって驚かないんだけどな。

その木には、果物ではなくリボンがたくさんなっていた。色が全部同じだったから、意図的なものではなく自然にできたものだろう。なんとまぁメルヘンな。女子なら喜んだだろうが、生憎俺は男だ。残念だったな、リボンの木!

「……あれ、これだけ色が違う」

たくさんなっているリボンのうち、一本だけ周りと違う色があった。

ネイビーブルー。水兵の青といわれるその色は、なんだか懐かしい気がした。

「んー……。これって、ゲームでいう拾っとかなきゃいけないアイテムなんだろうな」

わざわざご丁寧に目立つようになっていたのだから、取っておけということなのだろう。女の子みたいなアイテムなのは気に食わんが、一応ポケットに突っ込んでおく。ついでに、いっぱいなっていた赤色のリボンと、隣に植わっていた白いリボンもポケットに突っ込む。……ん?なんかこの色の組み合わせ、見たことあるような?

「どこで見たんだっけなー……」

「やぁやぁ、ずいぶん遅かったじゃないか、アリス」

「はい?……ってうわぁぁぁぁぁ⁉」

「ちょ、うるさいってば。頭に響くからやめてくれないかい?」

「いや、え、え?」

俺が思考に浸っていると、突然真上から声がした。まぁ百歩譲って、木の上に誰かいるのは許そう。このリボンの木やたら繁茂していて上のほう全然見えないから、気付かなかったのもうなづける範囲だ。……けど、いくらゲームで人の首ぶっ飛ばしてるからって、いきなり生首の状態で喋る女の子が現れたら。誰だって叫ぶよな?

「驚かせてしまってすまないな。あんまりに君が遅いから、退屈していたんだよ。いやーしっかし、傑作だな。アリスの驚いた顔は!」

女の子はくつくつと笑いながら、木の上から降りてきた。降りてくる頃には、ちゃんと胴体まで現れた状態だった。……ん?この登場の仕方は。

「……チシャ猫?」

そう。彼女の登場の仕方は、あの有名な童話『不思議の国のアリス』のチシャ猫そのものだったのだ。冷静になってみてみると、彼女の格好も何となくそれっぽい。某ネズミの王様がいる遊園地で売り出したら、すぐに売れそうだな。……って、問題はそこじゃねーよ。

「……これは驚いたね。一目でボクがチシャ猫だって分かるだなんて。今回の『アリス』は、ずいぶんと優秀なようだ」

彼女――チシャ猫はその猫のように大きな目をさらに大きくして驚いた様子だ。

「改めて不思議の国へようこそ、アリス。ボクはチシャ猫!ここの案内人だよ。……といっても、ボクは気まぐれだから、実際に案内するかは別だけど」

「それ職務放棄だろおい」

「えーだって、他の『アリス』達はみーんなつまらなさそうだったからさ。案内するまでもないなーって。君はだから、ラッキーボーイだね!このボクが自ら君を案内してあげよう!」

「あ、めんどくさそうなんでいいです。お断りします」

「うわー君正直だねぇ」

そりゃ誰だってそうだろう。見知らぬ土地でやっと会った人間(?)が生首で挨拶してくるコスプレ少女だったら、泣いて逃げ出す。少なくとも、俺は今この場から逃げたい。五十メートル走女子よりも遅いけど。

「……ひとつ、聞いていいか?」

「ン?なんだい」

「俺、アリスなの⁉男なのに⁉」

「突っ込むところそこかい⁉……あー。うん。それは今から詳しく説明してくれる人のところに行くから、そこで聞いてくれ」

なんだよ、案内人とか言っておきながら説明してくれないのかよ。

「君今若干失礼なこと思わなかったかい?」

「いや、何にも考えてないけど?」

あっぶねー。こいつどんだけ勘が鋭いんだよ。あれか、チシャ猫だからか?

「……まぁいいや。案内するから着いて来てよ」

スタスタと歩いて行くチシャ猫に、慌てて着いて行った。


チシャ猫に案内されて連れてこられた場所は、キノコの森だった。うわー。食べ物にあるまじき色してるんだけど、このきのこ類。一応(チシャ猫曰く)全部食べられるらしいけど、好き好んで食いたいとは思わねーなこれ。

「……で、説明してくれるって人は、どこにいるんだ?」

「確か今の時間なら……。あ、いたいた!おーい!」

チシャ猫は手を振りながら走って行った。……これ、追いかけるべきだよな?さっきから思ってたけど、こいつどんだけ体力あるんだ。ここに来るまでに結構歩いてたし、俺にあった時は木の上だったから、かなり動いているはずなんだけど。俺ももう歳かねぇ。高校生が言うセリフじゃないけどな!

「はっかせー!新しいアリス連れてきましたー」

「はかせ……?」

はかせなんて、不思議の国に出てきたっけ?

