七行詩 221.~240.
221.
満員電車に詰め込まれ
ぐしゃぐしゃの 空き缶にでもなった気分
人の海に 放り出され
空の風船を ドロドロの水で満たすようで
自分と同じはずなのに
まだ与えられた 真っ白な紙を
貴方達と 同じようには 染めたくない
222.
乗りかかる船の行き先は
変えられない 選べることがあるならば
終着点 放り出されるか
待ち構えるかの違いだけ
風が吹くところ 波は立つ
ピンと帆を広げ 乗り出せば
長旅も 君だけの素敵な航海に
223.
笑って会話が途切れたら
それはもう そのままでいい
静かに流れる時間さえ
同じテーブルで待てるなら
三分後に浮かんだ話が
夜通し続くかもしれないでしょう
貴方なら 待ってくれるような気がしたんだ
224.
この手には 過去を書き換えるペンはない
未来を変える 力もないけど
ほんとに小さな この種を
たくさん詰めた その箱を
運ぶ力さえあればいい
二人が選んだ 彼の地に植えて
思いの分だけ 水を注ごう
225.
一歩足りず 君が見送った列車が
終点に先に 着いたとしても
各停の 車窓から見えた あの雲を
その目に焼き付けられたでしょう
急ぐあまり 見過ごすけど
近道しか記さない地図は
宝の在り処を 教えはしないよ
226.
手にすべき たったひとときを 掴むため
いつもより若く 見せたっていい
少し背伸びしたっていい
君が見て欲しい自分を
自分でつかみ取れたなら
気高さに満ちた 振る舞いに
誰もがその目を 奪われる
227.
いつでもさよならは必要で
それはもう たくさんの場所へ
僕を連れってくれたけど
踵の破れたこの靴を
いつまでも履いてるわけにはいかない
さよなら、貴方は僕の翼
ありがとう この場所に 送り届けてくれて
228.
小さな二人が手を合わせ
やっと 完成したように思えた
一つの絵に 穴が空いたとき
ピースの欠けた そのパズルを
再び崩して 組み直そう
元の絵を思い返して
もう一度 当てはめていこう
229.
夜更けには 鏡もテレビもない部屋で
聞こえるのは 吐息と都会の騒音だけ
それらは絶えることもなく
その他に 煩わしいものは何もない
しんと張りつめた冬空の
月を見つめているような
美しく あなたは静かな光だった
230.
真冬の夜 凍える耳に 音はなく
静寂の世界は ゼロになる
町に厳しく 風は吹きこみ
広く 白く 染め上げても
膝を抱き 震える腕に 救いはない
或いは 迎えが来たならば
手を引かれ この身に雪は 降り積もる
231.
ただ一つ 強く 大きく 誇らしく
尊く 眩しく 美しい
貴方が見せた その夢の
僕は一人の観客で
貴方が辿り着いた場所に
溢れるよろこびに 立ち会えた
あの日 あの場所に 帰りたくなる
232.
夢の中二人のために 庭をください
百万本の 薔薇のベッドに 横たわり
並んで空を見上げたい
そして 光に 風に 空に 私に
包まれながら 目を閉じてください
そこで 私が どれほど大切に思うか
あなたはようやく 知るでしょう
233.
冬の夜 空は凍えて 泣いていた
灯りを探し 貴方のもとに辿り着けば
幸せという 小さな屋根の 軒下に
もう人は入れないから、と
すかさず僕を 突き放した
これから何度も そういう目に遭うだろうな
だから貴方を 僕は絶対に忘れられない
234.
年末 誰と過ごしましたか
ふるさとは 貴方を迎えてくれましたか
週末 何をしてますか
中央線の 人混みの中で 会えますか
今 どんな顔をしてますか
悪い癖で 悩んで泣いては いませんか
ではいつの日か もう一度だけ会えますか
235.
貴方の手にある 苦悩と栄光までも愛し
傍に居ることを 誓います
躓いても たとえ病に倒れても
私は貴方を 求めるでしょう
貴方の再起を 求め 支えとなるでしょう
素晴らしい 貴方が 貴方で居るために
そこに私が必要でしょう
236.
辛いことも 無理難題も 受け止めて
貴方は 投げ出すことはなく
いつも懸命に 取り組んでゆく
そんな 貴方の一つの試練として
いつか私を 見つめてください
その真剣な眼差しで
正しい答えを 導いて
237.
立ち止まらず 堂々と胸を 張りなさい
次々と電車を 乗り継いで
この場所という 駅で降りた
お気に入りの靴を 履き替えて
この場所へ 辿り着いたから
たとえ上手く行かないときだって
僕たちは 留まってなんか 居なかったよ
238.
"はじまり"は 自分が自分にあげられる
一番の贈り物だとしたら
自分が自分に 課せられる
一番の試練だとしたら
与えましょう 来るべき未来のためだけに
積み上げましょう 届かぬ場所にある旗を
つかみ取るための石段を
239.
わけもなく 全てが理由で あるように
私は貴方を見つめます
それが悲劇の始まりだろうと
全てがまやかしであろうと
私の立つ瀬に 踏み入れるのは貴方だけ
ここで貴方を待つためなら
孤独さえ 喜んで迎え入れましょう
240.
理想こそ この手が最期に 縋るもの
それは誇りなどではなく
貴方の肩を借りられず
この身を支える 一本の杖
古小屋を打つ 吹雪の中で 身を寄せた
屋根を焼くほどの 力もない
小さな炎に 過ぎないのだ