俺が不思議に思っていると、そいつは現れた。丸い塊が連なったその影は……。

「って、芋虫かい!」

はかせ、と呼ばれたそいつは、原作にも登場する芋虫だった。なんかよく分からない煙を吸ったり吐いたりしているところも、原作のままだ。……こんなにふざけた顔をしていなければだがな。

「いきなりやってきて芋虫呼ばわりとは、失礼な『アリス』よの。なぁ、チシャ猫?」

「全くその通りだよはかせ!」

「はかせって単語から、あんたを想像できなかったからだよ。不可抗力ってやつだ、悪気はない」

だって、想像できるか?丸い塊が連なった独特のフォルムに、びっくり箱の中身みたいな顔をした芋虫がはかせとか。まず、芋虫なのかすら怪しい。

「……で?チシャ猫にここまで連れてきてもらったんだが、大体のことはあんたに聞けばいいのか?」

「ああ、そうさな。ここではかせと呼ばれているくらいには、私は博識だからの」

見た目はすごい馬鹿そうだがな。

「早速じゃが、大まかに説明をしてやろう。ほれ、そこのキノコにでも座るがよかろう」

芋虫……じゃなかった、はかせはキセルで、そこに生えていた美味しくなさそうなキノコを指した。……案外、座り心地は悪くないのな。隣にはチシャ猫が座った。はかせはというと、俺たちが座っているキノコよりも大きいキノコに落ち着いた。おい、なんでお立ち台ポジションなんだよ。

「まず、この場所について教えておこうかの。ここは、少年の世界では『不思議の国のアリス』と呼ばれている童話がベースになった世界じゃ。あくまでもベースじゃから、実際の童話のようにはいかない部分もあるがの」

ああ、なるほど。それで男の俺が『アリス』なのか。ここじゃ童話のアリスとは、登場人物の性別が逆転しているんだ。チシャ猫がこいつなのも頷ける。

「で、なんでおぬしがここにやってきたかというと」

「いうと?」

「まぁ深い意味はない」

俺はその言葉に、思わずキノコから転がり落ちそうになった。

「意味はないのかよ⁉」

「正確に言うと、少年でなければならなかった、という理由はないということじゃ。ここでは『アリス』がいなくなる度に、どこからか新しい『アリス』がランダムに選ばれてやってくるのじゃ。基準は流石に私も知らぬ。お前さんの運命だったということじゃろうて」

うわー。すっごいありがたくない運命だな。

「……で?どうすれば俺はもとの場所に帰れるんだ?さっさと次のゲームを攻略したいんだけど」

「君はいつでもマイペースだな」

隣のチシャ猫から、冷たい視線が向けられている気がするがそこはあえて気にしない。気にしたら負けだ。

「帰る方法は単純じゃ。この世界のどこかにいる『有罪者(ギルティ)』を見つければいい」

『有罪者(ギルティ)』?

「ここに新しい『アリス』を連れてきている原因を突き止めろ、ということじゃ」

「え、ここに意図的に俺を連れてきたやつがいるのか?」

「どうやらそのようじゃ。全く。迷惑なものよの」

その言葉には全力で同意する。こちとら忙しいんだ。

「君が忙しいのはゲーム、とやらだろう?話から察するに、重要なものではないな?」

なんでチシャ猫はそんなこと分かるんだよ。お前ゲームやったことあんのか?ここじゃそういうの、なさそうだけど。

「やったことはおろか、どんなものかすら知らないさ。けれどまぁ、本当に重要なものなら、君はもっと取り乱しているはずだ」

……こいつ、なんでこんなに察しがいいんだよ。原作のチシャ猫だってこんなに頭脳明晰じゃないだろ。

「……どうやら、今回の『アリス』はチシャ猫と相性がいいようじゃな。うんうん、よきかなよきかな」

「え、これ相性いいの?」

「はかせが言うんだからそうなんじゃないのか?」

ああはいはい、はかせのいうことは絶対なのな。

「そんな今回の『アリス』に、プレゼントをやろう。ふむ……君にはこれがよかろう」

はかせはそういうと、持っていたキセルを加えてフゥーと煙を吐いた。うわ、こっちくんな煙たい!

「ゲッホゲホ!なんだこれ煙たい!……ん?」

煙が消えていくと、俺の手にはいつの間にか二丁の形の違う拳銃が握られていた。……プレゼントってこれのこと?

「木目がある方がゴム銃、黒い方が麻酔銃じゃ。この世界では『君主』以外が殺生をすると犯罪になるからなぁ。それが丁度よかろうて」

ああ、その辺は俺のいたところと一緒なんだな。にしても銃か……まさしく俺にぴったりじゃねーか。シューティングゲーム全国一位の腕前舐めんなよ!……まぁ尤も、これを使うような状況にならないのが一番だけどな。

「取りあえずは、君の知っている童話の通りに動くのが良いな」

「ということは、ウサギを探さなきゃいけないのか」

「ウサギなら、今日はお城に呼ばれてるって言っていたぞ。あっちじゃないか?」

チシャ猫が指さしたのは、キノコの森の向こう。何も見えないけど、多分道があるんだろう。聡明なチシャ猫のいうことだし。

「それじゃあ、一緒に行こうか。ボクがいた方が安心だろう?」

「……着いてきてくれるのか?」

「君はなかなか面白そうだしな。はかせもボクと君が一緒にいた方がいいと言っているし」

……着いてきてくれるのはありがたいんだけど、そのはかせ厨はどうにかならないのか?


「おっかしいなぁ……。お城に行くなら、この道を通ると思ったんだが……」

歩き出して一時間。ウサギに一切遭遇しない!こんなところで童話との違い出さんでいいわ!流石のチシャ猫も困り顔だし。

「まぁ、しょうがない。どっかで会えるだろ」

「……君本当にマイペースだなぁ。歴代の『アリス』は、もっと切羽詰まっていたぞ?」

「焦ったって仕方ないしな。こういう時こそ冷静でいないと何かあったときに困るし」

自分が遭遇したことのない状況に立たされたら、取りあえず冷静になれってじっちゃが言ってた。多分。というよりも、普段からあんまり表情筋が仕事してくれないのと、驚きに体制があるせいで、焦ってないだけだと思うんだがな。俺を驚かせたいのなら、地球上で最も不可思議な生物であるうちの兄を呼んで来い。

「はは、頼もしい奴だなぁ。……お。なぁアリス。君のいた世界の童話では、マッドハッターは出てくるのかい?」

「マッドハッター?」

「帽子屋、の方が通じるか?ここではそう呼んでる」

ああ、帽子屋ね。某ハリウッドスターが演じて話題になったあのキャラか。……俺の記憶が正しければ、変人キャラのはずだ。童話アリスに、まともな奴がいたかどうかの方が怪しいけど。

「一応出てくるけど……」

「なら、先にそちらにいこう。丁度見えてるあの家が、マッドハッターの家なんだ」

チシャ猫が指さす先には、そこそこ大きさのある家が建っていた。マッドハッターらしく、屋根の上に大きな帽子が乗っている。庭からはお茶会の途中なのか、にぎやかな声と紅茶のにおいがした。

「おーい、マッドハッター!新しい『アリス』を連れてきたぞー」

チシャ猫が許可を取るまでもなく、ズンズンと庭に入っていく。どうでもいいけどこれ不法侵入じゃないのか?

「ここじゃ殺生と『君主』に逆らうこと以外は、何をやっても罰せられないんだよ」

何それ怖い。そんなとこ住みたくないわ。

「おお、誰かと思ったらチシャ猫じゃない。久しぶりねぇ」

童話のお茶会のように。秩序なくカップが飛んだり跳ねたりしてる……かと思いきや、普通に主婦のお茶会のような落ち着いた場所だった。これほんとに帽子屋かよ。ただの主婦にしか見えん。あ、この世界の帽子屋は女性のようです。なんてこった。

「で、横にいるのが今回の『アリス』?あら、随分きれいな子ねぇ。美味しそう」

前言撤回、やっぱこいつ帽子屋だ。

「悪いが今回の『アリス』はボクのだ。君にはやらん」

いや俺は誰のでもねぇよ。……ん?今回の『アリス』は?

「ここに来る『アリス』の相棒は、毎回変わるんだ。今回はボクだったけど、マッドハッターを相棒にする『アリス』もいる」

ああ、そういうことなのね。帽子屋を相棒にするとか、かなり変わり者だと思うけど。

「そうでもないわよ。女の子の『アリス』は、私を選ぶことが多いし。誰が合うかはその人その人によって違うでしょう?」

帽子屋がカップに紅茶の追加を注ぎながら言った。この会話の間に早くも紅茶三杯目とか、どれだけ飲むんだよ。

「この世界でマッドハッターのような大人の女性は珍しいからな。頼りやすいのだろうよ。……ところで、マッドハッター。時計の方のウサギを見なかったかい?」

「時計の方のウサギ?……ああ、あの子のことね。それならそこの椅子に座ってるわよ?」

「「え?」」

「ひぃ⁉」

帽子屋の指さした方を向くと。白いうさぎの耳が生えた女の子が座っていた。……すごいビビってるけど、大丈夫か?

「ま、マッドハッターさぁぁぁん~!急にこっちに話しかけないで下さい~!」

「いやー。この子達がいつになったら気づくかなーって思ってたんだけど、なかなか気づかないからさ」

「ウサギの姿のままを想定して探してたからな……。君がその姿なのは珍しい」

「え、いつもは人間の姿じゃないのか?」

「ああ、いつもはな。ウサギは魔法が使えるから、どっちにでもなれるんだ」

何それすごい。

「ところでウサギ。君お城に行くんじゃなかったのか?」

「それが、行ったら『君主』はお取込み中だ、と言われまして……」

呼び出しておいて失礼な奴だな。

「アリス、『君主』についてあまり悪いことは言わない方がいいぞ。うっかり死刑になったら大変だからな」

「うぇ、物騒だな」

「今日も死刑が決行されるらしいしねぇ。最近特に多いわよね」

日常的に死刑か……この辺は原作通りといえば通りだな。

『君主』が横暴というのは、物語的に使いやすいのかもしれないな。こう、分かりやすく悪役にできる的な意味で。

「今日の死刑決行は二時からのはずなので、そろそろラッパが……あ、鳴りましたね」

え、待って何にも聞こえないけど。

「ウサギの耳はよく聞こえるからな。ここからでも聞こえるんだろう。……ところでアリス。これからどうするんだい?」

「あー……どうしようか。原作の童話をあんまり知らないんだよなぁ……」

俺の中の不思議の国のアリスといえば、ウサギ現る→追いかける→ウサギ逃げる→追いかける、の工程が繰り返されるイメージしかない。ウサギが捕まえられた時点で、もうやることない気がするんだけど。

「あら、なら私に付き合ってくれる?丁度いい感じの布が手に入ったから、何か作りたいのよ」

「え、ここで突然の洋裁教室?」

「いや、ただの着せ替え遊び」

「何それ超乙女」

女の子って好きな子多いよな、着せ替えとかままごととか。まぁ帽子屋を女の子の括りに入れていいかは謎だけど。パッと見二十代後半だろうし。

「……帽子屋っていうくらいだから、帽子を作るのか?」

「帽子も作れるけれど、服を作る方が好きね。君は中々作り甲斐がありそう」

……それは暗に、今の格好がダサいと言いたいのか。悪かったな、ただの学ランで。学校から帰ってから着替えるのが面倒だったんだよ。

「別に今の格好が悪いわけではないわよ?ただ、あなたが着せ替えの素材として良いってだけ」

……それはそれでどうなんだ?帽子屋に言われてもあんまり嬉しくないような。

「マッドハッターは、この世界の服のほとんどを作ってるんだ。ボクが今着ている服も、彼女の手作りだよ」

へー……そうなのか。この面妖な服を、ねぇ……。

「君若干失礼なことを考えなかったかい?」

「んなわけないだろ。……で、これからどうするか考えないとだな……」

ここで俺の普段の行いが裏目に出るとはな……。アリスぐらい読んどきゃよかった。

「はかせ、が言うには『有罪者(ギルティ)』を探さなきゃ帰れないんだよな?だったら、本来の童話に出てくる登場人物全てに会ってみないといけないのか……」

「誰かいたのか君覚えてるのかい?」

「いーや、全く」

「うーん、だろうな!」

チシャ猫が予想通りだとうなづく。……ホントに読んだことがないんだからしょうがないだろ。

「チシャ猫、帽子屋、ウサギ、トランプ兵、女王、はかせ……じゃなかった芋虫は見た覚えがあるんだけど、それ以外は正直分からん」

正しくは、登場人物としてカウントしていいのか分からないものを除いたら、だけどな。喋るドアとか歌う花とかは、人物にカウントするのかどうか分かんないし。

「トランプ兵は分かるとして、女王?君の世界の童話じゃ『君主』は女性なのかい?」

「あー……そっか、その辺も違うのか。俺の知ってるアリスとは、ホント逆なんだな」

「そのようだね。……ということは、トランプ兵たちもみんな男なのかい?」

「確かそうだったと思うぞ。あいつらに性別があったならな」

アニメの方では男の人の声だったはずだから、男なんだと思うんだけど。これで女でしたとか言われた方が怖い。

「うーん……ちょっと危ないような気もするけど、『君主』のところに行ってみるかい?死刑決行が終わったから、今から庭で何か遊戯をするはずだよ」

「お城の方がにぎやかなので、そうだと思いますー。……この音は、多分ゴルフですね」

ホントウサギの耳はすごい聞こえるんだな。これ夜音が気になって寝れないんじゃ……あ、耳栓すればいいか。

「じゃあ、サクッと行ってみようか。お城」

「うえー。とてつもなくメンドクサそう」

「まぁまぁ、私たちもついて行ってあげるから。ね、ウサギ?」

「ふぇ?あ、はい!」

……なんだろ、このRPGパーティー感は。人数が大いに越したことはないだろうけどさ。

「RPG?がなんなのかは知らないけど、結構動植物があらぶっているゾーンを突っ切るから、二人がいるのはかなりありがたいことだよ、アリス」

動植物が荒ぶるってなんだよ⁉


「……本当にめっちゃ動いているんだな、こいつら」

現在地、森の中!最初にいたとこよりもさらに湿気ている気がする。これはひどい。草とか木とかが、予想しないとこから動いてくるし。なんなんだよお前らは。動いてないと死ぬのか?マグロかなんかなのか?

「……この辺は通るの、すごいめんどくさいんだ」

そうは言いながらも、チシャ猫は湿った地面なんてものともせずに歩く。時々滑りやすそうなところなどを教えてもらいつつ、お城を目指す。……これで俺がかっこいい勇者とかなら、完全にRPGなんだがなぁ。

「……どうやら、花は寝てるみたいだね。今のうちに突っ切ろう」

チシャ猫の目線の先には、人間のように身体(茎)を倒して寝ているらしい植物が見えた。めちゃくちゃ人間っぽい寝方してるな。流石不思議の国の植物。寝方すら普通じゃだめらしい。

「アリスが通ってきたときにも、ところどころに咲いてただろう?ここにいるのは、あれをもうちょっと凶暴にしたやつだよ」

なにそれ怖い。

「起きてる時に遭遇すると、襲ってくるんだ。全く、厄介なことこの上ないよ。……殺生禁止じゃなかったら、燃やしてやりたい」

チシャ猫が若干イライラした様子でそう言った。どんだけ嫌いなんだ……。いや、まぁ俺だって自分に危害を加える花なんてあえて好まないけど。

「きゃ⁉」

「!大丈夫か?」

進んでいたら、後ろにいたウサギがこけた。ギャグマンガもびっくりな勢いで。わー、きれいなスライディングー。

「君ほんとマイペースだな⁉」

ほら、焦ってもしょうがないってじっちゃが言ってた。

「それさっきも言ってなかったかい?」

「そんな気がする。……で、これどうしたらいいんだ?」

この会話からは全く危機感が感じられないだろうが、現在とてもピンチな状況に陥っている。

簡潔に言おう。花がお目覚めだ(しかも、予想以上に荒ぶっていらっしゃる)。どうやらウサギがこけて突っ込んでいく途中で、花の茎かなんかを踏んだらしい。さっきから花とは思えない奇声が聞こえる。寝てる時は割と綺麗だったのになー。

「こんな状況でも一切取り乱さないのは、アリスの利点だね。ボク的には、多少焦ってくれた方が危機感が出たけど」

「なんかごめん」

正直俺自身も、なんでこんなに冷静なのか知りたい。あれか、人間あんまりにも焦ると、一週回って落ち着くのか。

「そこの二人!話してないで加勢してくれる⁉」

現実逃避してたら、花と格闘中のマッドハッターに怒られた。いや、だって加勢する間もなくガンガン花倒しまくってるから、いらないかなって。マッドハッターが持ってるの、でっかい針だよな?普通あんな殺傷能力ないはずなんだけど。

「流石に私一人でこの量は無理よ⁉ほら、ウサギも早く復活してちょうだい!」

「は、はいぃぃぃ!頑張りますううう」

スライディングから何とか復活したウサギが、頭に葉っぱとかいろいろついたまま出てきた。どこまで飛んで行ったんだ。

「はぁ……。こうなったら仕方ない。この際だから、この辺一帯の花を殲滅してやろう、アリス」

「殺生禁止じゃなかったっけ?」

「向こうから来た分には別なんだ。だから、いい機会じゃないかな。みんなが安心して通れる道を作ろう」

チシャ猫の言い方だとかっこいいけど、要は近所の草抜きボランティアだよな、これ……。

「アリス、さっきはかせから、麻酔銃とかゴム銃を貰っていたよね?あれでどうにかできるかい?」

「……大丈夫。銃の腕には自信がある」

なんたって、シューティング全国一位ですから。まぁ今回は、向こうからの攻撃もあるから、何とも言えないけどな。

「はは、そいつは頼もしい。……それじゃあ、ボクの後ろは任せたよ」

チシャ猫はそう言って笑うと、花の大群の中に突っ込んでいった。手には二本の短剣。あれが彼女の武器らしい。あの図体で、バカでかい剣とか持ってたら驚くけどさ。

「チシャ猫さんは、この世界でもトップクラスの強さなんです。あの方がいるなら安心ですよ」

いつの間にか、隣にウサギが来ていた。その手には、きらきら光る赤い石のついた指輪。

「それは?」

「マジックアイテムです。これをこうして……えいっ」

ウサギは指輪の台座の部分を回転させると、そのまま花がいる方に向ける。

「凍っちゃえ!」

ウサギが言った瞬間、石が青色に変わって、光が放たれた。

光はそのまま花に向かっていくと、花を巻き込んで凍った。

……うん。やってることはすごいんだけど、呪文とかそういう感じのあれはないのな。

「……俺も働くかな」

見ると、チシャ猫が結構な数の花に囲まれていた。なんで植物なのに移動するのかはこの際おいておく。はかせに貰った銃を出す。……取りあえずゴム銃の方でいいか。これ、どのくらい火力あるんだろ。丁度チシャ猫の後ろに花が来ているので、撃ってみる。

パンッ!

……ゴム銃だからそんなに大した威力じゃないかなー、とか思ってた俺がバカでした。下手したら鉛玉より殺傷力ないか、これ。こんなに勢いあるなら先に言っとけよはかせ。ウッカリ貫通してチシャ猫にあたるわ。

俺はチシャ猫に任せられた通り、チシャ猫の動くのに邪魔になりそうなやつらを片っ端から撃っていく。どうやらこの銃、撃ちまくっても弾が減らないらしい。なんて便利な。

「にしても、動きすぎだろチシャ猫……」

同じように剣……じゃなかった、針を振り回しているマッドハッターよりも、何倍も動いてるし、速い。間違って撃ってしまいそうで怖いんだが。そんなヘマはしないけど。

「……あらかた殲滅完了、ってとこかしら」

それから数分後。俺たちに向かってくる奴らはサクッと処理できた。勝手に自分から逃げて行った奴らは放っておく。追いかけても意味ないしな。

「お疲れさまー。……チシャ猫、すごいことになってるぞ」

「しょうがないだろう?あれだけ動いたんだ。久しぶりだったしね」

四人の中で一番動いていたチシャ猫は、身体は平気そうだが服がボロボロになっていた。元々そんなに綺麗だったわけではないが。

「ウサギ―。直せるかい?」

「大丈夫ですよー。はい、どうぞ」

ウサギが指輪をかざすと、チシャ猫の服が元に戻った。便利か。

「はぁ……思わぬとこで時間を食ってしまったね。急ごうか」

あれだけ動いた割に、チシャ猫はケロッとした様子だ。どんだけ体力あるんだ。

「休憩しようにも、ここは嫌だろう?もうちょっと行ったら、湿地帯は抜けるから、そこで休憩しよう。幸いにも、君がいいアシストをしてくれたから、そんなに疲れてないしね」

サラッと褒められた。悪い気はしない。

「分かった。そうしよう」

かくして俺たちは、先に進んだ。


「あー……結構歩いたな」

「お城までは結構距離があるからね。あともうちょっとだ、がんばれアリス」

小休憩を挟んで、再び進む。さっきの花がいたような湿地帯を抜け、だんだん地面が石作りの部分も増えてきた。コンクリートの地面に慣れている現代っ子にはありがたい。

「ところでアリス。ここまでで有罪者(ギルティ)について、何か思いついたい?」

「いや、残念ながら全く」

はかせの言っていた、この世界から出るための鍵、有罪者(ギルティ)。多分、登場人物の誰かが、この厄介な奴なんだろうが。

今のところ、さっぱり見当もつかない。

「……そうか。君でも、分からないか」

「ん?なんか言ったか?」

「ああ、いや。なんでもないさ。……そろそろお城が見えてきたよ、ほら」

チシャ猫の指さした先には、お城のとがった屋根があった。某ネズミの王様がいる遊園地にあるみたいな、典型的な西洋のお城だった。どっちかというと、日本のお城の方が好きだけど。

「ゴルフの音も聞こえるわね。……ゴルフってそんなに時間かかるの?」

「フルでやれば、丸一日かかると聞くよ。ボクはやったことないからわからないけど」

「うぇー、途中で飽きそうね」

「だから途中で止めるんだよ。飽きるし、結構体力使うらしいし」

チシャ猫とマッドハッターがそんな会話をしているうちに、どうやらお城の敷地に入ったようだ。境目のつもりなのか、石畳のデザインが変わった。……君主は男だって聞いたけど、デザインの趣味は女の人みたいなんだが。そこは目をつぶっておくべきところなのだろうか。

「君主に真っ向から会う必要はないだろうから、こそっと見て次に移ろう」

「?ああ、うん。別にいいけど」

「チシャ猫さん、君主に会うのはあまり好きではないですもんね」

「ちょ、ウサギ!余計なこと言わないでくれ」

なんとなくそうじゃないかなーとは思ってた。君主のところに行ってみるかと提案したのはチシャ猫だけど、その時の表情はあまり乗り気じゃなかったし。

「だってあの人、ボクが生首になっても死なないからって、ギロチンの試し切りにしようとしたんだよ⁉」

「思っていたより嫌いな理由が酷かった」

チシャ猫がほぼ不死身なんじゃないか説も恐ろしいが、その不死身の活用法が物騒すぎて泣くしかない。泣かないけどさ。

「つまり、物陰からこそっと見るだけにしといた方が安全ってことだな」

「あとはまぁ、お城の周辺の探索かな。何かヒントがあるかもしれないし」

「周りを探索するなら、城壁の外側を周った方がいいです。中を突っ切ってしまうと、庭のバラ園の迷路に巻き込まれてしまいます」

この中では、一番お城への出入りが多いだろうウサギが言った。

「抜け道があるので、ついてきてくださーい」

ゆるーい感じでそういうと、さっきまで先頭だったチシャ猫に代わって先を行く。オリジナルの不思議の国のアリスっぽくはある。

「ここのトンネルを抜けると、お城の裏側に出ます。私がいるので、皆さん関係者扱いでお城に入れるはずです」

「……なんだか今日は、随分シャキシャキした動きだね、ウサギ」

「そういうチシャ猫さんは、なんだか元気がないような気がします。……大丈夫ですか?」

お城に近づくたびに、チシャ猫の顔色は悪くなっていっている。

「ボクは大丈夫さ。……それより、急ごう。なんだか嫌な予感がするんだ」

被っているフードを深く被りなおし、チシャ猫はお城の方へと向かうウサギの後に続く。俺とマッドハッターもその後ろに続く。トンネルの天井は低くて、俺や案外背の高いウサギは、かがんで通らないと頭をぶつけてしまう。……トンネル自体はそんなに長くなく、五分もかからずに出口まで来た。

トンネルを出た先は、ウサギが言っていたようにお城の裏側で、台所の裏口っぽい扉が見えた。どうやら、あそこから入るらしい。

「ちょっと待っててくださいー」

ウサギはそういうと、扉の前にいたトランプ兵と何やら話始めた。数分後、どうやらオーケーだったらしく、手で丸を書いて示した。

「許可も下りたみたいだし、入ろうか」

「ああ。……ホントに大丈夫か、チシャ猫」

チシャ猫はトンネルを抜ける前よりも、さらに顔に色がなくなっていた。頭痛もするのか、眉間にしわが寄って痛そうな顔をしている。

「だーいじょぶだってば。ほら、急ごうアリス」

手を引かれ、慌ててついていく。うーん、どう見ても大丈夫そうじゃないんだけどな。

俺の手を握るチシャ猫の手は、さっきあれだけ暴れまくっていた人物とは思えないくらい、弱弱しかった。


「……なぁ、チシャ猫。お前の言ってた嫌な予感って、もしかしてこれだった?」

「違ったと思うけど、結果的に悪いことは起きたね」

現在地、牢屋の中。俺たち四人は、くっそ寒い牢屋の床に座ってたいた。

「まさか、あそこで君主の気まぐれに巻き込まれるとはね」

お城に入って数分後。ゴルフをやめて戻ってきた君主に遭遇してしまった。顔だけはくっそイケメンだった。爆発しろ。遭遇しただけならまだいいが、君主の気まぐれで何故か牢屋にぶち込まれた。意味がわからない。

「あれの気まぐれは、誰にも解明できないよ。多分」

かつて、ギロチンの試し切りにされかけたチシャ猫のいうことだからか、説得力があった。かれこれ閉じ込められてから一日以上たってるせいで、空腹による思考回路麻痺も疑われるけど。

「さーて、どうしたもんかな……」

「お困りのようじゃな、おぬし」

「ああ、そりゃまぁこんなとこに入れられたらねぇ……って、は⁉」

「あ、はかせだ」

「いやなんでチシャ猫は嬉しそうなんだ」

牢屋の外には、なんとあのふざけた芋虫フォルムのはかせがいた。

「ふぉふぉふぉ、そんなおぬしらにこれをやろう」

はかせがふざけた顔で渡してきたのは、鍵、だった。ここの牢屋のだろう。

「……なんで、あんたがこれを」

「必要じゃろう?」

「いるけどさ」

取りあえず牢屋の鍵を開けて脱出する。

「ありがとう、はかせ!」

チシャ猫はさっきまで顔色が悪かったのがウソみたいに、はかせが来てから元気になった。マッドハッターとウサギはいつものことだという風に、自分の服に付いたほこりを払っている。

牢屋から出してもらえたのはありがたいが。ここで俺は、ちょっとだけ何かが引っかかっていた。

 「……ありがとう。けれど、ちょっと聞きたいことがある」

 「ん?なんじゃアリス」

 はかせがこちらを向く。はかせに引っ付いていたチシャ猫もこちらを向く。

「はかせ。ここにどうやって入ったんだ?あと、鍵も。君主に逆らうことは禁止のはずだろう?」

俺たち四人は、「君主の命令」により、個々の牢屋に入っていた。

なら、はかせがやった俺たちを助ける行為は、「君主の命令」に逆らうことになるんじゃないか?

 「君主に逆らうこと」と、「殺生」が禁止られているこの世界で。

何故、はかせは俺たちを助けられた?

「君主に逆らうこと」をしても、なんの影響もないからじゃないのか?

その権利を持ちうるとすれば。

「……有罪者(ギルティ)は、あんたじゃないのか。はかせ」

よく考えれば、最初からおかしかったんだ。

何故、この世界と俺が住んでいる世界が違うことを、彼は説明できたのか。何故、有罪者(ギルティ)を見つければアリスが帰れるなんて話を知っているのか。

それに、もう一つ。

「……この世界の住民は、不思議の国のアリスをベースにしてある。性別は全員逆だった。……あんたを、除いてな」

アリスである俺自身が、まず男なのだ。この世界の設定上、登場人物はすべて性別逆転していなければならないはず。

なのに、はかせだけは。原作の設定そのままに、存在していた。

この世界の道理に逆らって、存在しうるという現状。それこそが、有罪者(ギルティ)たる証拠だ。

「……まさか、名推理をこんな薄汚い牢屋で聞くことになるとはなぁ。今回のアリスは、チシャ猫以来の規格外だったようじゃ」

そういってはかせは、チシャ猫の頭を撫でた。その様子は、とても穏やかで。とても――有罪者(ギルティ)なんて呼ばれるような人物には、見えなかった。

「正解じゃ、今回のアリスよ。私が、有罪者(ギルティ)だ」


お城から出た。はかせが、全ての種を明かすと言ったからだ

はかせについていくと、たどり着いたのは最初にチシャ猫に会ったリボンの木の下だった。

「この世界ができたのは、とある実験ためじゃった。私はその実験の被験体として選ばれた、死刑囚の内の一人じゃ」

はかせの話はこうだった。

今から数百年前、まだ科学と魔術が混在していたころ。とある町の監獄にいた死刑囚を対象にした、大規模な実験が行われた。

「永遠の箱庭(ノットエンドガーデン)」と名付けられたその実験の目的は、箱庭のように小さな世界を作ることだった。そこの住民として、選ばれたのが死刑囚たちだった。

この実験は、失敗した。当然だ。世界を作ろうなんざ、人間にできるわけがない。ところが、この実験。――半分だけ、成功していたんだ。

はかせが、たくさんいた死刑囚の中でも唯一、魔法に関して許容があったこと。ふざけた実験だったが、携わった魔術師が一流だったこと。この不幸が、中途半端な「永遠の箱庭(ノットエンドガーデン)」ができあがる要因になった。

そこに、住民として囚われれたはかせは――有罪者(ギルティ)として、関係ない人々をこの箱庭に誘い込む役者(プレイヤー)、にならざる終えなかった。

「この世界を終わらせるためには、ここに迷い込んだ者が全てに気づくこと。これが実験終了の方法じゃった」

だが、歴代のアリスは、有罪者(ギルティ)にたどり着けずに。ほかの役者(プレイヤー)としての役割を刷り込まれていった。チシャ猫やマッドハッター、ウサギは、歴代のアリスの内の一人だったという。

たくさんいたトランプ兵たちも、かつてはアリスとして迷い込んだ者の一人だったのだろう。

「君は、私に気づいた。これで、やっとこの世界は終わる」

「……チシャ猫や、ほかのアリスだった奴らは、どうなるんだ?」

「元々自分のいた時代に戻れるはずじゃ。まぁ、多少のズレはあるかもしれんがの。……もっとも、何百年も役者(プレイヤー)を演じたアリスもいる。元の自分に戻れるかはわからん。……無責任で申し訳ないが、私にはどうしてやることもできん」

「……そうか」

「心配しなくても大丈夫さ、アリス!」

声のする方を向くと、チシャ猫が笑っていた。

「戻ったら戻ったで、何とかなるさ。きっと、そんなもんだ」

チシャ猫。おそらく、アリスだった時も。その見た目に似合わない聡明さで、真実に近いところまで近づいたのだろう。だからこそ、彼女が与えられた役割が、チシャ猫だったのだと思う。

「それに、もしかしたら、ボクと君が生きている時代が一緒だったら。また会えるかもしれないだろう?君だけじゃない、はかせやウサギとも、きっとまた会えるさ」

チシャ猫は笑う。何も心配いらないと。

なら、俺は――それに応えなければ。

「はかせ。俺はどうすればいい?」

「簡単じゃ。……おぬし、最初に水色のリボンを拾ったであろう?あれを腕に巻いて、私を指させ。そして、言うのじゃ。お前が有罪者(ギルティ)だと」

ポケットに手を突っ込んで、出てきたリボンを腕に巻いた。

正面にいた博士を指さす。

「あんたが、有罪者(ギルティ)だ。――お疲れ様、はかせ」

パラパラと燃えた灰のように、世界が崩れていく。

俺は、ただ。その様子を、チシャ猫と見ていた。


気がつくと、自分の部屋だった。あの世界に迷い込む前にやってたゲームが、ログイン画面に戻った状態で投げ出されていた。……戻ってきたらしい。

ふと腕を見ると、水色のリボンが巻き付いたままだった。崩れる中で、これはどうやら残ったらしい。……きっと、これは。夢ではなかったという証拠なんだろう。俺はリボンを外すと、そっと机の引き出しにしまった。


――話が長いって?けど、結構面白かっただろ?そんな顔してるぜ。……あれから、チシャ猫には会えたのか、って?さぁ、どうだろうな。君の想像にお任せします、ってことで。

それじゃあ、俺の話はおしまい。信じるも信じないも、君の自由。まぁ、俺は……あの出会いが、ウソだったとだけは、思えないけどね。

 

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